『CONFESSIONS II』を迎える前に知っておきたいマドンナ
マイケル・ジャクソンの神がかり的な魅力が映画「Michael/マイケル」の公開を通じて改めて広く認知を集めている2026年。そのマイケルとプリンス、マドンナが同じ58年生まれという話はもはやお馴染みだとして、今も昔もずっと比較され続けている規格外のスターが同時期に誕生し、いまなお音楽シーンや世間に強い影響を与えているというのも凄いことだ。往時よりも完全に復権して神格化されつつある気もするマイケルに対し、2026年のプリンスといえば未発表曲集『Timeless』のリリースが発表されるなど、相変わらずマニアックな話題が多いのも彼らしい(?)。で、そんな枕はさておき、2026年のマドンナはどうなのかという話だ。
数年前に古巣のワーナー復帰を発表した彼女は、並行してデュア・リパやビヨンセ、アリアナ・グランデといった後進のトップスターたちとコラボするなど、大御所らしい敬意の集め方をしていたが、一方でアルバムのリリースは2019年の『Madame X』以来(マドンナにしては長いブランクで)途絶えていた。が、そんなところにサブリナ・カーペンターとのコラボ・チューン“Bring Your Love”のリリースである。しかも時を同じくして映画「プラダを着た悪魔」の続編公開という話題もあって、改めてあのファッショナブルなアンセム“Vogue”が思い出されるという効果も重なってきた。そんなふうに過去と現在から同時多発的に話題が積み重なっていくというのは偶然なのか、カリスマならではの引きの強さなのか、いずれにせよ、年齢を重ねながらも力強く存在感を発揮し続けるマドンナは、やはりキングやプリンスと並び立つ唯一無二の女王である。
存在としてはもはや説明不要のマドンナだからして、セールスやチャート成績における多少の好不調は関係なく、アイコニックな威信とポップスターとしての現役感をまるで失うことのないまま活動し続けているその状況は、いよいよ奇跡的なものになっている。音楽シーンを越えてしばしば社会に影響を及ぼしてきた彼女の言動は、ゴシップや議論も巻き込みながら世間に話題を提供し、80年代からずっと世を騒がせながら結果的に自身の音楽を広めてきた。自身では〈私が最高のシンガーではないことも、最高のダンサーじゃないこともわかっている〉と公言しながらここまで別格の発信力を得てきたのは、彼女の人並み外れた野心やヴァイタリティーがあってこそだし、そのセンスや考え方が時代にピタリとハマってきたからに違いない。
現代の目から見れば時にスマートではない挑発的なやり方もあったにせよ、自身を縛ってきたカトリックをはじめとする宗教、政治や人種差別などの社会問題、マイノリティーへの眼差しなど、さまざまな意図を込めた彼女のステイトメントは、時にはエンターテイメントの範疇(とされるもの)を越えて旧来の価値観をセンセーショナルに揺さぶってきた。当初は男性ファン向けのピンナップスターという体裁でポジションを温めながら、すぐに多くの同性を惹き付けるアイコンになったのは、そう振る舞いながらも自身で状況を強かにコントロールしていこうとする彼女の姿勢が共感されたからだろう。
さらに、そういったマドンナのアティテュードが後進のアーティストたちにさまざまな可能性を拓いてきたのは言うまでもない。ミッシー・エリオットやニッキー・ミナージュ、M.I.A.とのコラボが実現してきたのもそれゆえだろうし、ブリトニー・スピアーズ“Me Against The Music”(2003年)に招聘されたり、アリアナ・グランデ“God Is A Woman”(2018年)のMVでモノローグを担当していたのも、積み上げてきた経歴あってのキャスティングに相違ない。
ただ、そうしたトータルなアーティスト性やアイコンとしての偉大さ以上に大事なのはやはり彼女自身が生み出してきた音楽そのものだ。82年のデビュー以来、どんなにメッセージやコンセプトが先行しようとも芸術気取りに振れることなく、興味の赴くままにジャンルを横断してポップな大衆志向を貫いてきた歩みそのものが、そもそもダンスフロアで生を受けたマドンナの美点でもある。もともとMTVの興隆にシンクロして躍進した経歴ゆえか80年代にはグラミーのノミネートもほとんどなく、音楽作品での受賞は『Ray Of Light』(98年)の〈最優秀ポップ・アルバム〉が初。主要部門に関してはノミネート経験すらその『Ray Of Light』と“Ray Of Light”、そして“Music”(2001年)でしかないわけで、そんな部分も権威とは距離のあり続けた彼女らしさのひとつと言えるのかもしれない。
