Photo by Rayon Richards

ジャズピアニストでありメタラーでもある西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。2023年最初の更新になる第60回のテーマは、世界最高峰のプログレッシブメタルバンド、ドリーム・シアターです。怒涛の勢いでリリースされているドリーム・シアターの公式ブートレグシリーズ〈Lost Not Forgotten Archives〉から、バンドの魅力やその影響力について綴ってくれました。 *Mikiki編集部

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2000年ぐらいからヘヴィメタルを聴く機会が少なくなり、2015年1月にNHORHMプロジェクトが始まるまで、私のメタルブランク期間は長かったのですが(2014年にBABYMETALに出会って、少しずつ聴くようにはなっていたのですが)、浦島太郎状態でメタルに戻ってきたら、いつの間にかドリーム・シアターを〈ドリムシ〉と略すのが流通しており、〈ド、ド、ドリムシ……?〉と面食らいました。

 

今回は、ドリーム・シアターの公式ブートレグシリーズ〈Lost Not Forgotten Archives〉について。

2021年から始まったこのシリーズですが、ライブ音源やスタジオアルバム制作時のデモ音源などを次々とお蔵出しするもので、今月は、マイク・ポートノイ在籍時の脱退直前のライブ音源である第17弾『Live At Madison Square Garden (2010)』がリリースされました。来月は、2019年の『Distance Over Time』のデモ音源である第18弾『Distance Over Time Demos (2018)』がリリースになります。

いまだに〈「公式ブートレグ」とは……?〉と感じているのは、私だけではないはず。
〈ブートレグ〉(海賊版)と聴くと、いくら〈公式〉と書いていても〈聴いていいんだろうか?〉と、音楽ファンとしてなんとなく後ろめたい気分にもなってしまい、最初はなんとなく手が伸びにくかったのですが、次から次へリリースされると、あまりそういう気持ちもなくなってきました。うん、これは〈公式〉だ。

 

そして、そうこうしているうちに、万華鏡みたいなジャケットが増えに増えて、どれを聴いたか聴いていないのか、わからなくなってしまった!

何枚かは聴いているのですが、特にメタリカの名盤『メタル・マスター』のカバーのアルバム第4弾『Master Of Puppets - Live In Barcelona, 2002』は、興味津々で繰り返し聴きました。

DREAM THEATER 『Lost Not Forgotten Archives: Master Of Puppets - Live In Barcelona, 2002』 Inside Out/ソニー(2021)

メタリカというレジェンドの、よりによって名盤中の名盤『メタル・マスター』なんて、普通なかなか演奏しないのではと思います。多くのジャズピアニストが“Waltz For Debby”は演奏したくないのと同様に(注:ビル・エヴァンス作曲のど定番名演)。

それが、いやはや、流石という内容でした。メタリカ楽曲というフィルターを通すことで、ドリーム・シアターって改めて凄いメタルバンドなんだなと、平伏しました。うへえ。

すごい演奏力。上手いだけじゃなくて、ピュアなエネルギーも全然失っていないというか、メタルの根幹はこれだ!と提示をしてくれるような、素晴らしい演奏なんです。
普段のドリーム・シアターでは、巨大に構築された楽曲で、完全無欠な演奏を聴いているものですから、こんなにピュアなエネルギー感の演奏のイメージがなかったんですよね。

勿論、原曲をそのままカバーするだけに終わるわけがない。ドリーム・シアターらしい統制感や冷静な視点もありつつの『メタル・マスター』は、新鮮でした。このリリースは嬉しかったです。

私は普段、ジャズの分野で演奏していますが、基本的に楽譜がない即興性の強い音楽は、〈耳コピ〉と呼ばれる〈聴いて真似して身に付ける〉ことを繰り返して学習していくわけですけれども、このアルバムを聴くと、ドリーム・シアターの面々のこの能力の高さ、そして真似(=劣化コピーにあらず)を乗り越える強靭な音楽の思想というものが、オリジナルアルバムよりも強く感じられました。