ジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第101回は、前回に続いて特別対談をお届け。西山さんがファンであるライター武田砂鉄さんとメタルやメタル文化、伊藤政則さんの偉大さについて語り合いました。「武田砂鉄 ラジオマガジン」の放送直後、文化放送の会議室でおこなった対話の模様をお楽しみください。
メタルファンの生態は掴めない
――西山さんはなぜ武田さんと対談したかったんですか?
西山瞳「長いことTBSラジオリスナーなもので……もちろん文化放送も聴いてますよ(笑)! 『ヘドバン』の連載(〈ヘドバン大学 教養学部課題図書〉)も読んでいて、私自身、社会問題に興味がありますし、武田さんのご活躍を音楽と社会的な面の両方で見てきました。とても面白い方で同世代でもあるので、バックグラウンドなどを聞いてみたかったんです」
――武田さんは西山さんのことをご存知でしたか?
武田砂鉄「もちろん。CDも持っています」
西山「恐縮です!」
武田「〈政則十番勝負〉に出ていらっしゃいましたし、(伊藤)政則さんを介せばみんな友だち、という世界でございます。この連載も読んでいました」
西山「私も『紋切型社会(言葉で固まる現代を解きほぐす)』に始まり、いろいろ読ませていただいています」

――武田さんのリベラルな社会批評とメタル好きがどう結びついているのか、すごく興味があります。
西山「私も気になります。だいぶ違う世界なので(笑)」
――一部のメタルにはトキシックでマッチョな価値観が残っていますよね。
武田「そうですね。(ドナルド・)トランプを批判するミュージシャンが多いなか、〈誰だよ、いまだに彼のことを支持してるのは?〉と思ったら、知っているメタルミュージシャンだったり。歌詞の内容も、雄々しいのはまだしも、マッチョで独りよがりなものも多いですよね。とはいえ、メタルという音楽ジャンルが新人からベテランまで縦に長く、あらゆるジャンルとつながって横にも広く、多種多様になっているので、メタル=〇〇と語りにくいジャンルではありますよね。
メタルファンって、〈LOUD PARK〉などに行けばわかりますが、おとなしいじゃないですか。フェスが終わって会場を出て、駅に向かう道中、〈この人たち、ほんとにライブへ行ってたの?〉というぐらい静かになる(笑)。メタルファンの生態は掴めないままですね」
西山「〈LOUD PARK〉で、遊び疲れて地面に寝転がっているおじさんたちを見ると、〈この人たちはこれに救われているんだな〉と愛おしく感じます(笑)」
武田「明日から会社で大変なんだろうけど、この瞬間だけは忘れているんだろうなって。そう思っている自分も同じようなものですが」
メタル不遇の90年代、B’zが入り口になった2人
――武田さんは1982年生まれ、西山さんは1979年生まれです。B’zがメタルの入り口になっていることなど共通点が多いですね。
武田「西山さんもB’zなんですね。何が入り口でしたか?」
西山「“LADY NAVIGATION”や“BLOWIN’”が流行っていた頃に父が聴いていて、私も聴くようになったんです。それでB’zのインタビューを読んでいたら、セックス・ピストルズとクイーンとディープ・パープルとボン・ジョヴィを影響源として挙げていて、全部聴いたなかでセックス・ピストルズだけハマれなかった(笑)。そこから洋楽ロックを聴くようになりました」
武田「僕は、松本(孝弘)さんがTOKYO FMでやっていた『BEAT ZONE』という番組のリスナーだったんです。中学生にとって深い時間だった夜11時、眠い目をこすりながら聴いていたんですが、松本さんのボソボソしたしゃべりがとにかく眠くなる(笑)。
当時、松本さんが〈Rock’n Roll Standard Club〉という、近しいミュージシャンたちと70、80年代のハードロックをカバーする企画をやっていて、のちにアルバムが発売されましたが、その曲を番組で紹介していたんです。マイケル・シェンカー、ゲイリー・ムーア、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、フリーとか。それを聴いて、B’zの音楽がどこから来たのかを知ったんですね。その頃から『BURRN!』も読みはじめ……というのが入り口です。
ただ僕が中高生だった90年代中盤から後半にかけてって、いまから振り返ってもヘヴィメタルが寒々しい時期だったわけですよね。アイアン・メイデンにはブルース・ディッキンソンがいない、ジューダス・プリーストもロブ・ハルフォードが抜け、グランジに色気を出し、これまでやっていた音楽に自信をなくす、そんな流れがあった。メタリカも『Load』『Reload』の時代です。でも、リアルタイムに出た作品である限り、無理やりにでも、〈これはいい!〉と思い込むように聴いていました(笑)。なので、メイデンのブレイズ・ベイリー時代やティム・リッパー(・オーウェンズ)期のプリーストは、いまだに思い入れがあります」


