“ねがい”から“BAD COMMUNICATION”まで既発曲のアルバム版
B+U+M解体後初の作品は1995年5月31日リリースのシングル“ねがい”で、ここから稲葉も編曲に参加するようになった(ちなみに『LOOSE』では、13曲中9曲の編曲に参加)。つまり、〈B’zは2人〉という意識のもとでの制作に舵を切ったのが“ねがい”なのだ。B’zはスタジオに入り、2人が作曲と作詞を同時に進行させて曲作りをおこなっていくそうだが、それも〈ポストB+U+M〉の制作体制になってからだという。
“ねがい”に続くシングルは7月7日の“love me, I love you”と10月11日の“LOVE PHANTOM”で、いずれも表題曲は松本と池田大介が編曲。これら3つのシングルのリリース、ハワイでのプリプロダクションを経て、B’zは『LOOSE』を11月22日にリリースした。
“LOVE PHANTOM”はシングル版と変わらないが、“ねがい”“love me, I love you”は本作にアルバムバージョンで収録されている。その違いを聴き比べてみると面白い。詳しく見てみよう。
“ねがい”は、ザ・シュープリームスの“You Can’t Hurry Love”をハードロック化したかのようなリズムのイントロからAメロにかけての部分が印象的な曲だ。アルバムには〈“BUZZ!!” STYLE〉というバージョンで収録されており、演奏や音の質感、ミックスの方向性などがシングルとかなり異なっている。シングル版は後半にギターソロがあるが、アルバムバージョンではそこがジャズ風の演奏とオルガンソロになっており、その後にギターソロがくる点は特に大きな違いである。シングルバージョンはホーン隊やギター、低音部がかなり目立っているが、アルバム版の方はハードでヘビーなロックバンド感、一体感が明らかに増している。B+U+M体制期のサウンドを少々彷彿とさせる、派手さやポップさが強調されていると感じるのが前者だ。一つの楽器を際立たせず、ある意味でフラットにバンドアンサンブルとボーカルを並置したアルバム版の方が、かえって松本や稲葉のパフォーマンスが楽しめる。
“love me, I love you”は、ポップで魅惑的なメロディ、軽快なシャッフルビート、稲葉の歌へ饒舌に絡んでいく松本らしいオブリガートが聴きどころの曲。後半のギターソロの部分はストリングスが効いた3拍子のパートになっており、クラシカルな意匠になっている。シングル版ではベースが打ち込みだったといい、たしかに淡白な演奏と響きなのだが、意識して聴かないと気づかないレベルで馴染んでいた。それに対して明石がベースを弾いたアルバムバージョンでは当然、フレージングも響きも豊かになっている。コーラスが追加されているものの、やはり全体的にミックスや音響を含めて自然なバンド感が増しているのがアルバム版だ。
『LOOSE』には、1989年にリリースしたミニアルバムの表題曲“BAD COMMUNICATION”をリメイクした“BAD COMMUNICATION (000-18)”も収録されている。同曲では、さらに本作らしい音楽性が顕著だ。Hi-NRGやユーロビートのような派手な打ち込みサウンドだった原曲から180度転換したこのバージョンは、マーティンのアコースティックギター000-18を松本が弾き、名手・妹尾隆一郎がブルースハープを吹きまくる、実にブルージーなアレンジになっている。エレキギターは入っておらず、電気楽器はおそらくベースだけだろう。かなりストリップトダウンされた演奏だ。〈いまの俺たちはこうなんだ〉と、過去のB’zと現在(1995年)のB’zの差異を強烈に際立たせている曲なのである。
音で遊ぶ親密な“spirit loose”
このように既発曲をアルバムバージョンと聴き比べてみると、『LOOSE』では生々しさ、バンド感、一体感がサウンドの軸としてあるように感じる。“BAD COMMUNICATION (000-18)”や終盤のアコースティックな“BIG”(ビートは打ち込みだが)、シンプルなバンドサウンドで押し切る“drive to MY WORLD”なども、その最たるものだ。タイトル曲“ザ・ルーズ”でも、ルーツに根差したサザンロックを思わせる土臭い要素などが聴ける。
重要なのは、イントロの“spirit loose”とCDの最後に収められた隠しトラック“spirit loose II”だ。この2曲にはグループの最小単位まで切り詰めた核心の部分、つまり〈B’zは2人〉という意識が濃厚に表れており、前者は松本の見事なカッティングと会話するかのように稲葉が高音でシャウトする曲(このシャウトがものすごいのだ)で、後者はブルースを弾く松本のギターに足踏みで取ったリズムが呼応した録音。いずれもローファイな音で、セッションやリハーサル、レコーディングの合間の遊びやアウトテイクのように聞こえ、音で遊ぶ笑顔の2人の姿が目に浮かぶ。
〈LOOSE〉さと〈B’zは2人〉の姿が刻まれたこの2曲にこそ、アルバムの心臓があると言いたくなる。これらは商品や製品になる前の音楽であり、また多くのオーディエンスの前でパフォーマンスするものではない2人の間だけのパーソナルな楽しみでもあるからだ。B’zのコアが剥き出しになったかのような“spirit loose”を聴いていると、2人の根っこにあるものを再確認し合う密かな喜びを垣間見ているような気分になる。