Page 2 / 2 1ページ目から読む

東海岸ヒップホップを消化しつつ持ち味を発揮したファレルのビート

その〈現行ブーンバップの猛者としてのプッシャ・T〉という視点を加えると、本作でのいくつかのビートのブーンバップ内トレンドとの共通点に気付く。ジョン・レジェンドがフックを歌うオープニングの“The Birds Don’t Sing”は、シンプルなピアノに重厚なシンセを絡めたサブジャンルに括れないビートだが、主役2人がラップするヴァース部分はドラムレス。続くケンドリック・ラマーとの“Chains & Whips”はハイハットとスネアを入れておらず、ドラムはキックのみだ。これらはグリゼルダやロック・マルシアーノなどが牽引する、ブーンバップ内トレンドのドラムを足さないスタイルとも合致した試みだ。

“So Far Ahead”のフックの、サンプリングをあまり加工せずにそのまま活かすような作りにも(断片的だが)同じ美学があると言えるだろう。また、“Chains & Whips”でレニー・クラヴィッツが弾くブルージーなギターの響きや、タイラー・ザ・クリエイターとの“P.O.V.”でループされる不気味なピアノなどはダリンジャーあたりが使いそうな音色だ。

トレンド的ではないビートでも、MVで先行公開されていた“So Be It”や“M.T.B.T.T.F.”、“Inglorious Bastards”などブーンバップ色が濃いものが散見される。また、“Inglorious Bastards”と“Let God Sort Em Out/Chandeliers”ではタイラー・ザ・クリエイターやプレイボーイ・カーティらが取り組んできたホストDJの煽りをフィーチャーしているが、その人選も2000年代のNYシーンで活躍したDJクルー。トレンドに乗っても東海岸ヒップホップ文脈に一つ寄せる姿勢がまた徹底している。こういった部分があるからこそ、ストーヴ・ゴッド・クックスやナズのようなラッパーが自然と馴染んでいるのだ。

とはいえ、ブーンバップ要素を取り入れつつもやはりそこはファレル。多くの曲では非ブーンバップ的なシンセがズビズビと鳴っているし、いくつかの曲ではキャッチーな歌フックも聴ける。本作はトレンドを巧みに消化しながらも同化はしない、両者の持ち味がしっかりと出た絶妙なバランスが光る見事な〈2009年の次〉だ。

 


RELEASE INFORMATION

CLIPSE 『Let God Sort Em Out』 Clipse/Roc Nation(2025)

リリース日:2025年7月11日(金)
配信リンク:https://ffm.to/letgodsortemout

TRACKLIST
1. The Birds Don’t Sing (feat. John Legend & Voices Of Fire)
2. Chains & Whips (feat. John Legend & Voices Of Fire)
3. P.O.V. (feat. Tyler, The Creator)
4. So Be It
5. Ace Trumpets
6. All Things Considered (feat. Pharrell Williams & The-Dream)
7. M.T.B.T.T.F.
8. E.B.I.T.D.A. (feat. Pharrell Williams)
9. F.I.C.O. (feat. Stove God Cooks)
10. Inglorious Bastards (feat. Ab-Liva)
11. So Far Ahead (feat. Pharrell Williams)
12. Let God Sort Em Out/Chandeliers (feat. Nas)
13. By The Grace Of God (feat. Pharrell Williams)