©Sakiko Nomura

デューク・エリントンの名曲と新時代のジャズをひっさげて、神奈川県内の4つのホールをサーキット!

 昨年、壷阪健登は小曽根真プロデュースによるソロ・ピアノ作『When I Sing』をリリースした。ホールで録音された同作は全曲オリジナルのもとピアノと真正面から対峙し、ジャズ・ピアニストである矜持を瑞々しく表出する内容を持つ。その個人名義のデビュー・アルバムはピアノ一台でホールを一つの〈響く器〉とすることも十全に成していたわけだが、そんな彼はこの秋に神奈川県の4つのホールで公演を行う。

 「ずっと横浜育ちで、中高は(藤沢市)湘南台だったんです。今まではライヴをするとしても横浜だったので、茅ヶ崎、川崎、三浦、葉山でやるという機会はそうはないと思いますし、楽しみですね。しかも、4日間連続の公演です。そこはジャズですしどんどん変わっていくことも醍醐味になると思いますので、その4日間の変化を僕自身も楽しみたいです。もしかして、崩壊していく曲もあるかもしれませんが(笑)」

 神奈川県の4つのホールをサーキットしていくという今回のツアーは、ダブル・ベースの高橋陸(1996年生まれ)とドラムの中村海斗(2001年生まれ)という、しなやかな空間感覚とともに今の輝きを直裁に出せる奏者たちとのトリオでなされる。

 「やっぱりトリオというのはジャズ・ピアニストとして、ずっとやっていきたいフォーマットですね。実はこの6月にニューヨークでバークリー(音大)に行っていた際の仲間とトリオによるレコーディングをしてきたりもしました(それはリーダー次作として、来年初頭にリリースされる予定だ)。今回のトリオの2人は僕の大切な仲間で、間違いなく今のシーンを牽引する2人。彼らはもちろん普通にジャズ・スタンダードを演奏しても素晴らしいんですけど、決してそれだけに終わらないんですよ。一緒に演奏をするとその場で起きていることに触発されどんどん新しい何かが起き、それを楽しみながらさらに自由な方向に一歩一歩挑戦することを共有できる仲間なんです。また、せっかくなのでトリオ編成を中心としつつ、ソロ・ピアノでもやろうと思っています」

 今回の催しは、神奈川県民ホール(現在建て替え準備のため休館中)の〈C×(シー・バイ/Composer・Classic・Contemporary)〉という多角的シリーズ企画の流れにあるもの。そのジャズ版となる〈C×JAZZ(シー・バイ・ジャズ)〉の出演者としてヴァーサタイルな活動指針を誇る壷阪健登に白羽の矢が立てられた。

 そして、11月下旬に開かれるその4公演には「壷阪健登×デューク・エリントン」いう表題がつけられている。デューク・エリントン(1899~1974年)は、言わずと知れた名だたるジャズの巨人。スウィング・ジャズ期からモダン・ジャズ期までビッグ・バンド・リーダーやピアニストとして、さらに朋友ビリー・ストレイホーンとの誉に満ちた作曲活動まで、様々な観点でジャズの創造性と美を示してきた偉人だ。

 「これまでの〈C×〉シリーズって、すごく現代的で挑戦的なものが多いんですよね。今回はジャズの中でコンポーザーに着目するっていう企画ですので、やっぱりそうなると最初にピンと来たのがデューク・エリントンだったんです。エリントンって様々な観点から讃えられるべき深すぎる人物なんですが、今回そんな彼に向き合えるすごくいいチャンスだと思っています。とにかく、ジャズのゴッドファーザー的な存在じゃないですか。ずっとキャリアを通して続けたビッグ・バンドに限らず、例えばピアニストとしても(チャールズ・ミンガスとマックス・ローチとのトリオ録音作)『マネー・ジャングル』(1963年)をはじめ素晴らしいです。せっかく今回の企画をトリオでやるので、ピアニストとしてのデューク・エリントンを掘り下げてみたいとも思います」

 そうエリントンを讃える壷阪は、そのコンポーザーとしてのスケールの大きさも4公演で表出しようと考えている。

 「みんなが知っている“サテンドール”だとか“スウィングしなきゃ意味がない”といった曲だけでなく、様々なスイート/組曲も発表していますよね。中には、チャイコフスキーの“くるみ割り人形”をジャズ的にアレンジしたアルバムもあります。そうした大作群と向き合い、自分の中で書き下ろした組曲をトリオで演奏したいですね」

 エリントンと壷阪はほぼ100歳、年齢が離れる。当然、生まれ育った環境も異なる。そんなかけ離れた2人がジャズという様式や耳馴染みのある楽曲を介してどう重なり合うのか。そうした興味深い作業から、いかに壷阪健登という今を生きるジャズ・ピアニスト/作曲家の姿が浮かび上がるのか、興味はつきない。

 「エリントンは本当にジャズの歴史そのものと言えるじゃないですか。そして、亡くなるまでずっと挑戦的な事をし続けました。今の時代に自分が只の真似っ子になることなく彼に取り組む事は、まさしくジャズという音楽に改めてちゃんと向き合ういい機会だと思っています。やっぱりトリビュート公演って本当に難しいですが、ワクワクしています」

 


LIVE INFORMATION
神奈川県民ホール presents
C×JAZZ(シー・バイ・ジャズ)
壷阪健登×デューク・エリントン

2025年11月27日(木)茅ヶ崎市民文化会館 小ホール
開場/開演:18:30/19:00

2025年11月28日(金)ラゾーナ川崎プラザソル
開場/開演:18:30/19:00

2025年11月29日(土)三浦市民ホール
開場/開演:14:30/15:00

2025年11月30日(日)葉山町福祉文化会館
開場/開演:14:30/15:00

■出演者
壷阪健登(ピアノ)/高橋陸(ベース)/中村海斗(ドラムス)

■曲目
D. エリントン:A列車で行こう
D. エリントン:イン・ア・センチメンタル・ムード
壷阪健登:The Suite for Duke(新曲・神奈川県民ホール委嘱作品) ほか

https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/jazz