伊藤政則漬けな青春
西山「武田さんは偏らずにメタルを聴いている印象があります」
武田「そうですね。政則さんがテレビ神奈川でやっていた『BANG UP ROCK』を録画して何度も見て、どんどん知識をつけていきました。『BURRN!』のバックナンバーもブックオフで大量に買い、過去のバンドも学んでいきました。当時は、『BURRN!』のレビューの点数が強い権力を持っていたじゃないですか。なので、その点を信じてCDを買って……というまっすぐな染まり方をしていました(笑)」
西山「勉強する感じで聴いていたんですね」
武田「まさに。僕は東京都東大和市という多摩地方に住んでいたのですが、BAYFMの『POWER ROCK TODAY』の電波が入りにくかったんです。一方で、政則さんがFM FUJIでやっていた番組(『ROCKADOM』)は聴けました。そちらではプログレやロッククラシックがかかっていて、中高生の自分がマニアックなリクエストハガキを出せば読んでくれるんじゃないかと思い、余った年賀状にリクエストを書いて送っていましたね。ハガキを読まれたときは、すごく嬉しかったです。かなり政則漬けな青春でした」
西山「そんな方が、いま政則さんの本を作っているんですもんね。制作に長い時間がかかっているようですが(笑)」
武田「政則さんの自伝ですね。何十時間もインタビューをして、原稿をまとめて、あとは政則さんの直しを待っているところですが……待ち続けております(笑)。当然ですが、自伝というのは何冊も出るものではないので、決定的な一冊にできればなと。チェックしながらも様々な事象を思い出されて書き足しているのだと思います。インタビューしていても感じたことですが、政則さんって、記憶力が半端ないので」
西山「そうなんですよね」
武田「日本におけるヘヴィメタル史=伊藤政則史だと思うので、早めに仕上げたいのですが……。今年中にはさすがに出せると思います。日本のヘヴィメタル史としても決定版になるはずです。
さっきも言った1995~1997年頃って、フェア・ウォーニングが代表的なように日本でしか売れないバンドが出てきた時代でした。その時期に、いかに日本独自に売れるHR/HM市場を作ってきたのかが政則さんの口から語られています。『BURRN!』も、その頃がいちばん部数が出ていたと聞いたことがあります。日本独自のメタルの波があったからこそ、自分が中高生時代にハマることができたんだなと」
音楽誌文化に学んだこと、育てられたこと
西山「武田さんは、いまメタルの書き物の仕事はされていますか?」
武田「たまにライナーノーツを書くぐらいですね。『ヘドバン』も雑誌としては開店休業状態ですが、増刊号的な立ち位置のものには書かせてもらっています。僕は、『BURRN!』に限らず音楽雑誌で育ちました。ライターを始めたのも『beatleg』というブートレッグ盤を中心とした雑誌で、そこで学んだカルチャーは大きいですし、大事にしています」
西山「『BURRN!』で書いたことはあります?」
武田「投稿して載ったことは何度かあります。最初に載ったのは、大学1年の4月の最初の週です。入学直後に〈チャラチャラしていて、この大学は合わないな〉と思ったんですよ(笑)。で、大学の帰りに新宿の本屋で『BURRN!』を立ち読みしたら、プライマル・フィアというドイツのバンドについて書いたレビューが載っていて嬉しかったですね。〈お前らみたいな調子に乗ってる大学生なんかに負けねえ。こっちは音楽ライターとしてやってくんだ!〉と強い意志を持ちましたね(笑)。いまはいろんな雑誌で書いていますが、あのときほど雑誌に載った自分の名前に興奮することはないので、初心を忘れないようにしています」
西山「もともと音楽ライターになりたかったんですね」
武田「なりたかったですね。当時はまだ、『rockin’on』の読者投稿欄に載ることがかっこいいとされていましたし、『BURRN!』の別冊『炎』もよく読んでいて、そこに〈24歳、クリーニング屋勤務〉みたいな人が何ページも書いていたり、〈自分も書いてみたい〉と奮い立ったりしていました。音楽ライターに対する憧れがあったし、予備軍みたいな人たちにも触発されました。自分が書いて送ったわけじゃないのに、〈あ、またこの人が載っている〉と悔しがってみたり」
西山「メタル専門誌で書いたことがあるのは『ヘドバン』ですか?」
武田「そうですね。いまは、書き手の受け皿になる音楽誌がないのが残念です。『BURRN!』も読んでいますが、僕が学生の頃から変わらない人たちが書いていますものね(笑)。『ヘドバン』は、『BURRN!』が固めてきた価値観を壊して広げたいメタルファンの苛立ちを汲み取った雑誌なので、まだまだ続けてほしいですね」
批評が求められない時代に音楽について書くこと
――メタルと普段の書き仕事は、書き方や読者の想定はやはり違いますか?
