その眼差しの先にあるのは、愛すべき地元と豊かで穏やかな日々の営み、そして音楽を成長させ続ける己の未来――最新型の『Plan G.』に刻まれた3人の計画とは?

 「ファンの期待に応え続けるのはすごいプロフェッショナルなことだけど、それで納得しないのがこの3人。要はトレンドに限らず世界の音楽が常に動いているなかで、いい音楽を追求する人たちがどこに向かっているかってことに対するアンテナの立て方だと思うんですよね」(HUNGER)。

 歳を重ねれば重ねるほど、みずからの枠に囚われがちになるのが人の常であって、GAGLEの3人はその枠を打ち破るべく音楽に力を傾けてきた。外部の制作陣も迎えた自由闊達な前々作『VG+』や、ジャンルを越えたサウンドをDJ Mitsu the Beatsらしい音のこだわりとともに昇華した前作『Vanta Black』もまた、発表までに時間を要したものの、キャリアを重ねてなおグループ像を更新し続ける彼らの意欲の表れにほかならなかった。HUNGERに続きMitsuが口を開く。

 「結局、最終的には自分たちがいかに納得できるカッコいいものを作れるか。こういうのを聴きたい人がいるんじゃないかとかそういう判断は二人に任せて、僕はホントにただ集中していろんなタイプの曲を量産して、カッコいいと思うトラックができたらGAGLE用に取っとくっていう作業をずっと続けてるだけなんで」(DJ Mitsu the Beats)。

 個々の動きを挟み、前作から約6年半ぶりとなるグループ7作目のアルバム『Plan G.』でも、新たな音楽に向かう彼らのスタンスは不変。一音一音研ぎ澄ませたその清冽な音作りとラップ・スキルはここでも健在だ。曲によってはSEや音の要素にHUNGERの遊び心を反映したものもあったそう。音のアイデアを数多くMitsuと共有したDJ Mu-Rは言う。

 「『Vanta Black』の時期はテクノやベース・ミュージックを一緒に聴いて影響を受けていたけど、そこを経てサンプリング主体に戻ったうえで、昔とは違うニュアンスでジャズ・ネタを使うなど、ここ数年のMitsuさんからは進化を感じていて。新作でも一段上のレヴェルを提示できたんじゃないかなと」(DJ Mu-R)。

GAGLE 『Plan G.』 松竹梅レコーズ(2024)

 HUNGERのユーモラスなワードプレイやフロウが初期のスタイルを彷彿とさせる“壁|壁”、Mu-Rのスクラッチをサビに配し三位一体で見せる“Krossfader”、パーカッシヴなビートがシンプルに響き渡る心地良い“BFFB”、絡み合う音のディテールと音響的な懐の深さが、思いを繋ぎ留めるリリックを重層的に響かせる“隅っこ暮らし”……近作からの揺り戻しを見せながら、従来のフォーマットへの回帰さえもフレッシュに聴かせる前半~中盤から後半へと向かうにつれ、アルバムは地元での生活や人との繋がり、それらと地続きな日々の営みを映すものに着地していく。仙台三越90周年記念オフィシャル・ソングとしてオファーされ、ずっと見てきた商店街の歴史に市の歴史もふまえ、いままでと違う視点で仙台を俯瞰する曲“千代”や、発生から10年を経てなお残る、東日本大震災が心に刻んだ爪痕へと思いを寄せた“I feel, I will”など、足元を見つめるその視線が、より普遍的な音と共に実を結んだ。Jazzy Sportからのリリースではなく、本作が自身のレーベル、松竹梅レコードからの発表となったことと併せて、これまでにも増して地元に深く根を下ろした在り様も見てとれるそれらは、特にHUNGER個人の人としての成熟を映すが、新たな音楽を模索するGAGLEの歩みがそれで止まるはずもない。

 「20代の時は50歳でビートメイカーを続けてるなんて想像できなかったけど、曲を作るってことは一生のことなんだなといまは思う。この歳までずっとやり続けてきて、今回さらに一皮剥けた完成度で自信を持って〈いいの出来たよ〉って言えるアルバムになったのがすごく嬉しいし、GAGLEを聴いたことない人も一回触れてみてほしい 」(DJ Mitsu the Beats)。

 「ファースト・アルバムを出したぐらいのときに〈ヒップホップは成長できる音楽〉だと言ってたと思うんですけど、自分がちゃんと向き合ってれば成長がずっと続くっていうことを昔の自分に言いたい。大変なこともあるけど、それを含めて人生みたいなもんだし音楽だなって思う」(HUNGER)。

 「いま作ってるデモがまた驚きで。いろんな音楽を聴いてきたし、それゆえに若いときよりも自分たちの音を厳しい目で見ちゃうところで、〈この域に行ったか〉という感じなんです。さらにヒップホップを越えたところで勝負できるんじゃないかなと思うし、GAGLEをひとつのジャンルにもっと押し上げていきたいですね」(DJ Mu-R)。

GAGLEの作品を一部紹介。
左から、2018年作『Vanta Black』、2014年作『VG+』(共にJazzy Sport)、GAGLE × Ovall名義での2012年作『GAGLE × Ovall』(ビクター)、2002年作『3 MEN ON WAX』(ファイル)

メンバーの作品や近年の参加作を一部紹介。
左から、DJ Mitsu the Beatsの2022年作『MAGNETAR』(Jazzy Sport/Village Again) 、HUNGERの2020年作『舌鼓』(松竹梅レコーズ/Jazzy Sport) 、梅田サイファーの2024年作『Unfold Collective』(ソニー)、Keycoの2021年作『あいいろ~Keyco 20th Anniversary Album~』(Indigo Hz Studio)