
プレイヤーを選ぶ基準は生演奏を聴いて〈ジャズセンサー〉が振れるかどうか
――お二人がオーナープロデューサーとして作品を制作することを決めるに至る過程は、どのようなものなんですか?
平野「ぼくがプレイヤーを選ぶ基準はいたってシンプルで、ライブで生演奏を聴いて体内の〈ジャズセンサー〉が振れるかどうか。一目惚れしたプレイヤーにはその場でレコーディングをオファーする。それだけです。なにしろDoDには企画会議も稟議書もありませんから(笑)」
藤井「まったく同じですよ。〈誰をやるか〉〈どんな内容にするか〉については100%ぼくが一人で決めていました。制作に関することはワンマンじゃないとダメなんだ」
平野「あの時代にデビューして最前線に出ていったプレイヤーって、ほとんどTBMが発掘して世の中に送り出していますよね。名声も実績も持たないミュージシャンを使って、あれほどたくさんの名盤を生み出した。単純にすごいことだし、とても真似できません」
藤井「例えば最初、売れない時代に2年間で8枚作ったんだけど、そのうちの4枚に峰厚介くんが参加しています。それはもちろん、ぼくが彼に惚れ込んでいたから。そういうことはしていましたね」

レーベルのブランドイメージは〈匂い〉のようなもの
――まだ実績がない若いプレイヤーを世に送り出すことも、マイナーレーベルの使命なのではないかと思うのですが。
藤井「そのとおりです。だから、DoDには〈日本のジャズのプラットフォーム〉ではなく、〈世界のジャズのプラットフォーム〉を目指してほしいと思っているんです」
平野「ありがとうございます。もちろん、すぐれた若いミュージシャンを世の中に送り出す発射台でありたいと考えています。そして、そのためにはレーベルへの信頼が不可欠です。たとえプレイヤー本人を知らなくとも、〈このレーベルから出ているなら間違いないだろう。騙されたと思って買ってみよう〉という状況を作れたら、可能性が大きく広がるからです。
ただし、そうなるためにはカタログの〈厚み〉が必要になる。5枚や10枚出したところでそうはなりませんからね。早く100タイトルまでいかないと。ただし、1枚でもひどい作品が混ざったらそこで終わりだから、拙速はまずいけれど」
藤井「ブランディングだね」
平野「TBMにはそれがある。独特のテイストを持つジャケットとネズミのロゴを見たら、ジャズファンは安心するし期待します。ぼくから見ると、あの強烈な信頼感とロイヤリティは絶望的なほど遠い道のりです」
藤井「そんなことはないよ(笑)」
平野「なにしろ金では買えないものですからね。そこが藤井さんとTBMのいちばんすごいところだと思います。到底追いつけません」
藤井「いや、平野さんにはもう追い越されてると思うよ(笑)。だって、ビート感とインプロ中心の世界最先端のジャズを録っているんだから」
平野「とんでもないです(笑)。でもそう言っていただけて、すごく嬉しいです。TBMのように世代を超えて聴き継がれるレーベルになれるといいんですが……」
藤井「TBMは、2005年10月にソニーミュージックに版権を譲渡して、ソニーやディスクユニオンからもリリースされていましたが、2024年からソニー・ミュージックレーベルズからTBM〈プレミアム復刻コレクション〉として、限定アナログ盤とSACDハイブリッド盤がリリースされはじめ、タワーさんや各通販でも好評を頂いています」
――レーベルのアイデンティティやブランドというものは、どういう部分で作られていくものなのでしょうか?
平野「ブランドイメージって抽象的かつ総体的な〈匂い〉みたいなものですよね。日本のジャズレーベルにおいて最初にそれを確立したのは間違いなく藤井さんでしょう。TBMは、演奏内容だけでなく、録音の品質やジャケットデザインを含めて、トータルにクオリティコントロールを行った最初のレーベルです。〈演奏水準〉〈音の質感〉〈アートワーク〉が一体になってレーベルの理念と思想を体現しようとした。先行する米ブルーノートが発明したこの〈三位一体システム〉を、藤井さんは日本的なやり方できっちり受け継いだ。それこそが数十年にわたってTBMが日本ジャズの頂点に君臨している所以だと思います。ぼくはこの気概を受け継ぎたいし、そんなことを考えているジャズレーベルはDoDだけだという自負もあります」
藤井「いやあ、どうもありがとう。そう言ってもらえて、2014年に破産するまで歯を食いしばってやった甲斐があったな(笑)」