2020年10月、新型コロナによるパンデミックで世界が混乱している最中に届いたエドワード・ヴァン・ヘイレンの訃報。長年がんと闘い続けていたエディの死の報せに、当時多くのミュージシャンやリスナーが深い悲しみに包まれた。

彼はその類まれなるテクニックと自らで組み上げた愛機を用いて、世界中のギタリストたちの中に眠っていた好奇心や向上心の導火線に火を付けた。エディの死から5年が経ったいま、音楽ライターの荒金良介にその功績と影響力について綴ってもらった。 *Mikiki編集部


 

エディがギタリストとして唯一無二である理由

〈エディ〉の愛称で親しまれたエドワード・ヴァン・ヘイレンが、2020年10月6日にこの世を去って5年が過ぎた。ここでは音楽シーンに革命を起こした〈伝説のギターヒーロー〉としての彼の功績を改めて検証したい。

エディといえば、真っ先に思い浮かぶのはライトハンド奏法だろう。彼は自らが率いたバンド、ヴァン・ヘイレンの1stアルバム『Van Halen』(邦題:炎の導火線)収録のインスト曲“Eruption”(邦題:暗闇の爆撃)で流麗なタッピングを披露し、ギターキッズを驚愕させた。とはいえ、当時はエディがどんな風に弾いているのか理解できなかった。ライブでもソロになると後ろを向いてプレイしていたため、確認する手段もなかったのだ。

※ライトハンド奏法は日本だけの呼称で、一般的にはタッピング奏法

SNSなどの情報ツールが未発達の時代、エディのプレイは謎が謎を呼び、話題先行で人々に伝播していった。もちろんタッピング自体は以前からあったものの、大勢のギタリストに広く認知させた立役者はエディをおいて他にいない。今やタッピングは、スタンダードなテクニックとして多くのギタリストが取り入れている状態だ。

ちなみにエディはアメリカではなくオランダ出身で、1967年に家族とともにアメリカへ移住している。父親がジャズミュージシャンだった環境も手伝い、実兄アレックス・ヴァン・ヘイレン同様に小さい頃からピアノを習っていた。その後エディはアレックスとバンドを組み、当初はアレックスがギター、エディがドラムスを担当、のちにエディはギターへと転向する。おそらく、このドラマーとして培ったリズム感がエディのギタープレイにも影響を与えているのではないか。著名なギタリストたちがタッピングだけではなく、エディのリズム/バッキングプレイを賞賛する理由もそこにあるように思う。ギターソロに入ると突出した才能を発揮するギタリストは多いが、エディはバッキングにおいても優れたプレイヤーだった。

エディの凄さはそれだけではない。自身のサウンドを追求するため、ギターという楽器自体に手を加え、そこで生まれたのがブラウンサウンドと呼ばれるギタートーンだ。彼が初期に使っていたギター〈フランケンシュタイン〉は、赤のボディに白と黒のストライプ(縞模様)がランダムに入り混じるデザインで、リスナーに視覚的にも強烈なインパクトを与えた。そのフランケンシュタインはエディがDIYで制作したもので、リアにハムバッキングピックアップ、フロントにダミーのシングルコイルピックアップを取り付けている。ウォームかつアグレッシブなギターサウンドは、エディ特有のトーンと言って差し支えないだろう。

ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアを例に出すまでもなく、ギターの音色だけで特定の人物像を想起させる演者がどれだけいるだろうか。エディは唯一無二のギタートーンにより、先述したタッピングやバッキングの上手さに加え、アーミングやハーモニクスを駆使し、独自のスタイルを確立させたのだ。