YonYon
 

韓国にルーツを持つNY在住のDJ/プロデューサー、イェジがXLレコーディングスと契約し、最新ミックステープ『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』を発表した。2017年に発表した2作のEP『Yaeji』『EP2』を契機にダンス・ミュージックの寵児となった彼女にとって、本作は初のフル・レングス作。韓国語と英語をフラットに横断するヴォーカル、呪文のようなメロディーとチルな空気感、ローファイなハウス・ビートといった持ち味はそのままに、韓国のインディー・ロックや90年代後半〜2000年代初期のヒップホップ/R&Bなど彼女のルーツを掘り下げながら、アルバム単位だからこその表情豊かな音世界を描いている。

それ以上に興味深いのは〈友人、家族、感謝と支え〉という本作のテーマ。『WHAT WE DREW(私たちが描いてきたもの)』というタイトルについて、「私が支えられたり、私が支えたり、そしてお互いを支え合うということ」とイェジは説明している。最近ではチャーリーXCXと共作したり、ロビンなどのリミックスを手掛けたりしてきた彼女だが、ずっと待たれていた〈次の一手〉となる本作では大物アーティストを外部から招くのではなく、結束の強い身近な友人たちを迎え入れ、豊かなコラボレーションを見せている。

そのなかの一人が、ソウル生まれ東京育ちのDJ/シンガー・ソングライターのYonYonだ。KIRINJIやSIRUP、向井太一などとのコラボでも知られる彼女は、後述するようにイェジとは長い付き合いで、お互いに信頼し合う仲だという。そこで今回は、イェジの素顔と最新作の聴きどころについて、彼女をよく知るYonYonから語ってもらうことに。韓国・NY・日本のトライアングルで育まれた友情は、どのように実りを結んでいったのだろうか。

YAEJI What We Drew 우리가 그려왔던 XL(2020)

 

中学校時代のイェジの印象

――YonYonさんとイェジさんは中学時代の同級生だったんですよね。どんな学校に通っていたんですか?

「日本にある韓国系の私立学校です。教育カリキュラムは本国にある一般的な学校と同じもので、在日韓国人や仕事や何かしらの事情で日本に住んでいる韓国人が通っています」

――ウェブ・マガジンの〈&M〉のインタビューで「中高一貫校で、韓国の超一流大学を目指す人たちが集まっていました。韓国では命を賭けて大学受験に挑む人たちがたくさんいるから、その人たちと競わなくてはいけなかった」と話していましたよね。

「ウチの学校が凄いというか、韓国はマジで教育がやばくて。授業が17時とかに終わるじゃないですか。そのあと夜の21時過ぎまで自主学習するんですよ。強制じゃないけど、みんないるから自分らもやる、みたいな。なので塾に行くか、バイトに行くか、自主学習するかの三択しかなくて、(当時は)あまり遊べなかったですね。イェジちゃんとは中学のときに同じクラスになって、お昼休みに一緒にお弁当を食べたりしていました」

――中学時代のイェジさんはどんな感じでした?

「昔のことだから記憶が定かではないけど……とにかく声がめっちゃ可愛かった。当時から天使のような声で、クラスメイト全員から可愛い、声がやばいって言われてましたね。本当にいい子だし優しいし。あと、その頃から絵を描くセンスがあった」

――なんとなく中学時代のイェジさんが目に浮かびます(笑)。そのあとは?

「彼女は2年くらいしかウチの学校にいなかったんですよ。もともとNY生まれで、ご両親の仕事の都合で日本に来たけど、そのあとは韓国にあるインターナショナル・スク―ルに転校して、そこからアメリカの大学(ピッツバーグのカーネギーメロン大学)に進んだという流れだったはずです」

――その間も連絡は取り合ったてたんですか?