そして、先述の“Bring Your Love”が話題になったのは、何も旬のサブリナ・カーペンターとのコラボだからというだけの単純な理由ではもちろんない。このたび到着したニュー・アルバムのタイトルは『CONFESSIONS II』。言うまでもなく2005年に彼女の威信を復活させた『Confessions On A Dance Floor』の続編という位置付けの作品であり、同作のメイン・プロデューサーとして“Hung Up”や“Get Together”などを生み出したスチュアート・プライスとふたたびガッチリ手を組んでの新作リリースがアナウンスされたからであった。
前作『Confessions On A Dance Floor』がアバやドナ・サマー、セローン、ペット・ショップ・ボーイズらへの敬意も散りばめた(広い意味での)ディスコ・アルバムだったのに対し、新作はそのイメージも活用しながらハウス・ミュージックを主軸に過去と現在のダンスフロアへの愛と敬意を示した作品となっている。先行曲の“Bring Your Love”はインナー・シティの“Good Life”(88年)をサンプリングし、アルカと手合わせしたアルバム冒頭の“I Feel So Free”ではリル・ルイスのアシッド古典“French Kiss”(89年)をこれまたサンプリング。どこかビヨンセの『Renaissance』に触発されたアプローチにも思えるのはさておき、DJ文化やクィア・カルチャーへの理解と尊敬も含めて筋金入りのダンスフロア育ちであるマドンナが、みずからリアルタイムで体験/創造してきた音がリヴァイヴァルされる様子を目の当たりにして、俄然やる気になったのは確かだろう。
アルバムでは他にも、フェイドを迎えてラテン・ポップを取り込んだ“Read My Lips”、ロリータ・ハロウェイの同名曲も連想させるスターダスト風味の“Love Sensation”、マーティン・ギャリックスと組んだユーロダンス調の“Bizarre”、ロニ・サイズとDJダイのジャングル古典“Music Box”を敷き詰めた“Fragile”、『Erotica』時代のハウスを想起させるストロマエとの“My Sins Are My Savior”といった多彩なトラックが並ぶ。なかでも象徴的なのは、自身がデビューするきっかけとなったクラブ=ダンステリアを曲名にした“Danceteria”だろう。ここではバスキアやファブ・ファイヴ・フレディ、キース・ヘリング、デヴィッド・バーンら偉人の名を列挙してルー・リード“Walk On The Wild Side”の引用にまで至り、NYが育んだ文化のワイルドサイドに敬意が捧げられている。
そうしたラインナップから浮かんでくるのは、ノスタルジーだけでもなく、先鋭志向だけでもなく、実際に触れてきた音楽や体感してきた文化を自身のモダンなポップ・ミュージックとして貪欲に表現し続ける彼女の変わらなさ、である。パーティーがピークを過ぎた終盤、“Betrayal”にて継母との複雑な関係を告白し、“The Test”には愛娘のローラ・レオンを迎え、アルバムの最後に置かれたのは無名時代の記憶をアフターアワーズ調に回想する“L.E.S. Girl”。2026年のマドンナが作り上げた『CONFESSIONS II』は、恐らくはこれが最後になっても構わないぐらいの、音楽人生の集大成と捉えることもできる大傑作だろう。
マドンナの編集盤を一部紹介。
左から、ダンス・チャート首位の楽曲をまとめた『Finally Enough Love』、『Ray Of Light』収録曲のリミックスをまとめた『Veronica Electronica』、94年作のデラックス盤『Bedtime Stories+The Untold Chapter (Deluxe Edition)』(すべてRhino)
