2025年、ビッグアーティストの来日公演やフェスが盛り上がった一方、国内で話題になった最新の洋楽作品や曲は少なかった印象です。では、シーンでは何が起こっていたのでしょうか? 昨年の洋楽を完全総括するべく、Mikiki編集部の天野龍太郎と小田淳治が語り合いました。 *Mikiki編集部
2025年を象徴したレディー・ガガ、ロザリア、バッド・バニーの傑作
天野龍太郎「2025年は、再結成したオアシスの来日公演が大きな話題になってお祭り状態になり、邦楽だけでなく洋楽も盛り上がった年でした。とはいえ、決定的な名盤や広く親しまれたヒット曲があったかというと微妙で、〈2025年の洋楽〉がどんな様相だったのか、日本のリスナーには見えづらかったんじゃないかな?と思います」
小田淳治「そうですね。2024年はチャーリーxcx『Brat』のような象徴的な作品、ビヨンセ『COWBOY CARTER』というメガスターの決定打、ケンドリック・ラマー“Not Like Us”とヒップホップシーン全体を巻き込んだビーフ、社会現象を起こしたテイラー・スウィフト〈The Eras Tour〉の来日公演など、わかりやすいトピックが多かった印象です」
天野「それと比べて、2025年は中心になる軸がなかったというか、多極化がかなり進んでしまったのだと思います。そこで今回は、海外の動向や評価を含めて昨年の洋楽シーンを総括してみたいなと。
まず、アルバム単位で語っていきましょうか。2025年の代表作というと、どんなものがありましたか?」
小田「日本のリスナーに馴染みがあるところで挙げると、まずはレディー・ガガ『MAYHEM』がヒットしましたよね。各媒体の年間ベストアルバムでも上位に食い込んでいました。アルバムに先駆けてリリースされた“Abracadabra”のミュージックビデオ然り、ガガが投げかけるメッセージは解釈の幅がとにかく広い。この曲も彼女がサポートし続ける性的マイノリティのコミュニティに向けた曲とも受け取れるし、躍り歌うことで内なる自分を解放しようとガガが先導しているようにも思える。
それは『MAYHEM』というタイトルにも表れてますよね。まさに今この世界は大混乱な状態で、それを変えるには大勢がひとつの方向に向く必要があるのかもしれない。ただ、ガガはそれを音楽や映像などのアートを用いて体現しようとしているのかなと自分は解釈しています。ちょうど今来日ツアーを開催していますし、その真意はライブで確認できるかもしれませんね」
天野「アルバムのリリースに先立って、ガガ様は〈コーチェラ・フェスティバル〉でヘッドライナーを務め、超シアトリカルなパフォーマンスを披露したことが話題になりました。ガチガチにキマった5幕構成の演劇的な演出のもと、大がかりなセットや華美な衣装に彩られたゴシックな世界を展開して……。あれにはかなり圧倒されましたね。個人的には、あのパフォーマンスこそがガガ様の最高傑作だなって思いました」
小田「11月という年の後半にリリースされたロザリア『LUX』も象徴的なアルバムでしたよね。これまでの作品は、彼女の出自でもあるフラメンコであったり、レゲトンやR&Bだったり、ある程度カテゴライズできるものでした。でも『LUX』は、特定のシーンやジャンルに属していない、何なら扱う言語にすら縛りを設けていない。多彩なゲストが参加してますが、それ以上にメインでタッグを組んでいるのがロンドン交響楽団ですからね。どうしたらそういう発想になるのか……個人的に2025年を象徴する作品を選べと言われたら『LUX』を挙げますね」
天野「リードシングル“Berghain”がリリースされたときは驚きましたね~。過去の作品とはまったく異なる音楽性で。ものすごく速いパッセージを弾く弦楽アンサンブルから始まり、オペラ的な荘厳なコーラスが加わり、重厚なバロック的サウンドを展開した曲です。今までのロザリアのどの作品とも違ったので、何が起こっているの!?と腰を抜かしました。さらに先輩であるビョークと、ラディカルな作風で知られるイヴ・トゥモアという異種格闘技的な客演も強烈。『LUX』は、ロザリアの前衛性や実験性を改めて前面に出した異色作でした」
