
〈ナチュラルだけど強い〉TBM独自の音の作り方
平野「さらに、どうせやるなら〈本物〉 じゃないとダメだ、TBMの質感に仕上げなきゃいけない、と考えて、TBMの音作りの番人というべき神成(芳彦)さんにわざわざお越しいただいて、藤井さんと三人でトラックダウンを行ったんです。神成さんと藤井さんのやりとりを間近に見せてもらって、とても勉強になりました」
藤井「たいしたことはやってないよ(笑)」
平野「お互いを知り尽くしているから、細かい指示や確認をするわけではないけど、どちらかが気になったことを口にした途端に、微妙なニュアンスを含めて言いたいことがぜんぶわかっちゃうんですよ。もちろん、ぼくは置いてけぼりです(笑)。月並みな表現だけど、プロデューサーとエンジニアが、アイデアをフェアにぶつけ合いながら、阿吽の呼吸でまとめていくんです」
藤井「〈クルマの両輪〉みたいなものだからね」
平野「当然ながら、ミュージシャンの出音がそのまま音源になるわけじゃありません。お二人を見ていて、音源をリスナーに届ける状態に仕上げる責任はプロデューサーとエンジニアにあるのだ、という〈当たり前〉を再認識させられました。TBM作品は、ミュージシャン、プロデューサー、エンジニアの三者が対等・フェアな関係のなかで共作したものなんですよね」
藤井「目指しているのは、まさにそういうことです。TBMの音は〈ナチュラルだけど強い〉でしょう?」
平野「ほんとにそうですね。〈熱量〉と〈解像度〉が高い水準でバランスしている。高純度なのに生々しいというか、高密度なのにみずみずしいというか……。当時の規範だったルディ・ヴァン・ゲルダーの音とも違うし、その対極にあるECMの音とも違います」
藤井「ルディはソロのオーダーに応じて楽器の音量を細かく調整するんだけど、ぼくはそうしなかった。基本ポリシーはシンプルで、その場で聞こえている音をそのまま記録すること。プレイヤーをブースに入れることさえしていませんからね。ボーカル&オーケストラのときだって、カラオケなしで〈せーの!〉で録ってます。それが出来なきゃ一流の歌手とは認めません」
平野「おお、カッコいい!」
藤井「平野さんだって、岡本太郎のアトリエで録るときはそうでしょう?」
平野「はい。パンチイン(音源の部分修正)もオーバーダブ(多重録音)も一切ナシの〈一発録り〉で、事実上の〈ライブレコーディング〉です。特別な空間だから、現場の空気をありのままにキャプチャーしたくて……」

世界のあらゆる音楽のなかで最先端を行っているのは現代日本のジャズ
――藤井さんは、Days of Delightの近作をどういうふうに聴いていらっしゃるのでしょうか?
藤井「これを一部差し上げましょう。この1年ほどの間にぼくが聴いたジャズ作品のトップ5、その次に一昨年からそれ以前のおおよそ7年間で面白かった作品を発売順でリストアップしています。

まずね、世界中のあらゆるジャンルの音楽のなかで最先端を行っているのは現代日本のジャズだと、ぼくは考えているんです。そのなかでも、ビートとインプロを中心に構成されているステージ。これがもっとも面白い。藤井郷子の『ドリーム・ア・ドリーム』も〈ここは譜面どおりに演奏しているな〉と思うところはあるんだけど、どこまでが譜面で、どこからがインタープレイで、どこまでがインプロなのかわからない部分がスリリングで、ついつい聴き惚れちゃうんですね」
――なるほど。
藤井「平野さんのDoDも、今年で設立7周年だそうですね。半世紀前とは違い、今や世界の現代ジャズを牽引するレーベルのひとつですよ」
平野「光栄です。ありがとうございます!」
藤井「1977年、TBMがちょうど7周年のときは一世一代の奮発をして、ぼくがバンマスで八人編成のTee & Companyというグループを作って全国ツアーと3枚のLPをリリースしました。それも決めるところは決めてあるけど、自由に絡んでいい、という演奏の仕方でした。そういう方向性は、昔から全然変わっていない。
それと、先日見つけたのが森剣治の1974年のライブ盤。これはアルトサックスのソロで一発勝負、17分弱吹き切っちゃった完全にフリーの作品です。ぼくはそういうのばっかり好きなんだけど、タワーレコードさんみたいに大きな商売をしているお店にはあんまり好まれないかもしれません(笑)。インプロでどこまで行けるかの一発勝負みたいな作品は、はっきり言って商売には向いていない。
でもね、最近アメリカのジャズの有名どころの新譜を何枚か聴いたけど、最後まで聴くに耐えないんですよ。いずれも売れ線のミュージシャンの作品でしたが、〈本当にやりたいジャズはこれなの?〉と疑問に思っちゃう。その点、DoDの新作が完成するたびに聴かせていただくと、ぼくが〈こういうことをやってほしい〉と思っていることをやってくださっている」
平野「嬉しいです! 励みになります!」
――藤井さんのご意見について平野さんはどう思われますか?
平野「同感です。なので、最近作っているものはインプロビゼーションの作品が多いんです。何が立ち現れるかわからない瞬間に立ち会って、生まれ出ずるものを耳にするスリルと歓び。二度と再現できない〈状況〉を記録し送り出すことが、作り手としてエキサイティングだし、楽しいんですよね。
それに、何といってもミュージシャン自身が面白がってくれるから、自ずと創造的な作品になる。〈こんなことをやらせてくれるところは他にありません〉と言ってくれます。ぼくとプレイヤーが手を取り合って感動するわけです」
藤井「うん(笑)。ただし、二人以上のインタープレイ中心のインプロ作品は面白いんですが、ソロインプロは練習の延長になる危険があるので気をつけたいですね」
平野「はい、肝に銘じます」