西山「武田さんのメタルのライブレポートを読むと、政治系のエッセイで感じる武田さんのめんどくささとは違うものを感じるんです(笑)。音楽誌への憧れがずっとお持ちで、それを意識して書いているのかなと」
武田「音楽やメタルについて書くと、やっぱり政則イズムが染み出ちゃうというか、それを取り外すことが不可能なんです(笑)。『beatleg』で連載をしていたとき、編集長から〈武田くんの文章はプログレメタルみたいだ〉と言われて嬉しかったですね。メタルって、しつこいじゃないですか。終わるのかなと思ったら終わらなかったり、静けさが来たと思ったらまた音数が多くなったり。それが妙に嬉しくて、いまでもよく書くときに意識していますね。〈Aメロ、Bメロ、サビ〉という構成の文章のほうがウケるかもしれませんが、僕の場合、〈この展開はいらないんだけど〉というのをあえて入れ込んでいく」
――武田さんの文章はドリーム・シアター的なんですね(笑)。
武田「いま、音楽についてのテキストって、あまり批評性が求められなくなりましたよね。去年お亡くなりになった渋谷陽一さんの文章は、音楽理論に基づいて論じたものというより、〈自分はこう思った〉という熱量があった。いまは、アーティストがどういうステートメントを出そうとしているかを翻訳するのがライターの仕事になりつつある。そんなのつまらないなと思うことが多いですね。
かといって〈私はこう思った〉と批判したら、そのアーティストのファンが押し寄せて来る時代なので、リスクが高い。僕は以前、『EX大衆』で、自分からは見たいとは思わないライブを見に行って感想を書く連載(〈招待されてないライブレビュー〉)をやっていました。ファンキー加藤や湘南乃風のライブを見て正直な感想を書いていました。もっと茶化したり皮肉ったりする文化があってもいいと思いますが、なかなかいまはその土壌がないですよね」
――テイラー・スウィフトのアルバムについて否定的なレビューを載せるとファンダムから攻撃されるので、ライターを匿名にしていた海外のメディアがありました。
武田「恐ろしい話ですよね、すべてが肯定されなければいけないって。長い目で見ると、ミュージシャンにとってもよくないはず。ただ、そういう環境なので、批判への耐性もなくなっていくはずで、ますます全方位的に大絶賛しまくる状況が強化されていくのかなと」
西山「私はミュージシャン目線でポジティブなところを見つけるのが得意ですし、批判はリスクが大きすぎる現状も理解しています。ただ昔の雑誌でバチバチやっていた状況は見ていたから、本当はそのほうが健全だろうとは思いますね」
日本独自のメタルシーンはアップデートできるのか?
