ヒットソングがなかった年? “Goleden”やチャペル・ローンの話題曲
小田「ヒットソングや話題曲についてはどうでしょうか? 2025年はヒット曲に欠けた年だったとも言われていますが」
天野「そうなんですよ。Billboard Hot 100の年間チャートは、1位のレディー・ガガ&ブルーノ・マーズ“Die With A Smile”、2位のケンドリック・ラマー & SZA“Luther”など2024年のものばかりで、7位にようやくアレックス・ウォーレン“Ordinary”という2025年の曲が入ってくる結果でした。トップ10の内、その年の曲が“Ordinary”だけだったという」
小田「そんななか、象徴的なヒット曲といえばHUNTR/X“Golden”でしょうか。HUNTR/XはNetflixのアニメ映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』に登場する架空のK-POPグループですが、そもそも作品の大元の設定からして驚きですよね、〈K-POPアイドルが悪魔退治〉という(笑)。でも、これがなかなか侮れない。ちゃんとK-POP作品なんですよ。異国の文化を取り上げた作品という点ではDisney+の『SHOGUN 将軍』にも同じことが言えますが、決して〈○○風〉な見せ方にはなっていない。ちゃんと実際の韓国文化に敬意を払った作りで、そうしたリアリティが仮想の存在であるHUNTR/Xに説得力を持たせているんだと思います。
“Golden”も〈ありのままの自分を受け入れて輝く〉という、LE SSERAFIMなど第4世代のガールズグループが強く打ち出したセルフラブ的なメッセージがわかりやすく表現されていますよね。ヒットしたのも頷けます」
天野「邦楽ではVTuberなどが活躍していますが、洋楽でバーチャルなアーティストがこれほどのヒットを飛ばしたのは新鮮ですね。K-POPの欧米への浸透も感じさせます。
それから、クィアスターとして快進撃を続けているチャペル・ローンは、“The Giver”“The Subway”という2曲しか2025年にリリースしなかったにもかかわらず、強い存在感がありました。個人的には性について歌ったカントリーポップ“The Giver”が好きなんですが、世間的な評価は“The Subway”のほうが高かったですね。
“The Subway”はドリームポップっぽいプロダクションの曲で、地下鉄で元恋人の姿を偶然見かけたことを歌った悲痛な失恋ソングです。レズビアンであるチャペルですが、ハートブレイクの模様を綴った歌詞は普遍的な内容で、かなり広く受け入れられたんだと思います」
小田「大ヒットこそしませんでしたが、“Diet Pepsi”“Headphones On”“Fame Is a Gun”といったシングルが注目を集め、1stアルバム『Addison』を発表したアディソン・レイは2025年を象徴するポップアクトでした」
天野「アディソンはもともとTikTokフォロワーが8,800万人もいるインフルエンサーで、2021年から音楽活動を始めたんですよね。アルカやチャーリーxcxといったエッジーな才能とも交流しつつ、彼女の作品には単なる〈インフルエンサーの音楽活動〉という以上のインパクトがありました」
小田「アディソンの曲は、トリップホップやハウス、UKベースなど1990年代~Y2Kあたりのプロダクションをうまく噛み砕いた絶妙なサウンドが特徴です。ウィスパーボイスの歌唱もあいまって、抑制的でオルタナティブなポップによって魅力を発揮していましたね」
天野「曲単位では、ピクセル・ガールことソフィー・パワーズの“STFU”について言及しておきたいところ。TikTokを中心にSNSでバズったバイラルヒット曲です。人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』に彼女が出演した際に披露され、ふざけ倒した歌詞とへんてこなビジュアルが話題になりました。審査員のライオネル・リッチーが〈こいつは何を言っているんだ!?〉と度肝を抜かれている顔もかなり笑えましたね。何と言っても〈○○、黙れ〉と繰り返すサビの歌詞が最高で、ナンセンスなんだけど政治的な意味も読み取れそうな塩梅がいい。
ソフィーはキティちゃんやアニメなど日本文化が好きで、“STFU”のMVも東京で撮影していたので、今後日本でも注目されてほしいなと思っています」

