松居大悟(監督)「映画を作ることで、何かがわかることもあるし、わからないことに気が付くこともある」

 すでに別れてしまったカップルの6年間を、その年ごとの7月26日(男の誕生日)で遡りながら描く「ちょっと思い出しただけ」は、2022年公開の松居大悟監督の作品だ。朝焼けのラストシーンは現在の7月26日で、別の人生を歩んでいるヒロインが自分の中にある彼の存在をふと思い出す。松居監督の最新作「ミーツ・ザ・ワールド」を見て、あの場面をちょっと思い出した。

 「意識はしてなかったけど、確かにそうですね。離れ離れになっても自分の中にその人がいる。一緒にいる時に習慣だったラジオ体操を、今でもついやってしまったり。相手のことをときどきちょっと思い出しながら、それぞれに生きていくというような感じが。10年前に会ったきりなのに、頭の中では昨日のことみたいに、その人の言葉や笑顔が浮かぶなら、それはその人と繋がっているっていうことだと思う……というか、僕は思いたい。人と人は一緒に生きていくべきだとは思っていませんが、出会いで人が変わることは、とても尊いことだと思うから」

 「ミーツ・ザ・ワールド」は金原ひとみの同名小説を映画化した作品だ。物語は、腐女子であることを隠しながら生きている銀行員、三ツ橋由嘉里(杉咲花)が、ひょんなことから出会ったキャバクラ嬢、鹿野ライ(南琴奈)の部屋に転がり込み、始まる奇妙な同居生活を描く。見た目も趣味も生き方も、ふたりに似たところはひとつもない。だが原作にはない〈朝焼けの場面〉が、それでもふたりが繋がっていることを物語る。

 「ライとの出会いは由嘉里の価値観を変えていき、彼女は〈鎧〉を脱ぐようになっていくんですが、ライの方も変わっていないわけではないんです。由嘉里が推すアニメをけっこうちゃんと見ているし、ゴミだらけのほうが楽だけど、由嘉里が片付けた部屋も、まあ歩きやすくはある、と思うようになっていく。由嘉里の中にライがいるように、ライの中にも由嘉里がいる、だからこそ同じものに対して同じ言葉が出るというシーンを作りたかったんですよね。同じ方向を向き、同じものを同じ思いで見つめた、他の人では成り立たないふたりだけの――それも1日で10分か15分くらいしかない朝焼けという瞬間で。朝焼けを見るたびに、由嘉里はその場面を思い出し、自分の中のライを思い出す、朝焼けを大切に思うようになるというところに行き着きたくて、あの場面を作ったんですよね」