強力な磁力を持ったビートは多彩な才能を引き寄せる――国内外から多くのラッパーを迎え、改めての〈名刺代わりのアルバム〉と語る傑作はどのようにして生まれた?

うまくいかない感じがあった

 歌モノを中心に聴かせた『ALL THIS LOVE』の発表から約2年半。その間に数枚のビート・アルバムや、この春の金子巧(cro-magnon)とのアンビエント作『Floating』を挟んでDJ Mitsu the Beatsが完成させた新作『MAGNETAR』は、ソロ作としては久方ぶりに内外問わずラッパー勢を客演に集めたアルバムとなった。これまでほぼ日課ともいえるペースでビートメイクを続けてきた彼だが、本作の制作では思うに任せぬ日々もあったという。2018年頃に始まったアルバムの作業が結局3年近くに及んだのも、つまりはそういうことだ。Mitsuが語る。

 「365日、毎日ビートを作ってるつもりなんですけど、今回は精神的な浮き沈みがあって、作ってるようで作ってない時期が1年ぐらいあった。コロナの影響もダイレクトにあって生活的にも厳しかったし、ホントにモヤッとしてるっていうか、いろんなことがうまくいかない感じがあったんですよね」。

DJ Mitsu the Beats 『MAGNETAR』 Jazzy Sport/Village Again(2022)

 いわばそんなスランプの時期を彼が脱したのもやはり音楽のおかげだったよう。「あんまり意識してはないですけど」と断りつつ、抜け出すきっかけは「誰かの曲を聴いてた時」にあったと彼は言う。

 「grooveman Spotも新しいことやってたり、みんなが新しい動きしてるって聞いて、このままじゃダメだなと思ったのもあるんですよね。自分にもやれることあるんじゃないかなみたいな」。

 時を同じくしてサンプリングへの意識を変えさせられる出来事があり、ライセンスフリーの音源を提供するサービスのTracklibやSplice Soundを使いはじめたことも、あるいは彼が気持ちを切りかえる助けになったのかもしれない。ただ、それでもアルバムに向かう姿勢には変化がなかったそう。「普通のことですけど、ソロは自分がいいと思ってる曲で作るっていうことがいちばん」とMitsuの話は続く。

 「GAGLEで曲を作る時は他の2人の意見を訊くし、誰かに曲を提供する時もそうだけど、ソロのアルバムはいつも、どんなタイプの曲でも入れたいっていうのがあるし、この曲をやりたいっていうのを誰にも阻止されずできる唯一のプロジェクトなんで、その線は変わらずですね」。