「高校生の頃はお互い学校のことなどで精一杯だったし、そこまで連絡を取り合ってはいなかったですね。密接に連絡を取るようになったのは、お互いが大学に入ってから。彼女はアメリカの大学でアートやデザインの勉強をしていたけど、大学の地下にあるラジオ局(WRCT)のコミュニティーに入って、そこからDJや音楽活動に興味をもつようになったそうです。

それから、私がNYに初めて遊びに行ったときに、彼女がいるのを知っていたので自分から連絡を取った気がします。その頃には、イェジもトラックメイクをやり始めていて、家に白のYAMAHAのスピーカーとMIDIコンやキーボードがあったのを覚えています。彼女もよく日本に遊びに来てくれて、時間が合うときにはご飯に行ったりするようになりました」

イェジ
Photo by Dasom Han

 

韓国のクラブ・シーンが育んだ個性的なDJスタイル

――お二人がDJとして活動していくなかで、韓国のクラブ・シーンから受けた影響も大きかった?

「自分にとってもイェジにとっても結構大きい気がします。いまから5~6年前の韓国のクラブ・シーンはちょうど過渡期だったのもあって、何でもアリだったんですよ。ヒップホップでもハウスでもテクノでも何をかけてもよかった。なかでも(影響力の)大きかったクラブがCakeshop。そこで流れているジャンルやサウンドもすごく好きだったし、いち早くUKの最先端の音楽がかかったり、すごく尖った音がランダムで流れていた。私もごちゃ混ぜなプレイをよくするけど、それはCakeshopで培ったものです。自分もそこでプレイしたいと思ったから、尖った音楽を人一倍掘るようになりました」

――YonYonさんがイェジさんを取材したFNMNLのインタビューで、彼女が「実はYonYonちゃんのDJスタイルにもかなり影響を受けたんだよね。数年前、Cakeshopでのプレイを初めて観た時、ボーダーレスに素早く色んなジャンルをミックスするスタイルが当時は新鮮だった」と語っていたのはそんな背景があったんですね。

YonYonのCakeshopでのDJ(2015年)
 

「そうですね。イェジちゃんが私のプレイを観たのは、彼女がDJを始めた頃の話で。彼女曰く、当時のNYのアンダーグラウンド・シーンでは他ジャンルを混ぜてミックスするのがタブーとされる雰囲気が残っていたみたいで、韓国のCakeshop等で流れる最先端な音にずっと興味を持っていたそうなんです。ちょうど彼女が韓国の実家に帰っていたタイミングで、私がCakeshopでプレイする日があったので、一緒に来てもらいました」

――逆にYonYonさんから見て、イェジさんのDJはどんなふうに映ってます?

「アメリカが拠点だからなかなか観る機会がなくて、2年前の渋谷WWWで初めて観たんですけどめっちゃカッコよかったです。基本、BPM130前後でプレイするんですけど、ジャンルレスに四つ打ち以外でもかけるし、選曲の流れにストーリーがあって、DJもかなり上手い。それになおかつ、自分の曲があるというのがすごく強い。彼女はDJしながら歌うんですけど、そうやって歌うのもDJプレイの一環という感じがします。あれは彼女にしかできないことだなって」

イェジのNYでのDJ(2017年)
 

――僕も去年の〈フジロック〉で観たんですけど、もはやDJと呼ぶべきかわからないくらい歌ってました。ああいうスタイルの人は韓国でも珍しいんですか?

「いまはちょいちょい増えてますね。ニューカマーで言うとパク・ヘジン(Park Hye Jin)。彼女はDJ、SSW兼ラッパーという肩書きを持っているんですけど、彼女も若くしてオーストラリア/メルボルンのレコード・レーベル、clipp.artからEPをリリースして、そのあとは活動の拠点をロンドンに移して。確かいまはLAに住んでるんじゃなかったかな。そんなふうに、プロデュースができて歌えるDJの子は韓国国内に留まらず、ワールドワイドに活躍しています。いまはベルリンを拠点に活動しているペギー・グーもそう。彼女はプレイ中は歌わないけど、音源では歌ってますし」

パク・ヘ・ジンの2019年の楽曲“I Don't Care”

 

私たちが韓国語で歌う、それぞれの理由

――イェジさんは“Drink I'm Sippin On”(2017年)で大きくブレイクした印象ですが、あの曲を聴いたときはどう思いました?

