いま聴いて気持ちいいグルーヴィ&メロウなフュージョン
――選曲についてもお伺いしたいです。シティポップ視点でも聴けるグルーヴィなものやメロウな曲が中心になっている印象でした。
栗本「おっしゃる通りです。僕は1970年生まれのバンドブーム世代で、80年代前半の中学生時代はフュージョンブームでしたが、高校・大学生になってバンドを始めた80年代後半はフュージョンは廃れていたので、ネガティブなイメージを持っている人が多いんです。なので自分と同世代の方にも〈こんなにいい曲があったんだ〉と知ってもらえる、いま聴いて気持ちいい曲を集めることがコンピの起点の一つです。
有名無名は考えずに選び、未配信の音源も収録していますが〈レア曲を集めよう〉という意識はない。色々な作品を聴いた中で〈いまならこれ〉という曲をピックアップしています。やはりグルーヴィなもの、メロウなもの、シティポップに隣接したサウンドは意識しました」
柴崎「当時はハードロック的なものとフュージョンって実は意外と近いものだったりしたわけですけど、そういう印象の曲は入っていないですもんね」
栗本「ええ。速弾き系のいわゆるパワーフュージョンと言われる楽曲はないです」
柴崎「プログレ的な要素の濃いものもない。例えば、著名なバンドだとしてもPRISMとかは入っていない、という」
栗本「PRISMは“MORNING LIGHT”というメロウな曲を入れようかと思ったのですが、色々選んでいるうちに外しちゃいました」
柴崎「フュージョンがブームだった当時は何よりプレイヤーに刺激を与えた音楽だったと思うので、リスナー的な視点でメロウなものより、ヴァーチュオーゾ的な派手さがあるものにスポットが当たりがちな傾向があったんでしょうね」
栗本「速く弾けるか、速く吹けるか、といった点が全面に出ている曲も多かったですからね。あと、80年代に入るとシンセが多用されていたじゃないですか。あの音色は10年ほど前だったらアウトだったでしょうが、徐々にアリになった風潮の変化も意識しました」
コンピはジャケが命
――70~80年代に主流だったフュージョン像と、それから40~50年経った今の視点の違いがこのコンピには表れていますね。
柴崎「それに、全曲ポップですよね。メロディやハーモニーが現代の感覚に合うし、リズムも、16ビートであってもヘビーなファンク調でなくライトな曲が多い。シティポップの専門家でもある栗本さんの視点を感じる選曲です。
正直、YouTubeなどネットに上がっているものは音の傾向が雑多すぎるので、プロの審美眼によって選曲されている点が大事だと思います」
栗本「それと、こだわった点はデザインやアートワークですね。描いていただいたのはステレオテニスさんという電気グルーヴのグッズのデザインもされている方で、80年代カルチャーに影響を受けているグラフィックアーティストです。いろんなレコードジャケットやサンプルを渡し、80年代のおしゃれなイメージで作ってもらいました。当時のパルコっぽいですよね」
柴崎「オリジナル盤のアートワークは、ぶっちゃけいなたいものが多いですからね(笑)。コンピはジャケット如何で如実に反応が変わるので重要なポイントだと思います。以前橋本徹さんにインタビューした際にも、〈フリー・ソウル〉シリーズが好評を得たのも〈NANAの小野英作くんがデザインしてくれたロゴやアートワークの魅力も大きかったと思う〉とおっしゃっていましたから。かつての『60’sキューティ・ポップ・コレクション』シリーズとか『筒美京平 ウルトラ・ベスト・トラックス』シリーズとかも、ジャケが渋谷系っぽいセンスだったから非リアルタイム世代にアピールしたわけですし。今回の『CROSSOVER CITY』は、業界のインサイダーにとってもコンピ作りの参考になるモデルケースだと思います」