THE NEWEST ERA
[特集]2015年のヒップホップ・スタンダード
年明けから話題作が立て続けに届き、またまた熱を帯びるUSヒップホップの世界。各々の魅力に溢れたカラフルキャラクターを紹介していきましょう!


 

ALL EYEZ ON ME
コンプトンで羽化した希望、ケンドリック・ラマーが伝えたいこと

 2012年10月、メジャー・デビュー・アルバム『good kid, m.A.A.d city』のリリースを目前に控えていたケンドリック・ラマーは、〈いまいちばんハッピーに感じていることは?〉という質問に対してこんなふうに答えている。

 「自分のコミュニティーや自分の育った街に影響を与えていることだね。コンプトンの子供たちの希望の光になれるように努めてるよ。服役中の友達のなかには子持ちの奴が何人かいて、彼らは子供が生まれてすぐに刑務所に入ることになってしまったんだ。その子たちはいま5~6歳になるんだけど、みんな俺が状況を変えようとしているのを見ているし、父親たちもそれにリスペクトを示してくれる。子供たちがTVで俺を観て、俺が自分と同じコンプトンの出身だと知ってエキサイトしているのは最高の気分だね。ものすごい達成感があるよ」。

 あの『good kid, m.A.A.d city』のリリース前にしてすでにこんな具合だったのだから、いま現在コンプトンでケンドリックがどのような存在になっているかは容易に想像がつくだろう。アメリカ最悪の犯罪都市である〈マッド・シティー〉コンプトンで暴力やドラッグから距離を置いて育った17歳の〈グッド・キッド〉ケンドリックの回想録『good kid, m.A.A.d city』は、全米だけで140万枚超のセールスを記録しているほか、第56回グラミー賞では最優秀アルバム賞など計5部門にノミネート。さらに有力音楽メディアの年間ベストで軒並み上位にランクインを果たすなど(BBCとPitchforkで1位、ビルボード、MTV、Time、Spinで2位)、2012年を代表する一枚としてジャンルを超えて高い評価を獲得した。

2012年作『good kid, m.A.A.d city』収録曲“Swimming Pools (Drank)”

 これによってゲームの流れを完全に自分の元に引き寄せたケンドリックは翌2013年8月、客演したビッグ・ショーン“Control”の曲中でドレイクやJ・コールなど次代のシーンを担う11人のラッパーを列挙しながら〈俺はマキャヴェリ(2パック)の子孫、NYのキングにしてウェストコーストのキング。東西の王位を片手で転がしている〉と豪語。結果的にこのヴァースの登場は数々の議論とアンサー・ソングを誘発するシーン全体を巻き込む事態へと発展し、ケンドリックはたったワンヴァースで2013年の話題をかっさらったうえ、〈いま誰を中心にヒップホップが動いているのか〉をシンプルかつセンセーショナルに証明してみせたのであった。

ケンドリック・ラマーが参加したビッグ・ショーンの2013年の楽曲“Control”