「〈クゲアニヤ~〉の曲ですよね。立ち上がって間もない頃の88risingから、早い段階でピックアップされて、アジア人アーティストとして一旗上げましたよね。まさか、あんなビ―トを出してくるとは思わなかった。彼女が過去にリリースしてきた楽曲の流れからみてもっとBPMが早い感じでくるのかなと思ったら、むしろハ―フにしてきたじゃないですか。

これは私の勝手な推測ですけど、ちょうどトラップが流行ってた時期だったし、イェジちゃんはジャンル関係なく音楽を聴いていて、ヒップホップやR&Bも超好きな子なので、それを自分の作品としてアウトプットする(ベストな)タイミングをわかっていたんだと思います」

イェジの2017年の楽曲“Drink I'm Sippin On”
 

――イェジさんが韓国語と英語を自由に行き来するスタイルは、欧米のリスナーにとって新鮮だったと思うんですよね。YonYonさんの場合はさらに日本語も織り交ぜていますけど、言語やカルチャーをミックスさせるというのは自分たちの表現にとって重要だと言えそうですか?

「そうですね。ただ、イェジちゃんと私はちょっと目的が違っていて。FNMNLで私が彼女にインタビューしたとき、なぜ韓国語と英語をミックスするのか質問したら当時は〈歌詞を秘密にしたかったから〉と答えていて」

――「曲を作り始めた時には、内容を他の人に知られるのが恥ずかしかったから、自分だけがわかるように韓国語で詞を書いていた」と話していましたね。

「もともと、パーソナルな表現として韓国語だけで歌詞を書いてるうちに、周りのアメリカ人の友達にも理解できるよう、自然とブレンドするようになったと思うんですよね。でも私の場合は、〈The Link〉という楽曲制作プロジェクトをやるにあたって、自分の音楽を日本のリスナーにも韓国のリスナーにも聴いてほしかったので、最初からわざと混ぜたんですよ。私は歌詞を聴いてほしくて韓国語を混ぜたのに対し、彼女は歌詞の意味を隠すことによって、韓国語の発音の美しさを際立たせ、リズム(楽器)として取り入れたんだと思います」

〈The Link〉の第2弾として発表されたYonYonとSIRUPとの共作曲“Mirror(選択)”

 

〈韓国人〉としての自分を表現した新作

――同じ国ということで一括りにするのは乱暴かもしれませんが、近年ではイェジさんからBTSまで、〈韓国らしさ〉を保ったまま世界で評価されていますよね。そこは日本の音楽シーンも見習うべきだと思いますが、どうしてそれが実現できたんでしょう?

「それはたぶん、世界に出て行きたいという強い思いがあるから。でも、同じジャンルでそのまま勝負しても絶対に勝てないじゃないですか。だったら自分たちの文化を大事にして、海外の音楽も上手く取り入れつつオリジナリティーで勝負しようっていうのは、わりと自然な考えだと思います」

――そういう発想はイェジさんの音楽からも感じます?

「いままでは直接的に感じなかったけど、今回のミックステープに関しては、〈バックボーンが韓国人であることを大事にしたい〉という気持ちを作品全体で感じ取ることができます。例えば、新しく公開された“WHAT WE DREW 우리가 그려왔던”のミュージック・ビデオはソウルで撮影されていて、最初に登場するのはイェジのおじいちゃん(笑)。登場人物も、撮影に携わっているほとんどのスタッフが韓国人の友人だけでDIYに作っています。

映像のなかでは、カンガンスルレという古代韓国舞踊をモチーフとしたシーンや、ゴムとびをしているシーンがありますが、どれも伝統的な韓国の遊びですよね。頭にタオルを巻いて、サウナで友達と時間を過ごしたりするのも現代の韓国風景の一部です。

『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』表題曲
 

音楽的にも、これまでとは違ってハウス・ミュージックの枠を超えて、ひとつのジャンルには括れない自由な表現をしていますよね。彼女が聴いてきた韓国のインディー・ロックの要素だったりを上手く取り入れてるんだろうなって、なんとなく伝わってきます」

――他にもリスナーとしての立場から気になった点は?

