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結成40周年を迎えたプログレッシヴ・メタルの覇者に、かつて屋台骨を支えた剛腕ドラマーが奇跡の復帰! 醒めない夢は至高の快楽か、それとも……
ドリーム・シアターが、16作目となるフル・アルバム『Parasomnia』を完成させた。前作『A View From The Top Of The World』(2021年)のシングル“The Alien”で初のグラミー賞を獲得し、名実ともにプログレッシヴ・メタルの頂点に君臨する彼らの新作は、結成40周年の節目を飾るだけでなく、2023年に電撃復帰した創設メンバー、マイク・ポートノイ(ドラムス)を迎えたラインナップが復活した、記念碑的な作品となった。
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ジョン・ペトルーシ(ギター)、ジョン・マイアング(ベース)、ポートノイを中心として85年に結成されたドリーム・シアターは、現ヴォーカリストのジェイムズ・ラブリエを迎えた92年のセカンド・アルバム『Images And Words』で、プログレ・ロックの技巧的な演奏にメタルの力強さを掛け合わせた〈プログレッシヴ・メタル〉の音楽性を確立。多くのフォロワーを生み出しただけでなく、近年ではOfficial髭男dismの藤原聡も収録曲からの影響を公言するなど、いまなおシーンを超えた存在感を放っている。また、初のコンセプト作品である99年の5作目『Metropolis Pt. 2:Scenes From A Memory』でも高い評価を獲得。同作より加入したジョーダン・ルーデス(キーボード)を含む5人はその後も独創的な作品を発表、ジャンルにおける第一人者としての地位を築いてきた。しかし、リーダー的存在でもあったポートノイと他メンバーの対立が徐々に深まると、ポートノイは2010年に脱退。バンドは後任にマイク・マンジーニを迎え活動を継続していくこととなった。
お互い疎遠になっていた両者だが、約10年の時を経てコロナ禍に入ると、関係に雪解けの兆しが表れる。まずプライヴェートで交流のあったペトルーシが、2020年のソロ作『Terminal Velocity』でポートノイと共演すると、翌2021年にはペトルーシ、ポートノイ、ルーデスが参加するリキッド・テンション・エクスペリメントも新作『LTE3』を発表。そして2022年にはポートノイがドリーム・シアターのNY公演を訪問し、全メンバーと再会を果たしたことで、過去のわだかまりを清算するに至ったのだ。
そうして生まれた新作『Parasomnia』は、過去作を彷彿させる瞬間を散りばめながら、いまの5人が持つクリエイティヴィティーを結集した充実作だ。睡眠障害を意味する医学用語の〈パラソムニア(睡眠時随伴症)〉を題材にしていることもあり、作品を通してヘヴィーかつダークな雰囲気を纏っているが、こうしたメタリックなサウンドは2003年の『Train Of Thought』、2009年の『Black Clouds & Silver Linings』などのポートノイ脱退前の作品群に通ずるものがあり、界隈きってのメタル・フリークでもある彼がふたたび制作に与えた影響が垣間見える。象徴的なドラム・フィルが帰還を告げる“Night Terror”や、クラシカルなメタルをオマージュした“Midnight Messiah”あたりはその好例と言えるだろう。ジャジーなセクションを取り入れた“A Broken Man”の遊び心も新鮮だ。ダークな作風だからこそ、メロディーがさらに鮮烈な印象を残しているのも大きな特徴で、叙情的なバラードの“Bend The Clock”はエヴァーグリーンな美しさがある。ラストに配置された19分超の“The Shadow Man Incident”は、5人の個性が渾然一体となり、強烈なカタルシスを生む大作。音楽を通じて壮大なドラマを描いてきた、稀代のストーリーテラーの面目躍如だ。
プログレ・メタルという言葉に、難解なイメージを持つ人も少なくないかもしれない。しかし本作では、予想不能ながら明快さを兼ね備えたダイナミックなリズム・ワークが特徴だ。ハード・ロック/ヘヴィーメタルのリスナーだけでなく、そうしたジャンルに馴染みのない層にも響く作品となっており、新たなファンを開拓していくだろう。ふたたび未来へと歩みはじめた彼らは、新作と40周年を祝うツアーを開催中だが、いつか日本でも歴史的な瞬間を目撃できることを楽しみにしたい。
ドリーム・シアターの作品を一部紹介。
左から、92年作『Images And Words』(Atco)、99年作『Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory』、2003年作『Train Of Thought』(共にElektra)、2021年作『A View From The Top Of The World』、2023年の公式ブートレグ『Lost Not Forgotten Archives:The Making Of Scenes From A Memory - The Sessions(1999)』(共にInside Out)
メンバーのソロ作や参加作を一部紹介。
左から、ジョン・ペトルーシの2020年作『Terminal Velocity』(Sound Mind Music)、リキッド・テンション・エクスペリメントの2021年作『LTE3』、ジェイムズ・ラブリエの2022年作『Beautiful Shade Of Grey』、ジョーダン・ルーデスの2024年作『Permission To Fly』(すべてInside Out)