©Peggy Sirota

長年にわたって交流を深めてきた偉才と鬼才が真っ向勝負のコラボで傑作を完成した! 力強くも繊細でエモーショナルな快演の連続が天使の存在を明らかにする?

人生でもっとも素晴らしい音楽体験

 「これまで作ったアルバムの中でもっとも大変で、同時に人生におけるもっとも素晴らしい音楽体験の一つだったよ。これを作ったことで、前に進むための場所を見つけられた気がする。『Who Believes In Angels?』で私は新しい時代に足を踏み入れ、未来に向かって扉を押し広げた。これまでやってきたことはすべて後ろにある。それらも素晴らしい、驚くべきものだった。でもここが私にとっての新たな出発点。キャリアの新たなスタート、第2章の始まりだ」(エルトン・ジョン)。

ELTON JOHN, BRANDI CARLILE 『Who Believes In Angels?』 Interscope/ユニバーサル(2025)

 説明不要のキャリアと偉業を重ねてきたエルトン・ジョンをしてそう言わしめるニュー・アルバム『Who Believes In Angels?』は、ブランディ・カーライルとのコラボレーション作品だ。ブランディといえば、3つのグラミー賞を獲得した現時点での最新作『In These Silent Days』(2021年)に至るまで、カントリー〜アメリカーナを基盤としてコンスタントにアルバムをリリースしているシンガー・ソングライター/プロデューサー(グラミーは通算11回も受賞している)。エミー賞も2度受賞、さらにはベストセラーを獲得した作家、活動家でもあり、同業のミュージシャンからも絶大な敬意を集めるタイプのアーティストである。

 そんな両名の音盤上での縁は、ブランディがエルトンをピアノと歌で招いた2009年の“Caroline”(『Give Up The Ghost』に収録)まで遡ることができる。以降も2011年のライヴ盤『Live At Benaroya Hall With The Seattle Symphony』でエルトンの“Sixty Years On”をカヴァーしていたブランディは、2021年にエルトンの豪華なコラボ集『The Lockdown Sessions』で“Simple Things”に客演(なお、ドリー・パートンの2023年作『Rockstar』内の別曲にそれぞれ客演するというニアミスもあった)。そして、2024年公開のドキュメンタリー作品「エルトン・ジョン:Never Too Late」のエンディングを飾った“Never Too Late”では3年ぶりの共演曲を果たしているが、アカデミー賞にノミネートもされた同曲はもちろん今回の『Who Believes In Angels?』の前フリだったわけだ。

 

生きるのが大変な時代に抗う行為

 そんな今回のコラボを推進した仲間は、エルトン長年の創作パートナーとして名高い作詞家のバーニー・トーピン、そしてプロデュース担当のアンドリュー・ワットである。アンドリューはエルトンと縁深いレディー・ガガの新作『MAYHEM』も仕切ったばかりの売れっ子だが、近年はレジェンド世代の魅力を現代的に引き出す手腕で知られているわけで、もともとエルトンともオジー・オズボーンの『Ordinary Man』(2020年)をきっかけに出会ったそう。その後は先述の“Simple Things”を制作し、自身の取り組むエディ・ヴェダーやローリング・ストーンズの作品にもエルトンを招いていた。

 2023年10月にLAのサンセット・スタジオに入った彼らは白紙の状態から制作を開始。ブランディが「皆がアイデアを出し、互いのアイデアに耳を傾ける。まるで家族のようだった」と振り返るように、アンドリューが双方の意見を橋渡ししながら全体を指揮し、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(ドラムス)、ピノ・パラディーノ(ベース)、ジョシュ・クリングホッファー(キーボード)ら敏腕プレイヤーを演奏に迎えて20日間でアルバムを完成させたという。

 クレジット上ではいずれの曲もバーニーとアンドリューを含めた4人の共作となっていて、それは各曲の密接な創作プロセスを物語るものでもある。主にギターを弾き語るブランディと、ピアノで曲を書くエルトンそれぞれの主導曲が半数ずつ収録されているであろうことは、アルバムを聴き進めていくにつれて推察できるはずだが、各人の作風が触発し合いながら融和している点にこそ本作の魅力があり、それはブランディが「エルトン・ジョンのソングライティングの基準に皆が従えば、おのずとすべてはレベルアップする。それは音楽を作るうえで、とんでもなく挑戦的でインスピレーションに満ちた環境でした」とコメントしている通りだ。