小田「そして、年始に発表されたバッド・バニー『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』は世界的にヒットし、年間を通して高く評価されました。〈もっと写真を撮ればよかった〉という意味のタイトルのとおり、過去の失恋や傷ついた出来事に後悔しながらも、それらをポジティブにとらえていくという全体的な作品ストーリーはバッド・バニーらしいなと。作品を重ねていくたびにプエルトリコ人としての誇りが強まっていってますよね」
天野「1曲目“NUEVAYoL”がわかりやすいですね。イントロはサルサのサンプリングで、そのままデンボウのリズムに雪崩れ込んでいく、という近年のバッド・バニーらしい新旧ラテン音楽の折衷をやっていて。この曲のMVを見ればわかるように、ニューヨリカン(ニューヨークのプエルトリコ移民)たちと彼らの文化や歴史に敬意を表しつつ、ドナルド・トランプ大統領の反移民政策に異を唱えているところも彼らしい。
そんなバッド・バニーは、2月にスーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスを披露します。政治的なメッセージも演出に組み込みそうですし、様々な点で必見でしょうね」
小田「スペイン出身でフラメンコがルーツのロザリア、そしてプエルトリコでラテントラップやレゲトンをやっていたバッド・バニーというラテン系/スペイン語圏アーティストの先鋭的な作品が2025年の洋楽では注目を集めました。だからこそ、英米のロックやポップに親しんだリスナーが多い日本人にとってはわかりづらいところがあったのかもしれませんね」
天野「ただ、日本の歴史を振り返ると、南蛮貿易でポルトガルやスペインの文化を受け入れたり、戦前から戦後にかけて南米の音楽を歌謡曲に取り入れたり、ラテン文化との相性はいいんですよ。個人的にはそれこそサルサからレゲトンまでラテン音楽全般が好きなので、もっと日本でラテン音楽が人気になったらいいなと思っています。一度火がついたら爆発的に流行るはず!」
サブリナ・カーペンター、ディジョン、クリプスらの話題作
小田「王道ポップスという枠では、テイラー・スウィフトの『The Life Of A Showgirl』がリリースされましたが、話題性においてはサブリナ・カーペンター『Man’s Best Friend』の一人勝ちだったかもしれません。前作『Short n’ Sweet』と収録曲“Espresso”で2024年のシーンを席巻し、その勢いのまま2025年のポップアクトとして抜群の存在感を発揮しました」
天野「『The Life Of A Showgirl』はかなり評価が割れましたからね。『Man’s Best Friend』も、サブリナが男性に暴力を振るわれているようなジャケットと性的な歌詞が物議を醸しました。ただ、彼女はあれを皮肉や諧謔で意図的にやっているから、そのまま受け取るのもナンセンスだなと思います。
それと、音楽的にはディスコポップやエレクトロポップ路線のプロダクションがすごくいい。冒頭の“Manchild”“Tears”を聴けばわかるとおり、痛快なポップ作で聴き心地は最高です」
小田「R&B寄りの領域では、ザ・ウィークエンド『Hurry Up Tomorrow』が年始にリリースされたものの、年末にはあまりベストアルバムとして挙げられていなかった印象です。最近、来日して過去に対バンした米津玄師に会ったり、〈劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情〉を見たりと、アニメ好きアピールはしていましたが(笑)」
天野「彼はアルバムと同名の映画を制作するなど、映像分野への注力が目立ちますね。アニメにも積極的に関わっていきそう。
R&Bといえば、ディジョン『Baby』は去年のベストアルバムとしてメディアとリスナーの評価を独占しました。プリンスの遺産を受け継ぎつつ、エッジーな音色とコラージュ的な編集で魅せた傑作でしたね」
小田「ディジョンは盟友ミック・ギーとともにジャスティン・ビーバー『SWAG』とボン・イヴェール『SABLE, fABLE』という重要作に参加したこともあって、プロデューサーオブザイヤーの称号をほしいままにしていましたね」
