田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週の話題といえば、イギリスで開催されたブリット・アワード! アデルが主要3部門を受賞したことが話題でしたが、何より圧巻だったのは、リアム・ギャラガーによる新曲“Everything’s Electric”のパフォーマンス……!」

天野龍太郎「だから、オアシスネタはもう飽きましたって……。僕は、リトル・シムズが最優秀新人賞を獲ったのが印象的でした。というか、いまは、日本時間の今朝行われた第56回スーパーボウル・ハーフタイムショーの話題で持ちきりです。真っ白のPA卓を前に現れたドクター・ドレーの登場からかっこよすぎ。さらに、スヌープ・ドッグとの故2パックの名曲“California Love”のパフォーマンスには感動しました。50セントもサプライズで登場したし。アンダーソン・パーク、そしてケンドリック・ラマーと、彼らの後輩たちも最高のパフォーマンスを披露していて、泣けたな~。何より、エミネムがね……」

田中「“Lose Yourself”をラップした後に片膝をつき続けたエミネムの姿には、かなりグッときましたよね。すべてのシーンが見どころ、というべきすさまじいショーでした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Pusha T “Diet Coke”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はプシャ・Tの新曲“Diet Coke”です。ソロシングルとしては2019年以来2年ぶりなので、話題になっていますね。プロデューサーが、イェことカニエ・ウェストと88・キーズ(88-Keys)というのもポイント。ミュージックビデオにはカニエも出演していますね」

天野「キング・プッシュことプシャ・Tについては説明不要だと思いますが、元々は米バージニア・ビーチのデュオ、クリプスの片割れですよね。カニエがプロデュースした『DAYTONA』(2018年)が傑作と評され、その後にカニエが手がけた“Sociopath”“Coming Home”もよかったので、ノリにノっているラッパーです。1月、ラナ・デル・レイの写真にコカインを盛り付けた写真をソーシャルメディアに載せて、相変わらず物議を醸していましたが(笑)。この“Diet Coke”は、今年リリースされる予定の新作『It’s Not Dry Yet』からのシングルです。ビートは88・キーズが2004年にリリースしたミックステープのために作ったものだそうで、ピアノや早回しのボイスサンプルがちょっと素朴で、懐かしい感じ。ファット・ジョーの声がサンプリングされていて、それがスクラッチされたり編集されたりしていて、サイケデリックな効果を生んでいます。プッシャは〈ダイエットコークを頼んだなんて、冗談だろう?〉とクラックコカインにかけてラップしながら、〈クラック・エラはブラック・エラだった/それをまだ鏡に映し出しているやつらは何人いる?〉とクラックが黒人コミュニティーを破壊した80~90年代を生き延びたことに言及。ちなみに、〈鏡〉というのはコカインを吸い込むときに使うものと、時代の反映のダブルミーニングになっていますね。44歳のプシャ・Tが彼らしい言葉をスピットしたこの曲、素晴らしいと思います」

 

Caroline Polachek “Billions”

天野「続いては、キャロライン・ポラチェックの“Billions”。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー“Long Road Home”(2020年)に歌を乗せたカップリングと共にリリースされた新曲です。キャロラインといえば、〈元チェアリフト〉という紹介がもはや不要なくらいに、ソロアーティストとして存在感を放っていますよね。最近もチャーリーXCXの“New Shapes”にフィーチャーされるなど客演は多いですし、インディーポップの枠を超え出た、いまのポップシーンの重要人物の一人だと思います」

田中「そんな彼女の新曲は、ハイパーポップシーンを支えるプロデューサー、ダニー・L・ハール(Danny L. Harle)とのコラボレーションソング。ゆったりとしたリズムでありながらも、非常に細かく打ち込まれたビートが印象的で、何より音の質感がすごく不思議。ポラチェック特有のホーリーな歌声も相まって、ひんやりとしていながらも、そのなかに強い生命力を宿しているかのようなサウンドです。個人的には、『Homegenic』(97年)期のビョークを思い出しました!」

 

Rauw Alejandro “Caprichoso”

田中「ラウ・アレハンドロについては、〈2021年年間洋楽ベストソング25〉でヒット曲“Todo De Ti”を選びましたよね。プエルトリコ出身で、ラテンポップ界を席巻しながら欧米のメインストリームでも活躍しはじめている新星です」

天野「2021年、“Todo De Ti”とアルバム『Vice Versa』のヒットから間髪入れずに、“Hunter”と今年最初のシングル“Caprichoso”をリリースしました。“Hunter”はダークなラテントラップでしたが、この“Caprichoso”はレゲトンっぽい自由で伸びやかなフロウの歌とユーフォリックなトラップビートが組み合わされたポップな曲。バッド・バニーの“Safaera”(2020年)を思い出す奇妙な音色のベースと、レゲエっぽいフィルインのサンプルが印象的ですね。プロデュースは、ダンスホールやレゲトンからUSヒップホップまでを手がける売れっ子のラシアン(Rvssian)とラウ本人。曲名の〈caprichoso〉は〈気まぐれ〉という意味で、〈気まぐれじゃないんだ〉〈彼女に『会いたい』とメールした/返信がないならしかたない/酒を飲むたびに君のことを思い出す〉と離れていった元恋人(?)への思いを歌っているようです。海! 島! ご馳走! ダンス! 車!という感じの明るいミュージックビデオは、寒波に襲われた東京にいる自分にはうらやましくてしかたないです(笑)。とにかく、2022年もラウに注目ですね!」

 

Fivio Foreign, Kanye West & Alicia Keys “City Of Gods”


田中「この一週間のビッグなコラボ曲といえば、これでしょう。NYドリルの雄、ファヴィオ・フォーリンがカニエ・ウェストとアリシア・キーズを招いた“City Of Gods”! タイトルどおりNY賛歌と言える内容の曲で、それぞれが街への思いを歌っています。でも、カニエはNY出身ではなかったと思いますが……」

天野「カニエは、〈俺はシカゴ出身だけど、いつもNYにいるぜ〉とラップしていますね。ファヴィオ・フォーリンは、もともとシーンのなかでもポップ志向だったのですが、この豪華な面々でハードなドリルをやっているのがいいなと思いました。ファヴィオは、今月銃殺されてしまった若きドリルMC、Tドット・ウー(TDott Woo)ことタージェイ・ドブソン(Tahjay Dobson)に捧げた曲だと言っています。そんな背景があるからか、血なまぐさいストリートライフを歌う彼のラップには、悲痛さが漂っていますね。しかも、プレイボーイ・カーティ(Playboi Carti)がさりげなくアドリブで参加しているんですよね」

田中「プロデューサーにチェインスモーカーズがクレジットされていてびっくりしたのですが、アリシア・キーズのパートは彼らの“New York City”(2015年)のメロディーをなぞっているんですね。なお、ファヴィオは、デビューアルバム『B.I.B.L.E.』を3月25日(金)にリリース。カニエがエグゼクティブプロデューサーを務めているそうで、期待の一作と言えるのではないでしょうか」