「全体的に、韓国語の歌詞の割合が増えた。なおかつ、超シンプルなんですよね。同じ単語をひたすら繰り返している。メッセージを強く伝えたいからなのか、それとも韓国語がわからない人でもリズムとして共感しやすいようにしたかったのか。彼女の意図はわからないけれど、すごくシンプルだなと思いました。どうしてそうしたのか個人的にも訊いてみたいです。あとは音像的に、ダ―ク要素が増えた感じがします。なんか……暗い!」

――(笑)。

「悪い意味で暗いんじゃなくて、クールさが増したというか、カッコイイという意味で暗い」

――たしかに。これまではもっとフワッとした感じというか。

「そうそう、ソフトで可愛いイメージが強かったけど、今回はそれもしっかり残しつつ、攻めるポイントがはっきりしていますよね。本人はミックステープと言ってるけど、ある意味で初めてのアルバムじゃないですか。アルバムだからこその良さがちゃんと入っている。

例えば、1曲目の“MY IMAGINATION 상상”と最後の曲“NEVER SETTLING DOWN”のコード感が一緒なんですよ。だけど“NEVER SETTLING DOWN”に関しては、曲の終わりの方で一気にドラムンベースっぽく展開してインストで終わっている。フワッと終わらせるんじゃなくて、強めのサウンドで終わらせてるのも何か意図があるのかなって。

『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』収録曲“NEVER SETTLING DOWN”
 

それに、ヴォーカルのミックス・ワークも凝ってますよね。同じ歌詞でも最初のヴァースと2番目とでは使ってるエフェクトが異なっていたり。私がヴォーカルで参加した“SPELL 주문”のレコーディングでは、最後のアウトロの部分って本当は2倍速で歌ったものを送ってたんですよ。それがまさか仕上げの段階で超スロウになるとは思っていなかったです。本当に細部まですごくこだわっていて。めちゃくちゃ努力したんだろうなといういうのが、ひしひしと伝わってきます」

――オートチューンやピッチ・シフトも駆使することで、柔らかい歌声がより表情豊かになった気がしますね。音楽性のレンジは広がってるけど、これまでの魅力は失われていない。

「しっかり延長線上で、新しいことにチャレンジしてるのがわかりますよね」

 

自分が属しているコミュニティー=〈家族〉

――〈友人、家族、感謝と支え〉が本作のテーマになっているそうですが、その辺りについては?

「すごいわかる。今回のミックステープに参加したゲスト陣は、すべて彼女が属しているコミュニティーの面々や、友達だけで構成されています。歌詞にも、彼女の日常が描かれていますけど、普段からイェジちゃんは自分が属しているコミュニティーを〈家族〉とよんでいて。彼女は周りの人への感謝の気持ちを忘れないし、それが言葉にも行動にも出てるんですよ。自身が一人のアーティストであることが周りにどういう影響を与えているのか、普段から慎重に考えているんです。

例えば、彼女は絶対にブランドさんとはタイアップしないんですよ。以前、日本でとある大きめな企画のオファーを提案したときに、〈こういう話があるんだけど、イェジちゃんどう?〉みたいに誘ったら、〈ブランドさんと一緒にやることで、自分以外の違う色がついてしまう。私は、自分と自分の友達だけで音楽をやりたい〉と丁重に断ってくれたことがあって。そこで私もハッとなって、原点に立ち戻ることができたんですよね。