天野「ソロアーティストとしてもプロデューサーとしても、今年以降かなり重要な存在になっていきそう。それこそThe 1975が新作を作ったら彼を起用しそうだなー、なんて思いました」
小田「それと、トラップが席捲した2010年代からするとメインストリームで話題になる機会が減ってきたヒップホップですが、昨年のアルバムではプレイボーイ・カーティ『MUSIC』やクリプス『Let God Sort Em Out』が注目されました」
天野「〈出す出す詐欺〉を繰り返して、ようやくリリースした5年ぶりの新作『MUSIC』は、レイジの始祖と言っていいプレイボーイ・カーティらしいバッキバキに歪んだビートとラップが極まった快作でした。
一方、クリプスの復活作『Let God Sort Em Out』は、ファレル・ウィリアムスの洗練されたプロダクションとマリス&プシャ・T兄弟のラップが絶賛されています。自分は2人が頭角を現した『Lord Willin’』や次作『Hell Hath No Fury』に衝撃を受けた世代で、その後のプシャ・Tの活躍も追っていたので、今回の再始動と新作の充実ぶりは嬉しい出来事でした」
ギースからソンバーまで、ロックシーンを席巻したアルバム
小田「ロックについても話しておきましょう。去年、もっとも高く評価されたロックアルバムは間違いなくギース『Getting Killed』ですよね。正直、再生した瞬間に〈聴く作品を間違えたかな?〉と思ったぐらい前作からの振り幅がすさまじかったですね。彼らはニューヨーク出身だからか、これまでよくザ・ストロークスと並べて語られていたと思うんですけど、前作と今作の間にフロントマンのキャメロン・ウィンターのソロワークを挟んだことが功を奏したというか、実際発声や歌い回しはソロの延長線上にありますよね。
サウンドとしては大枠ではロックに分類されそうですが、カントリー、ジャズ、クラウトロックの要素も入ってて。それこそロザリア『LUX』のようにあえて分類させないようなサウンドデザインを採用しているあたり、まさに2025年を象徴する一枚だと思います。来日公演のチケットを取れなかったのが悔しい……」
天野「ギースのアルバムは個人的にも年間ベストですね。ナイジェル・ゴッドリッチが制作しているライブ映像シリーズ〈From The Basement〉に出演したので、彼が長く携わっているレディオヘッドの進化の過程がギースに重なりました」
小田「ジャンル的にはハードコアですが、ターンスタイル『NEVER ENOUGH』も革新的な作品だったと思うんですよ。このアルバムでバンドは今年のグラミー賞の5部門にノミネートされていて、同じ年にロック、メタル、オルタナティブの各部門でノミネートを果たしたバンドってこれまでいなかったそうなんです。
パワーコードを多用したラウドなギターリフを聴くとハードコア味を強く感じますが、曲によってはニューウェーブやインディロック、エレクトロニカなんかもマッシュしてる。じゃあ統一感がないかと言われたら、コンセプト作として一枚を通して聴けるような設計になっている。ギースとはまた違う進化の仕方ですが、彼らにもロックの新たな可能性を感じています」
天野「ターンスタイルは初期の頃から好きなのですが、音楽的な進化がすさまじくて驚いています。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’24〉や来日公演でのパフォーマンスで、日本での人気も高まってますよね」
小田「それと、ポップアクトではありますが、サマソニに出演したソンバーのデビューアルバム『I Barely Know Her』はインディロック調の作品で、ヒットシングル“back to friends”ともども話題になりました」
天野「ええ。彼はハリー・スタイルズや、コーチェラでのパフォーマンスや新作『American Heart』でも注目されたベンソン・ブーンに並ぶ男性ソロアーティストになっていきそうですよね」
ヒットソングがなかった年? “Goleden”やチャペル・ローンの話題曲
小田「ヒットソングや話題曲についてはどうでしょうか? 2025年はヒット曲に欠けた年だったとも言われていますが」
