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スタンダードのテーマ演奏もインプロも変わらない

――即興に対して、高橋さんはどんなイメージをお持ちですか。

「ジャズはインプロヴィゼーションの音楽なので、僕はスタンダードナンバーを演奏するときでも即興的でありたいと思っていて、気分的には何をやってもあまり変わらないし、変えないように心がけています」

――例えばスタンダードナンバーを演奏するときでも、〈ここまでテーマをやりました、続いてここからアドリブをいきます〉と切り替えるのではなく、ひとつの流れとして……。

「ひとつの曲として、テーマも即興的に歌われるべきものだと思います。その曲のテーマだからもちろん大事にするけれど、それを保ちつつ、〈はい、ここからアドリブです〉と急に変えることはせず、同じ気持ちで演奏する。

昔、書店でバイトしているときに、よくジャズのBGMがかかっていたんです。アメリカのあるサックス奏者が、テーマを吹き終わった瞬間、アドリブのパートにきたのがとても嬉しいっていう感じで、バーッと吹きまくったんですよね」

――テーマ演奏とアドリブ演奏の間で、世界が分断されてしまうような。

「8時間のシフトだったんですが、音源が1時間単位でループするので……」

――勤務中、毎日7〜8回はそれを聴くことに。

「それがすごくきつかったんです(笑)。しかも音源は月1回しか入れ替わらない。

〈テーマが終わった、よしアドリブだ!〉みたいな風にはなりたくないんですよね。もちろんそういうプレイもアリであって、単に僕はそうではないというだけですけれど」

――演奏というものは、例えば最初の音をガンッと鳴らしたときに、ある意味終わりに向かって進んでいくわけですよね。着地点のようなものは、その時点でもう見えているのでしょうか? 

「はっきりと見えているわけではなくて、〈何となくこうしたい〉という感じでしょうか。そう思いながら弾き始めたのに、最終的にちがう方向に行ったり、弾いている間に流れが変わっていくこともよくありますが、〈それはそれでいいよな〉と思います。そもそも何もかも用意したら即興ではなくなっていきますし」

――例えばしゃべる場合、自分の言い回しとか口癖がどうしても出てくるところがありますが、それは演奏の場合でも……。

「今回の作品を聴き直して〈似たようなことを弾いてるな〉と思う箇所がないわけではありません。でも逆に、それはそれでアルバムの一体感が生まれていいのかもしれない、という気もしています。バラバラなものを寄せ集めた感じがしなくなるかもしれませんからね。ちがう物語でも語り手が同じことによって統一感が出るのと同じで」

――しかもこのアルバムは、フリー方面の即興ではないですよね。

「そうですね。もっとも、僕自身はアバンギャルドなものを熱量をもって形にしようとするフリージャズのかっこよさには影響を受けていますし、セシル・テイラーなんかはかなり聴きました。去年は彼のバンドメンバーであったチェロ奏者のトリスタン・ホンジンガーとも共演して、即興で何かを進めていくときの精神の強さに感銘を受けました」

――トリスタンは来日のあと、すぐ亡くなってしまいました(2023年8月5日、イタリアのトリエステにて死去)。とても残念です。

「亡くなったのは、僕が東京で共演してから1ヶ月後だったと思います。一緒に演奏できたのはかけがえのない経験です」

――即興の話に戻しますと、バンドで演奏するときは、例えば他の演奏家のプレイに触発されて新しいフレーズが出てくることもあるかと思います。ソロの場合はどうなのでしょう?

「もちろんその種の刺激はありませんが、逆にソロは自分の行きたいところにすぐ行けるので、小回りがきくという面白さみたいなものがありますね」

――今回はアトリエでのレコーディングですから、雰囲気もスタジオとはちがうと思います。そういった環境は演奏にも関わりがありますか?

「あると思いますね。じっさいアイデアが出てこないなっていうときに、アトリエを見回しながら弾いていた記憶もありますし。僕はスタジオよりこういう変わった場所で演奏する方が好きかもしれません」