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悔しくてしょうがなかった

 当時はまだ、楽曲や動画の配信が当たり前ではなかった時代だ。ことにV系界隈のシーンにおいては、頻繁にシングルのリリースを重ねた末に、満を持してアルバムを出すという流れが一般的だった。それに対して彼らは大胆にもいきなりフル・アルバムを発表するわけだが、そこにはちゃんと考えがあった。

 「時代的にはシングルをコンスタントに、しかもジャケット違いで複数ヴァージョン出すというのが主流になっていたんです。ただ、そこで同じことをしていたら埋もれてしまうし、知名度や資本力のあるバンドには太刀打ちできない。そこで僕らは、あえてすべてにおいて真逆のことをやることにしたんです。だから、ロクに実績もないままワンマンをやり、いきなりアルバムを出し、当時たくさんあった音楽雑誌にも出ていこうとしなかった。実際にライヴを観てくれた人たちの口コミの力に勝るものはないと思っていたし、イヴェントに出たときに〈世間には全然知られていないのに異様に盛り上がっているバンド〉になりたかったんです」(玲央)。

 ここで着目したいのは、lynch.の音楽性についてだ。彼らの出身地である名古屋には〈名古屋系〉と呼ばれるV系界隈の領域においてもひときわダークな世界観を特徴とするカテゴリーがある。ただ、彼らの音楽スタイルは、その流れをそのまま踏襲するものではなく、むしろ同時代的な欧米のラウド・ロックにも触発されたものだった。

 「ルーツとしては90年代のロックも、当時ニューメタルと呼ばれていたものも含まれてますね。リンキン・パークの『Hybrid Theory』(2000年)やエヴァネッセンスの『Fallen』(2003年)が出てきたときには刺激を受けたし、自分もまずアルバムを聴いて衝撃を受けて、そこから興味が広がっていく感じがあった。自分たちが最初から強引にでもアルバムを作ろうとしたのは、そういう流れを作りたかったからでもあったと思います。ただ、いまになって『greedy dead souls』を振り返ってみると、アルバムとしての幅を意識しながら、むしろV系的な発想でのバランスのとり方をしていたなとも思う」(葉月)。

 「あれはかなり特異なアルバムだったように思います。激しい音楽をやりたくて始めたバンドなのに、歌モノの曲も結構入ってますしね」(晁直)。

 「比較対象のない1枚目のアルバムだからこそ許された〈幅〉だったとも思う。同時に、音楽的に幅を持たせることで、いろいろな傾向のイヴェントに誘われやすくなるはずだという狙いもありましたね」(玲央)。

 V系というカテゴリー名は、音楽性を限定するものではない。そしてlynch.の音楽もこうしたインディーズ期の作品をスタート地点としながら進化と洗練を重ねてきた。

 「本来、最初のアルバムが完成したときは感慨深いはずなのに、僕としては悔しくてしょうがなかった。精一杯やったつもりだったけど、自分のなかで鳴っていたイメージに全然手が届いていなかった。だから、そこでの〈こんなはずじゃなかったのに〉という気持ちが次の作品への原動力になったし、以降もそれを繰り返してきたんです。ただ、一時の自分たちはトレンドとかも意識しながら、それをどんなふうに消化しようかと考えたりもしていましたけど、ある時期を境にそれが一切気にならなくなってきて。いまはむしろ、今回の再録を経てきたからかどうかはわかりませんけど、あの当時やりたかったことをいまの自分たちとしてやってみたいという気持ちも出てきている。かつて経験不足ゆえにやりきれずにいたことが可能になっているいま、〈もともとやろうとしてたのってこういうことだよね?〉というものを作ったら、ものすごく純度の高いものになるんじゃないかと思うんです」(葉月)。

 すでに4月18日からは今回の作品を携えながらの全国ツアーも始まっている。そこでは当然ながら、誕生から20年を経た楽曲たちがふんだんに披露されているはずだが、そうしたプロセスのなかで彼らは、単なる原点回帰ともまっすぐな進化とも違った、2025年のlynch.ならではの次の答えを見つけることになるのかもしれない。 *増田勇一