天野「そうなんですよ。Billboard Hot 100の年間チャートは、1位のレディー・ガガ&ブルーノ・マーズ“Die With A Smile”、2位のケンドリック・ラマー & SZA“Luther”など2024年のものばかりで、7位にようやくアレックス・ウォーレン“Ordinary”という2025年の曲が入ってくる結果でした。トップ10の内、その年の曲が“Ordinary”だけだったという」
小田「そんななか、象徴的なヒット曲といえばHUNTR/X“Golden”でしょうか。HUNTR/XはNetflixのアニメ映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』に登場する架空のK-POPグループですが、そもそも作品の大元の設定からして驚きですよね、〈K-POPアイドルが悪魔退治〉という(笑)。でも、これがなかなか侮れない。ちゃんとK-POP作品なんですよ。異国の文化を取り上げた作品という点ではDisney+の『SHOGUN 将軍』にも同じことが言えますが、決して〈○○風〉な見せ方にはなっていない。ちゃんと実際の韓国文化に敬意を払った作りで、そうしたリアリティが仮想の存在であるHUNTR/Xに説得力を持たせているんだと思います。
“Golden”も〈ありのままの自分を受け入れて輝く〉という、LE SSERAFIMなど第4世代のガールズグループが強く打ち出したセルフラブ的なメッセージがわかりやすく表現されていますよね。ヒットしたのも頷けます」
天野「邦楽ではVTuberなどが活躍していますが、洋楽でバーチャルなアーティストがこれほどのヒットを飛ばしたのは新鮮ですね。K-POPの欧米への浸透も感じさせます。
それから、クィアスターとして快進撃を続けているチャペル・ローンは、“The Giver”“The Subway”という2曲しか2025年にリリースしなかったにもかかわらず、強い存在感がありました。個人的には性について歌ったカントリーポップ“The Giver”が好きなんですが、世間的な評価は“The Subway”のほうが高かったですね。
“The Subway”はドリームポップっぽいプロダクションの曲で、地下鉄で元恋人の姿を偶然見かけたことを歌った悲痛な失恋ソングです。レズビアンであるチャペルですが、ハートブレイクの模様を綴った歌詞は普遍的な内容で、かなり広く受け入れられたんだと思います」
小田「大ヒットこそしませんでしたが、“Diet Pepsi”“Headphones On”“Fame Is a Gun”といったシングルが注目を集め、1stアルバム『Addison』を発表したアディソン・レイは2025年を象徴するポップアクトでした」
天野「アディソンはもともとTikTokフォロワーが8,800万人もいるインフルエンサーで、2021年から音楽活動を始めたんですよね。アルカやチャーリーxcxといったエッジーな才能とも交流しつつ、彼女の作品には単なる〈インフルエンサーの音楽活動〉という以上のインパクトがありました」
小田「アディソンの曲は、トリップホップやハウス、UKベースなど1990年代~Y2Kあたりのプロダクションをうまく噛み砕いた絶妙なサウンドが特徴です。ウィスパーボイスの歌唱もあいまって、抑制的でオルタナティブなポップによって魅力を発揮していましたね」
天野「曲単位では、ピクセル・ガールことソフィー・パワーズの“STFU”について言及しておきたいところ。TikTokを中心にSNSでバズったバイラルヒット曲です。人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』に彼女が出演した際に披露され、ふざけ倒した歌詞とへんてこなビジュアルが話題になりました。審査員のライオネル・リッチーが〈こいつは何を言っているんだ!?〉と度肝を抜かれている顔もかなり笑えましたね。何と言っても〈○○、黙れ〉と繰り返すサビの歌詞が最高で、ナンセンスなんだけど政治的な意味も読み取れそうな塩梅がいい。
ソフィーはキティちゃんやアニメなど日本文化が好きで、“STFU”のMVも東京で撮影していたので、今後日本でも注目されてほしいなと思っています」















