スマッシング・パンプキンズ名盤〈メロンコリーそして終りのない悲しみ〉が30周年!
バンドの花だったダーシー・レッキー(ベース)の復帰こそ、いまだ叶わないものの、ビリー・コーガン(ヴォーカル/ギター)に加え、ジミー・チェンバレン(ドラムス)、ジェイムズ・イハ(ギター)というオリジナル・メンバーの4分の3が顔を揃えてから7年。今年9月、その3人が25年ぶりに日本武道館のステージに立ったのだから、まさかそんな日が来るなんて、と驚かされたものだが、ソールドアウトになったその武道館公演を含め、計7公演が開催されたスマッシング・パンプキンズによる12年ぶりとなる来日コンサートは、〈スマパン〉の愛称で知られる彼らの人気を改めて物語るものだったと言ってもいい。
もちろん、ジェイムズやジミーがバンドを離れている間、スマパンの看板を守り続けたビリーの奮闘や、彼を支えたジェフ・シュローダー(ギター)をはじめとするミュージシャンの貢献を忘れることはできないが、オリジナルの3人が顔を揃えたことで、バンドに対する注目度が高まったことはまぎれもない事実。しかも、ほぼ3人だけで作り上げ、昨年8月にリリースされた13作目『Aghori Mhori Mei』も前作『ATUM』のロック・オペラ路線から一転、自他共に認める原点回帰が話題になったのだから、多くの人が彼らの今後に期待しているに違いない。そんなドンピシャのタイミングでリリースされたのが、〈メロンコリーそして終りのない悲しみ〉の邦題でも知られる『Mellon Collie And The Infinite Sadness』の30周年記念エディションだ。

スマパンの最高傑作――95年10月にサード・アルバムとしてリリースされた、全28曲収録のCD 2枚組の大作を、作品としての好き嫌いはさておき、そう呼ぶことに異を唱える人はまずいないだろう。なぜなら、時代の巡り合わせから初作『Gish』(91年)のヘヴィーなギター・ロック・サウンドに貼られたグランジというレッテルを剥がし、バンドとしての可能性を見せつけるという挑戦が2作目『Siamese Dream』(93年)の延長線上でさらにスケールアップして、多彩な曲の数々に結実しているのだから。全米チャート初登場1位を記録したことに加え、〈年間最優秀アルバム〉や〈年間最優秀レコード〉を含むグラミー賞の7部門にノミネートされたことはバンドの挑戦がポピュラー・ミュージックとして認められたことを裏付けるものだ。
シンセに加え、壮大なストリングスをフィーチャーした渾身のポップナンバー“Tonight, Tonight”をはじめ、実際に彼らを代表する人気曲がここからいくつも生まれている。ノスタルジックなサウンドがいまとなっては00年代を先取りしているようにも聴こえるインディー・ロック“1979”、トライバルなドラムがヘヴィーなサウンドにゴス風味を加える“Bullet With Butterfly Wings”、王道のグランジ・ナンバー“Zero”は9月の武道館公演でも演奏されたが、その他、ドリーム・ポップ、メタル、バラード、フォーク、シューゲイザー、プログレ、ラグタイムなど、さまざまな要素が絡み合う唯一無二の世界観は、確かに巷間言われる万華鏡のようだ。もちろん、ヘヴィーなギターもビリーのシャウトもたっぷりと味わえる。わかりやすいフォロワーこそ現れなかったが、間違いなくオルタナ・ロックが多様化する決定的なきっかけになったはずだ。グランジとは対極にあるとも言える重層的な音像は、改めて評価されるべきだろう。
その後バンドがゴタゴタしはじめることを考えると、バンドはここでいったん頂点を極めたとも言えそうだが、その当時の彼らの勢いを生々しく伝えるのが、今回の30周年記念エディションに加えられた〈Infinite Sadness Tour 1996〉からの計80分を超える未発表ライヴ音源だ。
これはかなりうれしい。次作にあたる4作目『Adore』(98年)でのさらなる変化に繋がるエレポップ・ナンバー“Cupid De Locke”や“Porcelina Of The Vast Oceans”“Beautiful”“Rocket”のメドレーなど、聴きどころは少なくないが、毎晩こんなライヴをやっていたらピークアウトしてしまうのも頷ける。それも前述した、さらなる変化の要因の1つだったんじゃないかと想像できるが、それはまた別の話。30周年をきっかけに、スマパンの最高傑作であると同時に90年代のロックを代表するこのアルバムに興味を持った人は言うまでもなく、オリジナルを擦りきれるくらい聴いたという人も、この30周年記念エディションを聴いてみる価値は大いにあると思う。
スマッシング・パンプキンズの近作。
左から、2023年作『Atum: A Rock Opera In Three Acts』、2024年作『Aghori Mhori Mei』(共にMartha's Music)
来日記念で登場したスマッシング・パンプキンズの帯付きLP。
左から、93年作『Siamese Dream』、98年作『Adore』、2000年作『Machina/The Machines Of God』、ベスト盤『Rotten Apples: The Smashing Pumpkins Greatest Hits』(すべてVirgin)