SNSの普及によりインフルエンサー・ビジネスが活発になってから、流行りのブランドさんと一緒にやれるのがクールとかイケてるとか見られる傾向があるけど、それって本末転倒だなと思って。イェジがいかに、家族と友達を絶対的に大事にしているのかがよくわかりました」

――普通は満を持してのフル作、それも欧米の有力レーベルからのリリースとなれば、アメリカやイギリスの大物アーティストを招いたりしそうなものですが、『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』に参加しているのは彼女の周辺にいる新鋭アーティストばかりなんですよね。そういう筋の通し方も、いまの話と関係あるのかなと。

「そうかもしれない。もし大物アーティストとコラボするにしても、自分の曲としてはやらないんじゃないかな」

――チャーリーXCXに呼ばれたら一緒にやるけど、その逆はないというか。

「そうそう。周りの仲間たち(コミュニティー)と一緒に大きくなれたら、それが彼女にとっていちばんの幸せなんだと思います。すでにネームのデカイ人と一緒にやりたいという欲はないんじゃないのかな」

『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』収録曲“THE TH1NG”。トロント出身のアジア系ドラァグ・アーティストのヴィクトリア・シンと、ロンドンのプロデューサーであるシャイ・ワンをフィーチャー

 

YonYonが“SPELL 주문”に込めた現代日本への警鐘

――そのなかで、YonYonさんは友達の一人として本作に参加しているわけですけど、“SPELL 주문”という曲を一緒にやるまでにどんな経緯があったんでしょう?

「最初はまず、私の〈The Link〉プロジェクトにイェジちゃんを誘ったんです。去年の夏にその話をしたら、〈今回は参加できないけど、いつか私の曲にYonYonちゃんに歌ってもらいたいと思ってるから待っててね〉と言われて。それでしばらくしたら、去年の秋頃に本当に連絡がきたんです。〈YonYonちゃんに似合うトラックができたから一緒にやらない? YonYonちゃんが歌ってる、あの曲のあの感じが絶対に合うと思うから〉って。

そのときはアルバムの収録曲とは言われてなくて、デモの時点で(トラックは完成刑と)ほとんど変わらない感じだったんですけど、最初に聴いたとき、すごくいま風で新鮮だなと思いました。当時、DJ界隈ではBPM130を超えるテンポの早いハウス・ミュージックが流行っていて、“SPELL 주문”もBPMが130になるんです。これはぜひやらせてくださいって」

――〈あの曲のあの感じ〉というのは、どの曲のことですか?

「“Period”(2018年)という向井太一くんと一緒にやらせてもらった曲で、そこでの優しい感じのラップがいいな―って言われました」

YonYonと向井太一との共作曲“Period”
 

――“SPELL 주문”では、どんなことをラップしようと考えました?

「これに関しては、実は最初にイェジちゃんから注文があって。この曲のトラックを作ったときに、浮かんだ彼女のアイデアをまず共有してくれたんです。それはアルバム全体にも繋がる話なんですけど、〈自分がライブしているときって、お客さんの前で、自分の日記帳をおまじないのように唱えてるみたいなんだよね。その感じを歌詞にできたらいいな〉と言われて。それについては、私も共感するものがあった。

歌詞はあるとき一瞬で思いつくものだけど、その一瞬を迎えるまでに自分が歩んできた人生のすべてが歌詞に反映されるわけじゃないですか。私も普段、歌詞を書くときのために、何か印象的な出来事があった日には、具体的にどういうことがあってどういう感情を感じたのか、iPhoneのメモ帳に書き留めるんですけど、それってある意味、日記に近いところがある。彼女はたぶん、それを言葉にしたかったんだと思う」

『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』収録曲“SPELL 주문”
 

