〈緑の色彩〉を帯びて響く、鮮やかな構成美

 〈Opus 109〉は、ベートーヴェンのソナタ第30番ホ長調のこと。鬼才ピアニスト、オラフソンの新譜は、この作曲家晩年のソナタを中心に、バッハやシューベルトのホ長調とホ短調による作品が音色がグラデーションをなすように配置されている。

VÍKINGUR ÓLAFSSON 『オーパス109』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2025)

 スタートは、バッハの前奏曲第9番ホ長調(平均律クラヴィーア曲集第1巻)。そのデリケートに弾かれたバロック作品が序奏となって、次のベートーヴェンのソナタ第27番ホ短調の力強さをアピール。なめらかに繋げる音をあえて直角にターンするように歯切れ良いフレージングを用いた、振幅の大きなベートーヴェンだ。第1楽章のコーダの内省的な領域までぐっと入り込んだ遅いテンポ、第2楽章のロンド主題が原調で再現されたときの吹っ切れたような表情が印象的だ。

 そのベートーヴェン作品の続きかのように、バッハのパルティータ第6番ホ短調に自然に繋がっていくのもいい。軽快でリズミカル。それぞれの声部の独立したような動き。その卓抜な運動性を内面的なものへと転じさせるべく、シューベルトのソナタ第6番ホ短調が続く。未完成であまり演奏される機会がないこのソナタから最初の2楽章が弾かれる。

 そのシューベルトの第2楽章アレグレットは、揺らめくように調性が移ろっていく。そして、その幻想性を受け継ぎ、それがさらに高みへと昇っていくベートーヴェンのソナタ第30番。いよいよ真打ちの登場だ。その周到を極めた段取りは、戦慄が走らんばかりの鮮やかさ!

 繊細で軽やか、そしてスモーキーな響きのオラフソンのピアノ。変奏曲の一つひとつがバッハの舞曲のように躍動し、頂点を築く。その気分の高まりを静めるべく、バッハのサラバンド(フランス組曲第6番ホ長調)が弾かれる。そして、アルバムは主役のソナタ第30番の最終楽章の主題、そのすべてを包み込むような優しさで締めくくられるのだった。“ゴルトベルク変奏曲”のアリアが最後にもう一度弾かれるように。