武田「日本のメタル市場って、やはり閉鎖的ですよね。『BURRN!』が作ってきた面も大きいですが、日本独自のシーンがある。独自ではあるけれど、ガードが固いというか。文化としては面白いけど、これから10年、20年とリスナーが同じままでは、この先どうなっちゃうのかなと心配になりますね」
西山「リスナーがいなくなっちゃいますよね。ジャズが先にそうなりつつあるのを見てきたから、同じことになるんだろうなと」
武田「新しいメタルを日本のメディアがどう見せていくかが課題だと思います。そこを諦めてしまった媒体もあるので、寂しいですね」
西山「ジャズ誌がずっとマイルス・デイヴィスを取り上げているのと同じですね。ただ雑誌が新しいアーティストを表紙にしても、売れないんだそうです。若い層が雑誌を買わないので」
武田「一昨年、〈SUMMER SONIC〉にグレタ・ヴァン・フリートが出たとき、スタジアムがとにかくガラガラだったんですよ。海外では大規模なライブをやっているのに……。なんだか申し訳ない気持ちになりました。
とはいえ、先週行ったデフトーンズの東京ガーデンシアター公演は超満員でしたね。お客さんはどこから来たのか、不思議でした。いわゆるメタル雑誌を読んでメタルフェスに来るような客層とは明らかに違っていた」
西山「客層は若かったんじゃないですか?」
武田「若かったですね。おしゃれな人も多くて、ヨレヨレのメタルTシャツを着ている私のようなメタラーはあまりいなくて(笑)。どこでデフトーンズと出会うんでしょうね。去年のトゥールの来日公演の客層も、いわゆるメタラーとは違っていましたね」
――デフトーンズは美メロバンドとして知られていて、レディオヘッドと比べている動画なんかもあります。若いロックファンの間で広く聴かれている印象です。
武田「メタルファンは〈簡単に入ってくんなよ〉と門構えを分厚くしてしまっているところがあるので、そこをどうにかしないといけないですね。メタルTを着ているだけで、ついパトロールを始めちゃうのが悪いところですよね。〈ところで、デフ・レパードを知らないのにそれを着ているわけじゃないよね!?〉みたいな(笑)」

若者が熱中する新しいヘヴィで過激な音
西山「武田さんは最近のバンドも聴きますか?」
武田「いろいろ聴きますね。ディスクニオンによく行きます。タワーレコードの人の前で言うのもなんですが(笑)」
――必ずCDで聴くそうですね。
武田「それはやっぱり、伊藤政則直系の人間として。CDを購入して、頭からちゃんと最後まで聴くことを自分に課しています。Spotifyというものが便利らしい、とは聞いていますが(笑)。
本にしてもCDにしても、モノが増えていくことに対する変な快感があるので、どんどん積み上げています。ユニオンでもタワレコでも、メタルのコーナーにはカゴを持ってCDを大量に突っ込んでいる先輩たちがちゃんといますよね。どんどん体感型になっているタワレコ渋谷でもまだメタルのCD棚の面積が大きいのは、その人たちや私のおかげです(笑)」
――いまハマっている若手や中堅のバンドはいますか?
武田「去年見たライブでいえば、ローナ・ショアのZepp DiverCity (TOKYO)公演がすごかった。空間自体が揺れている感じで、出音がとんでもなかった。一つ先の音がどこへいくのか約束されてないような展開がずっと続く演奏は強烈でした。ここでもまた、メタルファンを押しのけ、若い人たちがバンドに没入していく空気もよかったです」
西山「チケットが完売していましたもんね」
武田「ええ。10月にまた来日するそうですが」
西山「ローナ・ショアの次の日にアンプロセストのライブがあったので、私はそっちに行ったんです。そちらもお客さんたちは若かったですね」
武田「そういうヘヴィロック、そのなかでも過激な音が何を要因として盛り上がっているのかが読み解けないので、興味深い動きだと思います」
〈イントロ〉が長い文章が好き
――武田さんはアルバムレビューやライブレポートをどう書いていますか?
西山「レポートはメモを取るんですか?」
武田「取りますが、事細かに書くというより、ある程度書き留めておくぐらいです。繰り返し書いてきた経験があるわけではないので、まだノウハウを掴めていないところはあります。『ヘドバン』の企画で、メイデンの来日公演の全日程に行く記事を書きましたが、彼らって、曲だけではなく演出面でも一挙手一投足変わらないセットで周るので、徐々に慣れて書けることも増えました。
ディスクレビューやライナーノーツを書くときは、クラシックなやり方ですが、何度も聴き込み、〈なんでこの曲順にしたんだろう〉と頭のなかで物語を作って書いています。それも政則イズムなところがあって、政則さんが忙しかった頃の文章って、中身の解説に入るまでのプロセスが長いんですよね。まだ本編に行かないの?みたいな(笑)。ああいうイントロが長い文章が好きなんです。いまは、書き手が自我を出さないというか、Wikipediaみたいなライナーを書く人も多いですよね。なので、前段を長く書き、自分とバンドとの接点に触れながら本題に入っていくようにしています」
西山「ただでさえ限られている文字数が、情報だけで埋まっちゃっているのは寂しいですよね。私も、書き手の考えを書いてほしいって思います。武田さんは、意図してそういうことを入れているのかなと」
武田「そうですね。来月出るディープ・パープルの新作(『Splat!』)のライナーを書いたのですが、パープルなんて、歴史を書こうとしたらそれで字数が全部埋まっちゃう(笑)。とはいえ、彼らの場合、歴史をないがしろにもできないですし、どう書こうかと悩みました。
この前の日本武道館公演を見に行きましたが、新曲を3、4曲セットリストに入れるんですよね。イアン・ギランが歌いやすい曲を入れておく措置ではあるのでしょうか、そうやって前に進んでいく姿勢を持てている大ベテランは少ないと思ったので、そういったことを書きましたね」

メタルはどう〈老いる〉ことができるのか?