 オープニングを飾る“The Rose Of Laura Nyro”は曲名が示唆するようにローラ・ニーロの“Eli’s Comin’”を引用したアレンジが幕開け感をダイナミックに演出する。続く“Little Richard’s Bible”は表題そのままのピアノ・ロックでエンターテイニング。さらにはブランディ主導の“Swing For The Fences”がジェリー・リー・ルイス作法のロックンロールなのも楽しく(デヴィッド・ボウイを連想させる終わり方も最高だ)、そうした作風の相互乗り入れは随所で楽しめるだろう。一方で、繊細な人間関係についてブランディが呟くように独唱する5曲目のフォーク・ナンバー“You Without Me”、そして自身の行く末すらも達観したようなエルトンの歌唱とピアノで送るラストの“When This Old World Is Done With Me”というソロに近い曲も個性を発していて印象的だ。そして何より先述の“Never Too Late”と、哀愁を帯びつつ感動的な表題曲は伝統的なエルトン節の最新形として圧倒される。それを解釈するブランディの情熱的な歌唱の素晴らしさも、このコラボならではの魅力を届けてくれるはずだ。

 「現代はいろんなことが起きていて、生きるのが大変な世界。平穏さや達成感を見い出すのは難しい。そのなかに喜びや歓喜の瞬間を探そうとするのは、ある種の時代に抗う行為かもしれない。それこそが、まさにこのアルバムの意味することなのです」(ブランディ)。

左から、ブランディ・カーライルの2009年作『Give Up The Ghost』、2011年のライヴ盤『Live At Benaroya Hall With The Seattle Symphony』(共にColumbia)、エルトン・ジョンの2021年作『The Lockdown Sessions』(Mercury)、ドリー・パートンの2023年作『Rockstar』(Big Machine)

関連盤を紹介。
左から、ローラ・ニーロの68年作『Eli And The Thirteenth Confession』(Columbia)、リトル・リチャードの57年作『Here’s Little Richard』(Specialty)

エルトン・ジョンが客演したアンドリュー・ワット制作のアルバム。
左から、オジー・オズボーンの2020年作『Ordinary Man』(Epic)、エディ・ヴェダーの2022年作『Earthling』(Republic)、ローリング・ストーンズの2023年作『Hackney Diamonds』(Rolling Stones)

 

現代最高のシンガー・ソングライター、ブランディ・カーライル

 2005年のセルフ・タイトル作から数えて、連続でグラミーの〈最優秀アメリカーナ・アルバム〉に輝いた『By The Way, I Forgive You』(2019年)と『In These Silent Days』(2021年)まで7枚のアルバムを出し、現代最高のシンガー・ソングライターとも評されるブランディ・カーライル。マレン・モリスらと組んだハイウィメンでもアルバムを残すが、昨今は楽曲提供やコラボの誘いがマカス・マムフォードからマイリー・サイラス、ピンク、ホージアー、ノア・カーンまでひっきりなしに続いている。ブランディ・クラークの『Brandy Clark』(2023年)を筆頭に、タニヤ・タッカーやルシウスの作品で手腕を認められたプロデューサーとしての活躍も目覚ましい。そんななかでもジョニ・ミッチェルの復活ステージでバックを仕切る大役を務めた『Joni Mitchell At Newport』は、エルトンとのコラボに並ぶ栄誉だったことだろう。

左から、ブランディ・カーライルの2019年作『By The Way, I Forgive You』、2021年作の新装豪華盤『In The Canyon Haze』(共にLow Country Sound/Elektra)、ハイウィメンの2019年作『The Highwomen』(Elektra)、マイリー・サイラスの2023年作『Endless Summer Vacation』(Columbia)、ブランディ・クラークの2023年作『Brandy Clark』(Warner)、ジョニ・ミッチェルの2023年のライヴ盤『Joni Mitchell At Newport』(Rhino)

 

軽やかなフットワークで積極的に交流を広げるエルトン・ジョン

 純然たるソロ・アルバムは2016年の『Wonderful Crazy Night』がいまのところ最新となるエルトン。近年は幻のデビュー作『Regimental Sgt. Zippo』(67〜68年に録音)の公式リリースや、かの“Rocket Man”を生んだ72年の名盤『Honky Château』の50周年記念盤といった過去の再確認も続いているが、それでもこの巨人が〈グレイテスト・ヒッツの人〉にならないのは、2021年のコラボ集『The Lockdown Sessions』を例とするまでもなく、幅広い世代との積極的な交流やフットワークの軽いコラボで成果を上げているからだ。レディー・ガガやゴリラズ、スティーヴン・ウィルソンやブリトニー・スピアーズ、カントリー歌手のオーヴィル・ペックに至るまで、共演相手のスタイルもさまざま。ともかく、エルトンならではのこの姿勢こそがブランディとのコラボを最上級の出来映えに押し上げたのは間違いない。

左から、エルトン・ジョンの2021年作『Regimental Sgt.Zippo』、72年作の50周年記念盤『Honky Château: 50th Anniversary Edition』(Rocket/EMI)、スティーヴン・ウィルソンの2021年作『The Future Bites』(Arts & Crafts)、オーヴィル・ペックの2024年作『Stampede』、デュア・リパのライヴ盤『Live From The Royal Albert Hall』(共にWarner)