歌舞伎町を舞台に、27歳の主人公が新たな世界と出会い、〈明日の私がちょっと好きになる〉物語
27歳の銀行員、由嘉里は、焼き肉擬人化マンガ「ミート・イズ・マイン」にハマる腐女子である。最近の不満はヲタ活仲間が次々と結婚や出産をし始めていること。いよいよ婚活を始めたのは、現実の男性と付き合うこともなく、このまま仕事と趣味で孤独に生きてゆく未来を憂いているからだ。そんな由嘉里にライは「仕事と趣味でも解消できない憂鬱を、男が解消してくれるとでも?」とバッサリと言い放つ。合コンで飲みすぎ、新宿の路上で酔いつぶれていた由嘉里を心配して声をかけてきたライは、歌舞伎町で働くキャバ嬢だ。映画はライによって導かれた由嘉里の〈新たな世界〉との出合いを描く。
かなりガチな腐女子でありながらそれを隠している由嘉里は、他者の目を気にせずにはいられないタイプだ。〈一般的な社会〉における自身の異物性に対する自覚は、彼女が自身を否定する価値観を内面化していることの裏返しでもある。ライと歌舞伎町のコミュニティは、生き方の多様性と個人主義的な不干渉によって、由嘉里を受け入れてゆく。夜中のラーメン屋での由嘉里とライのやり取りは印象的だ。「こんな時間にラーメンを食べていいのはBMI18以下の人だけ」と愚痴りながらも実は食べたい由嘉里は、結局はライが許すままに、彼女が頼んだラーメンを殆ど食べてしまう。自分が思うままに生きることを決して否定しないライに、由嘉里が特別な思いを抱く――〈幸せに生きてほしい〉と願うのは当然と言えば当然だろう。だが映画はここで巨大ブーメランを由嘉里に食らわせる。ライの思い描く幸せは〈死ぬこと〉なのだ。
何人もの登場人物が「ただ〈幸せ〉になってほしいだけ」と口にするが、その言葉は対象とする相手には決して届かない。まったく異なる価値観の人間が、同じ幸せを夢見ることは難しい。だが映画は決してそれを悲観せず、最後に残る小さなものは愛にもにている。
MOVIE INFORMATION
映画「ミーツ・ザ・ワールド」
出演:杉咲花
南琴奈、板垣李光人
くるま(令和ロマン)、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、中山祐一朗、佐藤寛太
渋川清彦、筒井真理子/蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」) 村瀬歩、坂田将吾、阿座上洋平、田丸篤志
監督︓松居大悟
原作︓金原ひとみ「ミーツ・ザ・ワールド」(集英社文庫 刊)
脚本︓國吉咲貴 松居大悟
音楽︓クリープハイプ
主題歌︓クリープハイプ “だからなんだって話”(ユニバーサルシグマ)
制作プロダクション︓ホリプロ
製作幹事・配給︓クロックワークス
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
(2025年|日本|5.1ch|126分)
2025年10月24日(金)全国公開
公式HP:https://mtwmovie.com/
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