西山「お仕事を含め、毎月かなりの数のライブに行っていますよね」
武田「ライブが決まるのは半年前とかなので、半年後って予定が空いているじゃないですか(笑)。当日になるとドタバタで、いまは朝のラジオ(『武田砂鉄 ラジオマガジン』)もやっているので、頑張ってむりやり行くことになるんですが、来日公演って、いつが最後になるかわからないですからね。〈今回で最後〉詐欺にも何度も遭っていますけどね。ナイト・レンジャーがフェアウェルツアーをやるというので行ったら、今年もやって来るとか。〈もうちょっと期間を空けろよ〉と思ったりしますが、健やかに詐欺に騙されるのも悪くないかなと」
――思い出深い来日公演はありますか?
武田「いちばん悲しかった思い出として、高校時代、大好きだったカテドラルがO-EASTで来日公演をやって、オレンジ・ゴブリンというストーナー系バンドが前座に呼ばれたんですね。ライブの前日、僕はバレー部の練習で捻挫しちゃって行けなくなり、兄に行ってもらったんです。で、帰ってきた兄に〈どうだった?〉と聞いたら、〈たいしたことなかった〉と言った。これにものすごく腹が立った(笑)。
その後、カテドラルは何度も来てくれたんですが、オレンジ・ゴブリンはずっと来てくれませんでした。でも、一昨年、やっと来てくれたんですよ。翌年、解散してしまったので、それがさよならコンサートになりました。なので、オレンジ・ゴブリンを30年越しに見ることができたのは感激でしたね。
20年、30年とメタルを聴いていると、好きだったバンドが戻ってきたり、逆に最後のライブをやったりと、バンドの変遷の物語を感じられる。それが面白くもあり、寂しくもあります。これからいろんなバンドが閉じていくと思うし、それを寂しさとともに見届けるのが楽しみでもあります。メタルは身体に負荷がかかる音楽で、ほかの音楽と比べて引退の時期が早いかもしれません。突然の別れが来るかも、と身構えています。メタルの歴史は、そういう時期に差し掛かっていますよね」
西山「メタルの全体像を見つづけている人の視点ですね。すごい。メタルには、ファンがミュージシャンの衰えを許さないところがあるじゃないですか。それがすごく嫌で。私はジャズをやっているからかもしれませんが、20代と70代で同じ声が出せるわけないやんと(笑)。そんな当たり前のことをなんで許さへんのかなって」
――ジャズでは〈枯れ〉も魅力のひとつになりますが、メタルと〈枯れ〉は相性が悪いですよね。
武田「ロブ・ハルフォードのように70代で声がさらに出るようになった超人もいますが、〈朽ちたメタル〉というものが存在しうるのかは興味深いですね。ローリング・ストーンズだったら、キース・リチャーズがステージに立って、ラフな演奏をしても許される。でもメタルでは、そうはいかないですから」
西山「〈Back To The Beginning〉でのブラック・サバスの演奏は、完全に枯れていましたね。でも、サバスのレベルまでいかないと許されへんのかな、とも思いました」
武田「あれはメタル史において、枯れていく姿を提示した大事な場面だったかもしれません。この前知って驚きましたが、スリップノットだってデビューして四半世紀ぐらい経っている。この人たち、いつまで仮面を被って暴れられるんだろう?と思います。メタルの成熟可能性について考えてしまいますね。
先日、『ドキュメント72時間』でタワレコ渋谷店が特集されていましたが、メタルコーナーにいたおじさんが取材を受けていたんです。イングヴェイ・マルムスティーンのボーカリストだったマイク・ヴェセーラの新譜をしみじみと試聴しながら、〈彼はまだ高い声が出ているので、僕も頑張ろうと思いました〉と言っていて、これがメタルの現在地であり、希望でもあり、限界でもあるのかなと(笑)。〈ヘヴィメタルの“大御所”〉というテロップには〈そうでもないぞ!〉とツッコんでしまいましたが」

メタルは内に問いかける音楽
西山「メタルを聴いてきたことで育てられた思想や哲学はありますか?」
武田「原稿を書いているときはいつもメタルを聴いているので、その状況を他人が見たら、〈どうしてこの状況で書けるんだろう?〉と思うのではないかと(笑)」
――原稿の内容と鳴っている音楽との乖離がすごそうですね(笑)。
武田「それでずっとこの仕事をやってきたので、もう身体の一部と化しています(笑)。
僕は、メタルが発散するタフで強い力って、人をぶん殴るようなものじゃなく、内に問いかけてくるものだと思っています。一概には言えませんが、パンクやハードコアには外向きの力がありますが、メタルは内側で渦巻いてドロドロと循環させる感覚があります」
〈この曲をかけるんだ!〉というDJの思いが築いたラジオ文化
――ラジオでも活躍されている武田さんは、テキストとラジオやポッドキャストのような音声コンテンツはどう違うと思いますか?