――なるほど。YonYonさんのリリックは、いまの社会について思うことから出てきた言葉なのかなと勝手に想像してました。

「普段から日記やメモ帳に書き留めてる言葉をもとに、いま私がライブするならこういうことを伝えるだろうなとイメージして書きました。この曲の歌詞は2種類の視点があるんですよ。まずイントロの部分では日記を書くまでの経緯、ライブ会場に向かうまでの心境を描いていて、ヴァースのラップの部分では私が日記に記していた、いま伝えたいことをそのまま表現してるんです。イェジちゃんの注文も上手く取り入れつつ、自我も出したかったので。アウトロの韓国語の部分は、ライブをしているその〈瞬間〉。オーディエンスと時を共有するということを描写しています」

――〈そもそも歪んだ価値観 確かめる夜/みんな閉じ込められてること そもそも気づいてない/ひとりの小さな一歩で 誰かの大きな道を 照らすことできるなら 真実を伝え続ける〉というヴァースの言葉がどこから出てきたのか、教えてもらえますか?

「いままでは何気なくニュースを見ていて、そこで伝えられたことをそのまま鵜呑みにしてたんですけど、新しく出会った友達の影響もあって、いろいろ掘れば掘るほど〈メディアの情報ってめっちゃ偏ってるじゃん、でも誰も気づいてない!〉と思うようになったんです。もしかしたら、そのことを気づかせるのが自分の役割じゃないかと考えはじめたときに、そういう言葉が出てきたんだと思います。

目の前のことにいっぱいいっぱいになってしまいがちだけど、もっと大きな視点で物事を見ていかないといけないなと思って。生きていくうえで本当に大事なものとは何か。大事なものを守る為には、どういう行動をしていくべきなのか。真剣に考えるようになったんです」

――この日本語でのラップが世界にどう届くのかも興味深いし、日本に住む人々にとってもしっくりくる言葉だと思います。

「特にいまがそうかもしれないですね。この時期にこの曲が世に出たことには何か意味があるのかもしれない」

 

イェジとYonYonの未来

――この『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던 』を出したあと、イェジさんはこれからどうなっていくんでしょうね。

「XLという名門レーベルからのリリースって相当凄いことですよね、よりオフィシャルな形で世界に認められたってことじゃないですか。だからきっと、彼女はこれまで以上に忙しくなるだろうし、大変になってくると思う。だけど、さっきも言ったように、彼女のなかにしっかり芯があるので全然心配してないです。むしろ、(存在感が)大きくなればなるほど、彼女が伝えたい家族や友達の大切さというのが、よりたくさんの人に響くわけですから。イェジちゃんは自分の役割を全うすると思います」

――その一方で、YonYonさんはどんな活動をしていきたいですか?

「私はこれまでずっと〈BRIDGE〉――架け橋のような人生を歩んできたんですよ。生まれは韓国、育ちは日本という時点でトリッキーというか。DJとしても、最近は韓国で活動していたときとだいぶ選曲の雰囲気が違ってきていますけど、アンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドを繋ぎたいと常に思っているし、シンガーとしても日韓のみならずアジアを繋いでいきたい。さらに、裏方としてイベントの企画・制作もやりながら、何かひとつに特化するというより、そのときに必要なやり方で、人々と音楽を繋いでいきたいです。その気持ちはたぶん、ずっと変わらないんじゃないかな」

――では最後に、この記事を読んで、もっと韓国の音楽を聴いてみたいと思った人にオススメを教えてもらえますか。

「Honey Badger Recordsかな。ソウルとロンドンを拠点に活動するJNSというDJ兼プロデューサーのお兄さんがやってる超クールなエレクトロニック・ミュ―ジックのレーベルで、まだ知られていない新鋭アーティストをピックアップし、韓国のアンダーグラウンド・シーンに発信しているレーベルなんです。私と同世代のプロデューサーの子たちが主に参加していて、どれもカッコイイし、ここからリリースしたアーティストたちが、ワールドワイドに羽ばたいていったりしています。テクノがメインですけど、ノイズ系もあったりでおもしろいんですよ。日本でも最近ディスク・ユニオンなどでコンピLPを買えるようになっています。ぜひチェックしてほしいです」

Honey Badger Recordsが2020年にリリースしたコンピレーション『HBRTRX Vol​.​3』