「サムライチャンプルー」20周年!
Tsutchieが語る、世界を熱狂させたアニメを貫くヒップホップの本質

 「カウボーイビバップ」「アニマトリックス」の渡辺信一郎監督が2004年に手掛けたアニメ「サムライチャンプルー」。アニメとヒップホップ、時代劇のマッシュアップを時代に先駆けて実践し、いまも全世界で愛されている伝説のアニメーションがTV初放映から20周年を迎え、サウンドトラック4作品が紙ジャケ仕様でCDリイシューされた。Nujabes、ファット・ジョン、FORCE OF NATUREと並んでその音楽制作に深く携わった、ヒップホップ・グループSHAKKAZOMBIEの一員にして、現在も第一線で自身の作品制作、プロデュース、ミックス、マスタリングなどを行うTsutchieに当時の制作秘話を伺った。


 

――まず、「サムライチャンプルー」の音楽制作を手掛けた2004年当時のご自身の状況を振り返っていただけますか?

「SHAKKAZOMBIEの活動と合わせて、ソロ作品を出そうという流れがあったんです。2002年にSHAKKAZOMBIEのアルバム『THE GOODFELLAZ』を出したぐらいのタイミングで、僕はソロの制作を始めて、2002年末に『THANKS FOR LISTENING』、2003年末にインストゥルメンタルの『This is a recording』という2作のアルバムを出しました。ただ、本人的には作品は違えど作っていることに変わりはなく、作品単位でモードを意識的に切り替えてもいなかった。グループ、ソロ、ラップ用のトラック、インスト・トラックを分けて考えることもなく、膨大な数の曲を欲望の赴くままにひたすら作って、その延長線上にアルバムが存在するという感覚でした」

――バンドの生音を交えた『THANKS FOR LISTENING』のプロダクションは当時、全盛期のソウルクエリアンズに対する日本からの返答として大きな話題になりましたが、Tsutchieさんの意識は?

「当時はレコーディング・スタイルの主流がデジタルになりつつあった時期で、生楽器を限りなくリアルにシミュレートしたソフトウェア音源を用いれば、エレピの音なんかもPC内の音源で鳴らせるようになって。自分の制作においては、サンプリングを極力抑える一方、ヴァーチャルな音源や生音で弾いたものを足したり、生音で弾いたものをチョップして、もう一度シーケンスを組み直したりすることで、デジタルとアナログをいかに分け隔てなく使うかを試行錯誤していましたね」

――「サムライチャンプルー」の音楽制作を手掛けることになった経緯は?

「『サムライチャンプルー』の前に渡辺監督が手掛けていた『カウボーイビバップ』の第13話〈よせあつめブルース〉でSHAKKAZOMBIEの“空を取り戻した日”と自分がアナログのみで発表したソロの12インチ『Get A Point』の音源を使わせてほしいというオファーをいただいたのが最初の接点でした。その流れを受けて、渡辺監督から時代劇とヒップホップを掛け合わせた『サムライチャンプルー』というアニメを作りたいので、音楽をお願いします〉という連絡をいただいたんです。〈よろしくお願いします〉と即答しました」

――制作はどのように進んだんですか?

「事前に〈こういうお話です〉という説明を兼ねた打ち合わせがあり、設定資料を見せていただきながら、音楽をどんな形にするのがいいのか、お話しました。放送中、このシーンにこういう音を付けたいというリクエストをいただいて、タイトな締め切りのなかで、制作することもあったんですけど、基本的には〈悲しいシーン〉や〈チャンバラのシーン〉といった本当にざっくりしたテーマをいただいて、それらをふまえて漠然と思いついたものを片っ端からレコーディングしていく作業でした。自分が提出したのは全部で60トラック強かな。ただ、1曲に対して、ビートだけ、ウワネタだけのヴァージョン違いを2、3パターン作ったので、全部で200トラック近かったと思います。サントラにおいて僕の作ったものが、僕の曲だけを収録した『samurai champloo music record “playlist”』、(FORCE OF NARUTEと分け合った)『samurai champloo music record “masta”』の2作に跨っているのは、提供したトラックの多さも関係しているんじゃないかな。どの曲をどの場面にハメていくかは渡辺監督にお任せして、最終的には制作した全曲を使っていただいたんですけど、渡辺監督はDJ的感覚というか、その場にあった選曲の仕方に長けていた。相当な音楽好きじゃなければできないことをやっているなと思いました」

――20周年を迎えて、「サムライチャンプルー」はTsutchieさんにとってどんな作品になっていますか?

「2022年に『サムライチャンプルー』のアナログ盤がリリースされたんですけど、『サムライチャンプルー』は海外で頻繁に再放送や配信されていることもあって、若い世代の人たちが作品を知る機会が多いみたいで。去年くらいから、自分がDJしているイヴェントに海外の若者が会いに来てくれるようになり、アメリカ、カナダ、フランス、アイルランド、ハンガリー……世界各地から月に1回くらいはそういう人が来る勢いなんです。ヒップホップってサンプリングのネタはなんだっていいわけじゃないですか。ジャンルに関係なく、ループを組んだときにカッコいいものがヒップホップとしてカテゴライズされる――そういうベーシックなところでの時代劇とヒップホップのマッシュアップだったと思うんですけど、その組み合わせのおもしろさが20年経ってもフレッシュなのかなと。そして、『サムライチャンプルー』は渡辺監督が徹底的に好きに作ったからこそ、世界に通じるものになったんじゃないかと個人的には思います。自分がその一部に関われたことはすごく光栄なことですね」

近年アナログ化された「サムライチャンプルー」の関連作。
左から、Nujabesの12インチ“Other Side Of Phase”(Hydeout)、MIDICRONICAの7インチ『san francisco/Butterfly R』(ローソン)

Tsutchieの近年の参加作を一部紹介。
左から、曽我部恵一とのスプリット・7インチ『スロウモーション/カフェインの女王 7inch Edit』(avex)、SHAKKAZOMBIEの2022年作『BIG-O DA ULTIMATE』(ユニバーサル) 、2015年のサントラ『GANGSTA. Original Soundtrack “SIGNS”』(ランティス)

渡辺信一郎が関わった作品のサントラを一部紹介。
左から、2023年の『COWBOY BEBOP Soundtrack From The Netflix Series』2014年の『スペース☆ダンディ O.S.T.1 ベストヒット BBP』、2019年の『キャロル&チューズデイ』、2021年の『Sonny Boy』(すべてflying DOG)