武田「もはや、ごちゃ混ぜになってきていますね。しゃべっていることがコラム的になったり、コラムがラジオでしゃべっている感じになったりしているかもしれません」
西山「ラジオはバレちゃうものが多すぎる媒体やから、怖いと思います(笑)。好きな番組や好きなパーソナリティでも、ちょっと変なことを言ったときにすごく引っかかる。でもテキストだったら書くときに考える時間があるし、誰かが校正するから、それは防げるんですよね」
武田「ラジオって、綺麗な言い方をすれば、本当に言いたいことが伝わるメディアなんです。逆に言えば、嘘がバレる不思議なメディアです。なので、完璧にはできませんが、嘘を言わないことを心がけています」
西山「武田さんはメタル番組を持たないんですか?」
武田「話が来ないですからね(笑)。今年度から『ラジオ深夜便』を担当していて、〈選曲コーナーではどんな曲をかけてもいいですよ〉と言われたんですが、年配の方たちが夜寝る前に聴いている番組なので、おとなしめの音楽をかけたんです。ここからどこまで音の数を厚めにできるかという挑戦をしていきたいと思っています」
――どんな曲をかけたんですか?
武田「ジェフ・ベックやニールヤング、あとアメリカの姉妹ギタリストのラーキン・ポーとかですね」
――メタルは選ばなかったんですね。
武田「メタルを期待していた人は〈NHKから何か言われたのか?〉と心配されたかもしれませんが、自主規制です(笑)」
西山「私の母も、『ラジオ深夜便』を聴きながら寝ていますから(笑)」
武田「以前と比べてラジオの音楽番組は少なくなってしまいましたよね。いま、事あるごとに、レジェンドDJたちに話を聞く機会を設けています。かつてラジオで音楽をかける行為の特別感は、いまと違ってとんでもないものがありましたから。〈この曲をかけるんだ!〉という思い入れを持ちながらラジオをやっていた人たちが築き上げたラジオ文化があるからこそ、いまがある。それは、もちろん政則さんもそうだし、最近、話を聞いた方では、亀渕昭信さんや落合恵子さんもそう。ピーター・バラカンさんは、いまだに自分のライブラリーから持ってきた音源をかけていますよね。僕もラジオ局にCDを持っていくんですけど、音飛びする可能性があるから、むしろ迷惑らしい(笑)。ダウンロードしたものを流すほうが安全だそうです。
ラジオの音楽番組は、もっと増えてほしいなと思います。放送局がプッシュするものや契約上かけなきゃいけない曲があるのは仕方ありませんが、パーソナリティが思い入れのある曲をかける場所が増えてほしいですね」
――トークの間の繋ぎで義務的に曲を流しておくだけの番組もありますもんね。
武田「曲をかけるのも1分半だけとかね。いまや楽曲自体、イントロがなくて紹介しやすい構成になっていたり。以前、ラジオ番組でご一緒したTHE ALFEEの高見沢(俊彦)さんが〈こんな時代にイントロが1分半もある曲を作っちゃったよ〉と言っていましたが、たしかにそういう曲はラジオではかけにくいんです。でも、それこそカテドラルはこの間、1曲で29分もあるシングルCD(“Society’s Pact With Satan”)を出していて、〈素晴らしい! かくあってほしい!〉と思いました」

伊藤政則という唯一無二の存在
――対談を通じて、お2人にとって伊藤政則さんという存在がいかに大きいかを感じました。
西山「私も政則さんへの憧れはずっとあって……。いま恐れ多くも政則さんに相談していることがあるんですが、おしらせできる時期になればおしらせします。
『ヘドバン』が出した『月刊 伊藤政則(仮)』の武田さんのコラムは素晴らしかったですよ。すごく印象に残っています※」

武田「ありがとうございます。政則さんに話を聞いて、この人は突出してすごいなと感じたのは、海外に行き、人脈を築き、新しいバンドを連れてきたり、シーン全体の動きを作っていた点なんですね。輸入盤で見つけたものを〈これはいい〉と紹介するのとは違う動力を持っていた。海外ミュージシャンが日本に来たとき、MCで、わざわざ〈Masa! Masa!〉と言うのは、そういう理由があるからです」
――政則さんの偉大さを確認して、対談を締めさせていただきます。武田さんによる政則さん自伝の刊行も楽しみです。本日はありがとうございました!
■西山 瞳
LIVE INFORMATION
2026年6月24日(水)大阪・梅田 BLUE YARD
開演:19:00
出演:大塚恵(ベース)、西山瞳(ピアノ)
オフィシャルサイト:https://blue-yard.jp/
2026年6月27日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00 ※2 sets
出演:西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
