10万人以上が参加した、ジェイコブ・コリアーの人気シリーズ最終章!

 動画投稿をきっかけに表舞台で脚光を浴びるアーティストというのも珍しくなくなってきた2011年から投稿を開始し、数年後には画面を分割したマルチ演奏/多重録音のコーラスによるカヴァー動画で注目を集めるようになっていたのが、94年にロンドンで生まれたジェイコブ・コリアーだ。2016年にはファースト・アルバム『In My Room』をリリース。そのモダンな宅録センスは早くから日本でも高い支持を得ていたものだが、やがて彼は自室を飛び出して世界各国を周り、さまざまな人々と縁を結びながら好奇心の赴くままに己の世界を大きく拡げていくことになった。そんなジェイコブの足取りを音楽の形で記録したのが、2018年にシリーズ第1弾『Djesse Vol. 1』を届けた〈Djesse〉プロジェクトである。

 Djesse(ジェシー)とは人間の感情を表現するコンセプトを象徴するシリーズのイメージキャラクターで、彼のイニシャルにあたるJCに由来するものと思われる。当初から全50曲入りの4部作として説明され、『Djesse Vol. 1』ではメトロポール・オーケストラやローラ・マヴーラ、テイク6、グナワ音楽の大御所ハミッド・エル・カスリを迎えていた。翌年の〈Vol. 2〉はベッカ・スティーヴンスやリアン・ラ・ハヴァス、マロ、ウム・サンガレらを招いてアコースティックな色を強め、2020年の〈Vol. 3〉はT・ペインやラプソディ、マヘリア、キアナ・レデらを交えてR&B/ヒップホップ寄りのデジタルな音絵巻を展開した。そして、コロナ禍の影響もあってか年1枚のペースを止めていたシリーズが、このたび登場する『Djesse Vol. 4』にてついに完結することになった。

JACOB COLLIER 『Djesse Vol. 4』 Hajanga/Decca/ユニバーサル(2024)

 今回は過去3作のさまざまな要素も織り込みつつ壮大なスケールに仕上げられているが、まず目を引くのはこれまで以上に豪華かつ多彩かつ大人数になったゲスト・シンガー/ミュージシャンだろう。ブランクの期間にコールドプレイやストームジーらの楽曲に参加していたジェイコブだが、そうした交流も反映しつつ参加メンツの顔ぶれはとんでもない。ジョン・メイヤー&リジー・マカルパインを迎えた“Never Gonna Be Alone”、レミ・ウルフと共作した“Wellll”、ショーン・メンデスとストームジーとカーク・フランクリンを交えた“Witness Me”という先行曲はもちろん、ジョン・レジェンドやブランディ・カーライル、カミーロ、アヌーシュカ・シャンカール、aespa、マイケル・マクドナルドまで、国も世代も活動フィールドも実に多種多様な面々がジェイコブの世界に声や演奏を加えている(シリーズ過去作に参加していたスティーヴ・ヴァイとクリス・シール、ハミッド・エル・カスリらも登場)。ジェイコブ自身の操る楽器も世界各国の伝統楽器などがさらに増えていて、彼がこの期間に世界中で何を経験してきたかも窺い知れるかのようだ。

 そうした幅の広さ以上にポイントとなりそうなのが、ライヴ会場におけるオーディエンスの歌唱をクワイアとして用いた楽曲だろう。名が体を表した“100,000 Voices”でのオープニングから、2022年のツアーを通じて世界の各所で録音した歌声が盛り込まれている。その一体化したハーモニーは、パンデミックを経験することで見直された人と人との縁を、改めて象徴的に表現するものなのかもしれない。一人の部屋から始まったジェイコブの音楽探求がそんな地平に辿り着いたことにある種の感動を覚えるし、シリーズを終えた先にある彼の新たな表現にも期待したくなってきた。

ジェイコブ・コリアーの〈Djesseシリーズ〉を紹介。
左から、2018年作『Djesse Vol. 1』、2019年作『Djesse Vol. 2』、2020年作『Djesse Vol. 3』(すべてHajanga/Decca)

『Djesse Vol. 4』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ウィロウの2022年作『Copingmechanism』(MSFTS/Roc Nation)、スティーヴ・ヴァイの2023年作『Vai / Gash』(Favored Nations)、ブランディ・カーライルの2021年作の新装盤『In These Silent Days: In The Canyon Haze(Deluxe Edition)』(Elektra)、レノン・ステラの2020年作『Three. Two. One』(Records/Columbia)、レミ・ウルフの2021年作『Juno』(Interscope)、マイケル・マクドナルドの2017年作『Wide Open』(Chonin/BMG)、ローレンスの2020年作『The Live Album』(Pヴァイン)、マディソン・カニンガムの2022年作『Revealer』(Verve)、クリス・シールの2021年作『Laysongs』(Nonesuch)、アヌーシュカ・シャンカールの2022年作『Chapter I: Forever, For Now』(BMG)、カミロの2022年作『De Adentro Pa Afuera』(Sony Latin)、ショーン・メンデスの2020年作『Wonder』(Island)、ストームジーの2022年作『This Is What I Mean』(0207 Def Jam)、カーク・フランクリンの2023年作『Fathers Day』(RCA)、リジー・マカルパインの2022年作『Five Seconds Flat』(Harbour)、ジョン・メイヤーの2021年作『Sob Rock』(Columbia)、ジョン・レジェンドの2022年作『Legend』(Republic)、トリ・ケリーの2020年作『A Tori Kelly Christmas』(Capitol)、aespaの2023年作『Drama』(S.M.)、コールドプレイの2021年作『Music Of The Spheres』(Parlophone)