メタラーのジャズピアニスト、西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第81回は言わずと知れた偉大なバンド、ヴァン・ヘイレンについて。名盤『1984』のリリースから40年が経ったことも話題の今年、同作を中心に彼らの作品を西山さんが音楽家視点で再訪しました。 *Mikiki編集部
10月、やっと涼しくなりました。
9月から様々なアーティストの来日により、メタル繁忙期でした。皆さんそれぞれライブに参加して、お疲れのことと思います。お疲れ様です!
私が行きたくて行けなかったのは、サミー・ヘイガー。スケジュール的に、無理だったんです。
サミー・ヘイガーといえば、ヴァン・ヘイレンの名曲“Can’t Stop Lovin’ You”のボーカル。こんな良い曲ありますかねと思うぐらい、好きな曲。1990年代を振り返る時、1990年代らしいサウンドとして、この曲がぱっと頭に浮かびます。
サミー・ヘイガーが来日していたこともあってか、〈10月のお題、ヴァン・ヘイレンはどうですか?〉と、編集さんからの提案。
うーん、ヴァン・ヘイレンは実は私、あまり熱心には聴いていなかったんですよ。
なぜヴァン・ヘイレンをちゃんと聴いていなかったかというと、ほら、私、イングヴェイの女じゃないですか。
ヴァン・ヘイレンといえば1984年、イングヴェイ・マルムスティーンといえば1984年(『Rising Force』のリリース年)。
高校生の私にとって、2人がギターヒーローとして比較しやすい存在だったので、なんとなく同じラインに並べて〈私はイングヴェイだもんね!〉とか思っちゃって、根アカで陽キャに聴こえるエディ・ヴァン・ヘイレンのギターはちょっと苦手で、まあ、なんというか、イングヴェイの女だったんですよ。
中学高校の実生活では、目立つ先輩がいても〈私は〇〇先輩派!〉みたいなことはやっていなかったのですが、脳内のみで〈私はイングヴェイ派!〉をやっていたって、今思うとかなりヤバイですね。
そのような背景がありますが、それはそれで改めて聴いてみても面白いかもと、1作目『炎の導火線(Van Halen)』(1978年)から『Balance』(1995年)ぐらいまで、聴き直しておりました。『Balance』はリアルタイムで聴いていて、前述の“Can’t Stop Lovin’ You”が入っているので好きでした。
しかし、ここはやはり、金字塔『1984』を中心に取り上げたいと思います。
何度も言いますが、この年にイングヴェイ は『Rising Force』ですよっ!
『1984』に関して面白いなと思っていることがあって、我々メタラーにとっては、“Panama”だったり“Hot For Teacher”だったり、バンドサウンドで格好良いもの、後にヘヴィメタルのスタンダードになってくるような曲の話になる作品ですが、本業のジャズ周りでは“Jump”とオーバーハイムシンセサイザーOB-Xaのことばかり、話題にのぼるんですよ。ジャズの人は“Hot For Teacher”がどんな曲かは記憶にないし、メタルの人は〈“Jump”は有名だけど、その曲は別にねえ〉っていう感じが大半じゃないでしょうか。同じアルバムで、クローズアップされる部分がくっきり分かれるのが面白いです。
“Hot For Teacher”、この最初のギターの華やかなこと! 高校の時からヴァン・ヘイレンは最初から派手でギラギラしていると思っていましたが、ヴァン・ヘイレンの〈最初からかまし力〉、ヤバイですね。ジャズでもあるんですよ、〈最初からかまし力〉。
最初からガツンと凄い技でびっくりさせちゃうし、ソロであろうが簡単なリフであろうが、聴き手の耳を全部自分のギターに惹き寄せてしまう、エディ・ヴァン・ヘイレンの圧倒的な存在感とスター感。“Hot For Teacher”の〈どやああああっ!〉と入ってくる登場はもうその極地で、漫画の登場シーンみたいです。これだけで、すみません、降参ですm(_ _)mという感じです。
そして、高速シャッフル。シャッフルってメタルの華だと思います。
マイケル・シェンカーの“Into The Arena”、イングヴェイ・マルムスティーン“Far Beyond The Sun”、アイアン・メイデン“Transylvania”、枚挙にいとまがないですが、“Hot For Teacher”は随分速い。これもかましてる。
NHORHMでカバーするなら“Panama”か“Hot For Teacher”だなと思っていました。“Hot For Teacher”は簡単にスウィングのリズムに変えることができそうではありますが、それによって、あの最高の〈かまし〉がお洒落になりそうだったので、やめて“Panama”を選びました(まだアルバムには収録されていません)。
あと、NHORHMのベーシスト織原良次が最初にバンドで演奏した曲が“You Really Got Me”だったらしいので(過去回インタビュー参照)、それでもいいなとは思いましたが、キンクスのカバーなので、こちらはまた別の機会に。ちなみに織原君は、ヴァン・ヘイレンにも参加していたデイヴィッド・リー・ロスの“Shyboy”をやりたいと言っていて、どうしたものかとずっと保留しています。