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ポール・ウェラーは何度目の絶好調期を迎えているのか? ロックダウン期間に制作を始めた10か月ぶりの野心作にはライヴへのファットな情熱が溢れている!

 昨年7月にリリースした『On Sunset』がキャリア通算7枚目(ソロでは5枚目)の全英1位に輝き、これによって1980年代から2020年代まで5つの連続したディケイドでアルバムが全英1位を獲得したことになるポール・ウェラー。そんな大記録にビックリしないのは、ジャムの初作『In The City』を出して以降の彼が常に1~3年おきのペースでアルバムを出し続けているからであり(スタイル・カウンシル『Confessions Of A Pop Group』からソロ初作まで4年開いているが、その間には『Modernism: A New Decade』があった)、彼がその場の流行に左右されず継続的で安定した創作そのものを目的としているからだろう。そのようにコロナ禍の最中に世に出て支持を得た『On Sunset』ではあったが、ロックダウンの最中に当のウェラーは次なる作品に取り組んでいたわけで、その成果こそが前作から10か月で届いた今回のニュー・アルバム『Fat Pop (Volume 1)』となる。

PAUL WELLER 『Fat Pop (Volume 1)』 Polydor/ユニバーサル(2021)

 実際のところ、ロックダウン宣言に伴って夏のツアーが難しいと判明した昨年3月の時点で、ウェラーはすぐさま動いていたという。「電話の中には貯めておいたアイデアがたくさんあった。最低、それらを少し曲らしくしてみる時間はあったわけだ」と語っているように、いろんな意味での空白感を彼は作業に没頭することで埋めようとしたのだ。歌をピアノ、ギターをひとりで録音し、そのファイルをお馴染みのバンド・メンバーたち――スティーヴ・クラドック(ギター)、アンディ・クロフツ(ベース)、ベン・ゴードリエ(ドラムス/パーカッション)――とやりとりすることで新作に並ぶ楽曲たちは成形されていった。

 「全員が一緒でなかったのはちょっと変な感じだったけど、少なくとも仕事を途切れず続けられた。そうでなければ、気が変になってしまっただろうから」。

 そしてロックダウンが緩和された夏にバンドの面々はウェラーの拠点=ブラック・バーン・スタジオに集結し、楽曲を仕上げにかかった。そうやって生まれたのはどれも3分前後にまとめられたコンパクトかつキャッチーな全12曲である。「最初は1曲ごとシングルとしてリリースし、最後に一枚のアルバムにまとめようかとも思った。でもそのやり方は現時点では実践的じゃなかった。どの曲にも強さがあり、いまの時代に合う即時性がある」という言葉の通り、いずれも短い尺の中でキャッチーな引っ掛かりを備え、アレンジは想像以上に多彩。そんな楽曲群をアルバムをまとめるにあたってウェラーが重視した基準は、皮肉なことに「ライヴで演奏できる曲」だったそうだ。

 「この状況を考えると、それがいつになるかは神のみぞ知るところだ。でも僕の頭の中の〈想像のギグ〉で、僕らはこの新作の全曲をライヴで演奏している。『On Sunset』の曲やみんなが大好きな昔の曲も織り交ぜて演奏している姿が見える。そうなったら最高のセットリストだね」。

 そんなギグの素となるアルバムはキュートなシンセ・ポップ“Cosmic Fringes”で始まる。別のポールによる『McCartney II』の幕開けがほんの一瞬よぎるのは錯覚で、一時のデヴィッド・ボウイやイギー・ポップを思わせるグラム経由のニューウェイヴ感覚が妙にフレッシュだ。ややボウイっぽい歌い口は表題曲“Fat Pop”にも共通したもので、ここでの雄弁なベースはウェラー自身の演奏によるものだそう。さらに、彼らしい芯のあるロック・ナンバーなら、ミステリンズのリア・メトカルフとヴォーカルを分け合った“True”もあるし、イギーをイメージして書いたという“Moving Canvas”もある。バンドのダイナミックさという点ではサイケデリック時代のノーマン・ホイットフィールドを想起させるファンク“Testify”も強力だ。また、自分なりに〈Black Lives Matter〉に呼応したという“That Pleasure”やメンタル面で悩む若者たちに向けたような“In Better Times”は〈即時性がある〉部分だろう。

 それらのなかから先行シングルとしてMVも制作されたのは娘のリアと共作した古典的な英国ポップス調の“Shades Of Blue”で、往年のキンクスやブラーを思わせる箱庭っぽさが魅力的だ。アルバムはクラドックと共作したリリカルな“Still Glides The Stream”で厳かに締め括られる。アルバムに〈Fat Pop〉と冠した理由は、本人もお気に入りだという表題曲のメッセージがそのまま作品トータルのコンセプトとして相応しかったことの結果なのかもしれない。

 「(“Fat Pop”で歌っているのは)音楽、そして音楽が人間に与えてくれたものへの感謝だ。どんな状況にあろうと、いま僕らはひとつだ。音楽は僕らをがっかりさせたりしない」。

 ポール・ウェラーの音楽も恐らくは私たちをがっかりさせたりしないだろう。

 

左から、ポール・ウェラーの20年作『On Sunset』(Polydor)、ポール・ウェラーが客演したストーン・ファウンデーションの20年作『Is Love Enough?』(100%)、デクラン・オルークの21年作『Arrivals』(Eastwest)