夏になって、梅雨がきて、洗濯物が溜まった。読み進めていた本もあまり読まなくなって、好きな音楽も暗いものはあまり聴かなくなった。窓を全開にしてボーっとする生活を続けていたらこの連載も先月分をサボってしまった(スーパーすみません)。徹底的に自分を甘やかし1日1本のアイスを楽しみにしている。夏。

ジメジメした空気に心と身体が汗ばんでしまう夜に、カラッと乾いた爽やかな音楽が聴きたくなってJames Iha『Let It Come Down』を聴いた。窓から入る穏やかな風がスッと部屋を抜けていくように、このアルバムは身体にスッと広がって心を少しだけ軽くしてくれる。

JAMES IHA 『Let It Come Down』 Hut/Virgin(1998)

このアルバムを知ったのは、もう随分前のこと。京都に住んでるお兄ちゃんみたいな先輩がいて、その人と好きなアルバムを交換するという遊びをやった。高校生だった僕は当時ドハマりしていたThe Afghan Whigs『Gentlemen』を渡して、その人からこのアルバムを貰った。スマパンが大好きだったけれど(James IhaはThe Smashing Pumpkinsのギタリスト)、James Ihaがソロを出してることを知らなかったからとても楽しみに聴いたことを覚えている。

CDをセットして小さなラジカセの再生ボタンを押し込むと、M-1“Be Storng Now”のイントロに胸をギュッと掴まれてしまった。

アコギの音がめちゃくちゃにカッコいいし、デッドなドラムの音もめちゃくちゃにカッコよくて、なにより声が最高にいい。必要な音だけが必要な場所で完璧に鳴っていて、その上から歌がストンと落ちてくる。しっかりと輪郭があるけれど得てして透明で、シンプルな構成ながら何度聴いても新しい良さに気づいてしまう。

肩の力を抜いてぼんやりと音をなぞっていくと、乾いたアスファルトに水が跳ねるように心がスッと溶けていった。普遍的だけれど替えの効かない宝物みたいな音楽だと思う。

冒頭からの5曲が特に大好きなんだけれど、なかでもM-3“Beauty”が1番のお気に入り。

この曲のコーラス〈anything at all〉の部分が最高すぎるんだよな。上手く説明できないけど、とにかく好き。何だろう。魔法がかかってるみたいに、優しくて暖かくて切ない。

世界がガラッと変わってから、随分と長い時間が経った。タイムラインを流れる政治や経済の話に目を向けることが大切なのかもしれないけれど、自分にとってはよく行っていた近所のお店がなくなってしまったことの方がずっと大切で、忘れてはいけないことだと思う。

大きな波に飲み込まれてしまいそうになるけれど、自分の中にある小さな波をしっかりと見つめて、それを大切に出来たらいい。James Ihaの音楽は、等身大に1人分の喜びや悲しみが詰まっているから、今の自分にピッタリと張り付いて優しく心を撫でてくれた。

See the sun and what you’re given
Feel the warmth love gives
to everyone and everything
know you feel the same

太陽を見てごらん
そして自分に与えられたものと
愛が全ての人や物に与える暖かさを
感じてごらん
君だって同じように感じているはずさ

出典:Pinterest

太陽を見てごらん。

この記事を書き始めた頃は梅雨の真っ只中だったけれど(書き終えるのに時間がかかってしまった)、今日は空が高く、太陽が遠く輝いている。

ドタバタとした生活と、当たり前ではなかった毎日の全てに目が眩んで、小さなものを見落としてしまいそうになることがある。アッという間に過ぎてしまう日々のなかで、画面越しに突きつけられる大きな波のなかで、時々は立ち止まってその小さなものを見つめていきたい。

 


RELEASE INFORMATION

Digital Mini Album『Fake Planets』
リリース日:2020年6月3日(水)
品番:UKDZ-0209
価格:1,681円(税込)
DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT INC.

TRACKLIST
1. Contrail
2. Rainbow
3. Stud
4. Hug
5. Farewell
6. Living
7. Ten
8. Dive

 

EASTOKLAB『Fake Planets』はライブ会場、タワーレコード名古屋パルコ店ほか限定店舗およびオフィシャル・ウェブストアでCDが販売される。ケースは全7色。購入特典として未収録曲“Everything”のダウンロード・コードを封入。詳細はこちら

 

LIVE INFORMATION

PEOPLE AND ME 2020
2020年8月22日(土)愛知・名古屋 Stiff Slack
開場/開演:​19:00/20:00
出演:EASTOKLAB/The Skateboard Kids
前売り:2,500円(ドリンク代別)
ご予約:
https://eastoklab.com/
http://www.stiffslack.com/

Plot Scraps “INVOKE TOUR 2020”
2020年11月9日(月)愛知・名古屋 CLUB UPSET
2020年11月12日(木)福岡・天神 Queblick