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タイラーやケンドリックに通じる、ミックステープ全盛期を彷彿させる構成

まず本作で一つ目立つのは、全編で登場するDJスワンプ・イゾーだ。彼はヤング・サグやOJ・ダ・ジュースマンなど多くのアトランタのラッパーのミックステープでホストを務めたDJで、本作に先駆けてリリースされたラトーのプレイボーイ・カーティ客演曲“Blick Sum”にもシャウトを入れていた。本作では彼のシャウトが随所に入ることで、ミックステープカルチャー全盛期のムードが生まれている。

このホストDJを迎えてアルバムをミックステープ風に仕上げるやり方は、タイラー・ザ・クリエイターも2021年作『CALL ME IF YOU GET LOST』で取り組んでいた。同作でのDJドラマの起用は大きな話題を集め、その後J・コール率いるドリームヴィルが翌年にリリースしたミックステープ『D-Day: Gangsta Grillz Mixtape』などDJドラマがホストDJを務める作品が続々と登場。各種ストリーミングサービスでのDJドラマのアーティストページを開けば、『CALL ME IF YOU GET LOST』以降に明らかに作品数が急増していることがわかる。

また、さらに遡ればケンドリック・ラマーが2017年にリリースしたアルバム『DAMN.』も、キッド・カプリのシャウトをフィーチャーしていた一枚だ。同作も2枚使いとスクラッチをイントロに入れた“ELEMENT.”や、ヒットしたばかりの比較的新しい曲を大胆にサンプリングした“ROYALTY.”など随所にミックステープっぽい要素が含まれていた。

『DAMN.』と『CALL ME IF YOU GET LOST』は、いずれも王道のヒップホップの外に飛び出すような作品の次にリリースされた作品だった。ケンドリック・ラマーは『DAMN.』の前作『To Pimp A Butterfly』でフライング・ロータスやテラス・マーティンらを迎えてジャズに接近。タイラー・ザ・クリエイターは『CALL ME IF YOU GET LOST』の前の『IGOR』でワンループの美学とは異なるサウンドに乗り、ラップだけではなく歌寄りのアプローチも多く聴かせた。『DAMN.』も『CALL ME IF YOU GET LOST』もそこから王道ヒップホップへの揺り戻しのような作品で、ホストDJを迎えたミックステープっぽさもそれに拍車をかける効果があった。

 

〈あの頃〉を再現する王道ヒップホップへの回帰

プレイボーイ・カーティの前作『Whole Lotta Red』も、ヒップホップ文脈の外に向かうような作品だった。パンクロック雑誌「Slash」オマージュのアートワーク、オープニングの“Rockstar Made”に象徴されるようなロックスター的なイメージ、そしてシャウト気味の発声。こういった要素の数々はヒップホップに留まらない語りを生んでいった。

そこからのDJスワンプ・イゾーを迎えた本作である。『DAMN.』と『CALL ME IF YOU GET LOST』同様、本作にも王道ヒップホップへの回帰のような動きがいくつか見られる。レックス・ルーガー制作と言われても信じてしまいそうなアーリー2010s風トラップの“RADAR”、ソウルフルな早回しが光る“BACKD00R”、ヤング・サグとタイ・ダラー・サインを迎えた“WE NEED ALL DA VIBES”などはプレイボーイ・カーティ作品でしか聴けないようなものではないタイプの曲だ。これはマイク・ウィル・メイド・イット制作のトラップに乗ったケンドリック・ラマーの『DAMN.』と通じる動きと言えるだろう。

先述した“RADAR”がまさにミックステープカルチャー全盛期のサウンドの再現だったように、本作には〈あの頃〉のエッセンスも多く含まれている。“BACKD00R”でケンドリック・ラマーと共にフックを歌うのは、〈あの頃〉のTDEと交流を深めていたジェネイ・アイコだ。“CRANK”はスペースゴーストパープの“Fuck Taylor Gang (Not A Diss We Are Just Not Dickriders)”ネタだし、“LIKE WEEZY”ではリッチ・キッズの“Bend Over”をサンプリング。いずれも2010年前後、〈あの頃〉の曲を使っているのだ。

そのほかにも“OVERLY”でのピアノループはグッチ・メインのヒット曲“Lemonade”を思わせるものだし、ストリーミング版のラストを飾る“SOUTH ATLANTA BABY”はクラウドラップ系のダウナーなビートを使用。これらの取り組みが本作のミックステープっぽさをより強めている。