TEL:045-662-7322
オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/
2026年7月3日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00/19:30 ※2 sets
出演:The Tree Of Life 安ヵ川大樹(ベース)、西山瞳(ピアノ)、maiko(バイオリン)
ミュージックチャージ:3,500円
TEL:03-5950-0689
オフィシャルサイト:https://applejump.net/
RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4
冠徹弥(from THE 冠)vocal track 4

リリース日:2024年10月2日(水)
品番:MT-13
価格:3,190円(税込)
TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Echo エコー
2. West World ウエスト・ワールド
3. Ants アンツ
4. Arrakis アラキス
5. Raindrops レインドロップス
6. Cobalt Blue コバルト・ブルー
7. River リバー
■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (except 5)
橋爪亮督 テナーサクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute (except 5)
maiko バイオリン maiko violin (except 5)
2023年7月12-14日 群馬県高崎市TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音・ミックス・マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
写真:和田高広(ライトアンドプレイス湿板写真館)

リリース日:2025年10月1日(水)
品番:MT-15
価格:3,520円(税込)
TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Bye For Now バイ・フォー・ナウ
2. Blue Nowhere ブルー・ノーウェア
3. Pescadores ペスカドーレ
4. Changing チェンジング
5. Standing There スタンディング・ゼア
6. SAKIRA サキラ
7. Just By Thinking Of You ジャスト・バイ・シンキング・オブ・ユー
8. Wright Flyer ライト・フライヤー
9. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ
10. You Are Not Alone ユー・アー・ノット・アローン
11. Aprilis アプリリス
12. Fall フォール
13. Keys キーズ
14. This I Promise You ディス・アイ・プロミス・ユー
15. Blue And Blue ブルー・アンド・ブルー
16. Remains To Be Seen リメインズ・トゥ・ビー・シーン
西山 瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
2025年4月28日 東京都豊島区MERCY MERCYにて録音
録音、ミックス、マスタリング:春日洋
FAZIOLI F156使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
デザイン:吉岡渉
PROFILE: 武田砂鉄
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年秋よりライターに。ラジオパーソナリティとしても活躍している。「紋切型社会」(朝日出版社、のちに新潮文庫)で〈第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞〉〈第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞〉を受賞。他の著書に「べつに怒ってない」(ちくま文庫)、「テレビ磁石」(光文社)、「「いきり」の構造」(朝日新聞出版)、「そんな気がする」(筑摩書房)などがある。2025年、〈第28回みうらじゅん賞」を受賞した。
PROFILE: 西山 瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。
