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カオスと変容の美

 激しく打ち付けるエレクトロニック・ビートに乗せて、オペラのような壮大な歌とメロディーが解き放たれる“Disease”。ドロリと黒光りするダークな世界観に、これぞガガ様!と唸ったファンは多いだろう。それに続いたセカンド・シングル“Abracadabra”では、奇想天外な音色とトリッキーなリズムが押し寄せるなか、エキセントリックに豪快に疾走する。これらの楽曲で共作者/プロデューサーとして大役を担ったのがアンドリュー・ワット。ローリング・ストーンズやオジー・オズボーンといった大御所から、ジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラス、ポスト・マローンといったチャート常連組までを手掛ける業界一多忙な男だ。彼はアルバム全体の監修者の一人としてもクレジットされている。さらに、ダークなインダストリアル系テクノを得意とし、チャーリーXCXやウィークエンドを手掛けるフランス人DJのゲサフェルスタイン、事あるごとにガガとの相似性を指摘されてきたエイバ・マックス作品でお馴染みのサーカットらも参加。両者ともガガとは初の顔合わせなだけに、なおさら興味深い。前作『Chromatica』にはエルトン・ジョンやBLACKPINKがゲスト参加し、アリアナ・グランデとの共演曲“Rain On Me”や“Stupid Love”が大ヒット。ブラッドポップと創造したサイバーパンク感溢れるクラブ・バンガー集は、ダンス・ミュージックの昂揚感と醍醐味がギッシリ詰め込まれていたが、今作はもう少しアート志向になりそうな予感を抱かせる。

 アルバム・タイトルが〈騒動・破壊〉を意味する『MAYHEM』で、リード曲が“Disease”=病気とくれば、アルバムの全体像もおのずと見えることだろう。本人いわく、アルバムのテーマは〈カオス〉と〈変容〉であり、90年代のグランジやオルタナティヴ、エレクトロをはじめ、あらゆるジャンルのサウンドから影響を受けているという。なかでもインダストリアル・ミュージックの影響が絶大なのは、先述の2曲からも窺える通り。モノクロームのジャケットからも、秘められた狂気やカオスが伝わってくるのではないだろうか。

 全米をはじめ世界中のチャートを制覇し、先日のグラミー賞でも〈最優秀ポップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)〉部門に輝いたブルーノ・マーズとの共演曲“Die With A Smile”は、当初は予定されていなかったが、本作にも収録されるという。〈死ぬほど愛してる〉と高らかに歌われる同曲はそのグラミー授賞式でもデュエットされたが、彼女はLA山火事の復興支援コンサート〈FireAid〉やスーパーボウル試合前の特別番組でも、ストレートに愛を歌い上げ、愛の力を訴え、人々の心をひとつに繋ぎ止めようとしてきた。しかし、本作においては、弱者や除け者、疎外感を抱かずにはいられない少数派の味方であるレディー・ガガも舞い戻っているはずだ。その一人として悩み苦しんでいたステファニー・ジャーマノッタが、なぜレディー・ガガとしてステージに立つのかを『MAYHEM』はいま一度教えてくれるに違いない。

左から、ブルーノ・マーズの2016年作『24K Magic』(Atlantic)、ゲサフェルスタインの2024年作『Gamma』(Columbia)、アンドリュー・ワットが制作に参加したエルトン・ジョン&ブランディ・カーライルのニュー・アルバム『Who Believes In Angels?』(Interscope)