
カルテットの自由闊達な演奏とホールの豊かな空気感がパッケージされたライヴ・アルバム
2023年にアルバム『STEPS OF THE BLUE』でまさしく彗星のように現れた松井秀太郎。自身のリーダー活動と並行して、BLUE NOTE TOKYO ALL STAR JAZZ ORCHESTRAや小曽根真 No Name Horsesのメンバーとしての活動や、ARK BRASS、シエナ・ウインド・オーケストラとの共演など、精力的な活動を展開する松井が、10月22日に初のライヴ・アルバム『FRAGMENTS - CONCERT HALL LIVE 2025』を発表する。2025年2月~4月に開催されたコンサートホール・ツアーの模様を収めた同作について詳しく話を聞いた。

――最新アルバム『FRAGMENTS』は3作目にして初のライヴ・アルバム。ファン待望の作品になっています。
「実を言えば、ライヴ・アルバムを出すというのは、自分にとって夢のひとつでもありました。というのも、自分はその場の音を大切にするという気持ちで音楽をやってきていますが、そういう視点から考えると、自分の演奏に耳を傾けているお客さんたちがいらっしゃる場で、しかも録り直しができないという状況でレコーディングするというのは、とても特別なことだと思っていて。早くトライしたいとずっと思い続けていたのです」
――制作に踏み切ったきっかけは?
「今年2月15日のことです。『FRAGMENTS』は、2025年2月~4月に行った〈松井秀太郎 CONCERT HALL LIVE TOUR 2025〉というツアーのベスト・テイクを収録したものですが、その初日の演奏を終えて楽屋に戻る時に、〈このバンドの今の音を形に残したい!〉という気持ちが湧きあがってきて。それがきっかけになっています」
――このツアーは、松井さん、壷阪健登さん、小川晋平さん、きたいくにとさんの4人から成るカルテットにとって初のツアー。その初日に決められたのですか?
「はい。このツアーのレパートリーの多くが、ライヴによって広がっていくタイプの曲。そういうこともあって、初日を終えた段階で、〈きっとこのツアーはすごいものになるに違いない〉と確信できました。壷阪(健登)さん、(小川)晋平さん、(きたい)くにとさんもものすごい演奏でしたので」

――その皆さんの魅力をお話しいただけますか?
「晋平さんの演奏を聴いて最初に感じるのは、音を非常に大事にしている点。演奏中のどこを切り取っても、ものすごく説得力のある太い音がします。その魅力的な音でバンドを支えるとともに、音楽の動きを広げてくれるんです。きっと見えてる音楽が広い人なんだと思いますね。壷阪さんと正式に一緒にやり始めたのは、2024年のデュオ・コンサートから。ですから、共演経験はまだ1年くらいなのですが、それなのに、音楽的に通ずる部分がものすごく多いと感じています。自分の演奏するトランペットは単音楽器。一度にハーモニーを生み出すことはできません。それに対して壷阪さんの演奏するピアノにはそれができます。自分たちの音楽は演奏中にいろいろな世界へと進んでいくわけなんですが、メロディ楽器がリードするやり方だけでは辿り着けない世界、ハーモニーが変化することによって初めて入っていくことのできる世界があるんですね。その部分はトランぺッターである自分にはできないことなので、そういう世界観を共有できて、なおかつ、そこに導いてくれるのはとても嬉しいですね」
――いま世界観という話が出ましたけど、そういう点では、きたいさんもすごいですね。
「そうですね。演奏中に、〈この場面でそんなことをやるんだ!〉と驚くようなプレイがよく出てきますから(笑)。ですが、それは決して奇を衒うのではなく、彼の中から自然に湧きあがってくるもの。それを生み出すオリジナリティが本当に魅力的です。それからこれは3人に共通して言えることなんですが、ジャズ以外のたくさんの音楽を通って来ている点、そしてオーケストレーションをイメージした演奏をしてくれる点もとても大きいです。自分の音楽は、結果的にジャズと呼ばれる音楽になっているとは思いますが、それは決して、〈ジャズをやります!〉という考えでやっているのではなくて。音楽とはこうあるべきだという固定概念もないですし、逆に自分の作り出したい世界がジャズのボキャブラリーとはまったく異なることもあります。そのような、音楽を作るうえでの大きな価値観を共有できているのはとてもありがたいことだと感じます」
――ツアー全体から得たものはありましたか?
「たくさんありますが、最も大きなものというと、ふたつだと思います。ひとつは、演奏が発展していくエネルギーをこれまで以上に大きく感じ取れたこと。同じ曲をやっても、それが常に変化していくのです。でもそれは、変えようとして変えているのではなく、みんなが演奏中に閃いたアイディアによって自然発生していく変化なのです。それを毎回、経験できたので、ツアー最終日には、〈もっとツアーをやりたかったな〉という気持ちになりました(笑)」
――もうひとつの得たこととは?
「さまざまなコンサートホールで演奏することによって、それらの響きに刺激を受けることができたということが挙げられます。カルテットのツアーだけでなく、クラシックの方たちとの共演機会も多くいただき、ホールで過ごす時間が増えました。そうしたことによって、〈これからもホール演奏を続けていきたい、いつの日かホールでオーケストラと共演したい、そういう作品を書いてみたい〉、そういうさまざまな思いが湧きあがってきています。あのツアーではその思いがいっそう強くなりました」
――2026年のツアー・スケジュールが発表されました。ツアーに対する抱負をお聞かせください。
「来年のことではあるのですが、今から本当に楽しみで、新曲も書き始めています。嬉しいことに、今回は東京近郊、各地のコンサートホールで演奏します。今お話ししたように、ホールごとに響き方も異なっていますし、その中で自分たちの演奏も変わっていきます。そうした変化も複数回ご来場いただき、感じ取っていただけると嬉しいです」
松井秀太郎(まつい・しゅうたろう)
1999年生まれ。国立音楽大学附属高等学校を経て同大学ジャズ専修を首席で卒業。2023年、『STEPS OF THE BLUE』でメジャー・デビュー。自身のジャズ・カルテットでの全国ツアーやピアノとのデュオ公演をはじめ、小曽根真 No Name Horsesへの参加など幅広く活動。また、オーケストラとクラシックの協奏曲の共演を重ねるなど、ジャンルを超えたマルチな才能に注目を集めている。これまで、テレビ朝日「題名のない音楽会」やMBS/TBS「情熱大陸」などメディアでも取り上げられ話題となっている。2024年にはセカンド・アルバム『DANSE MACABRE』、2025年10月には『FRAGMENTS - CONCERT HALL LIVE 2025』をリリースし、2026年1月からは自身のカルテットにて全国ツアーを予定している。
LIVE INFORMATION
松井秀太郎 CONCERT HALL LIVE TOUR 2026
FLAGMENTS
2026年1月24日(土)東京・三鷹市芸術文化センター 風のホール
2026年2月6日(金)東京・サントリーホール ブルーローズ
2026年2月11日(水・祝)神奈川・ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
2026年2月14日(土)群馬・高崎芸術劇場 音楽ホール
2026年3月7日(土)北海道・札幌コンサートホールKitara 小ホール
2026年3月13日(金)福岡・福岡シンフォニーホール
2026年3月15日(日)大阪・住友生命いずみホール
2026年4月5日(日)埼玉・所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
2026年4月10日(金)東京・サントリーホール ブルーローズ
2026年4月12日(日)広島・広島県民文化センター
2026年4月24日(金)宮城・日立システムズホール仙台 コンサートホール
https://avex.jp/shutaro-matsui/live