〈運命をひっくり返すことも厭わない〉という思いが聞こえる“Eleven Back”
2曲目の“Eleven Back”の曲名は、彼らが主催する対バンライブイベントのタイトルに由来する。もともとの意味はトランプでの大富豪のローカルルールで、〈11(J)が出た瞬間から、場が流れるまで革命が起こり、数字の強さが逆転する〉というもの。この世界において我々は、あるルールのもとで生きている。しかし、どんな手札を切るか、何を望むかは各々の自由。であれば自分の可能性に懸けるしかないし、運命をひっくり返すような行動だって厭わないと、楽曲の解釈はもちろん限定できないが、筆者はこの曲から、そんな意思を感じ取った。
鋭い光を放つギタープレイ、濃密なファンクネスを描き出すベースの絡みも“Eleven Back”の魅力。心地よく飛び跳ねるビートを的確に捉えたボーカル、ディスコティックな雰囲気を感じさせるサウンドメイクを含め、〈踊る〉という機能もしっかり装備されたこの曲は、今後のライブでも華やかなシーンを生み出すことになりそうだ。
大切な人との別れを詩的に綴る“柊”
“柊”は、ポップスとしての精度、J-POPとしての親和性を感じさせる楽曲だ。歌詞を通して映し出されるのは、大切な人との別れ。あの頃に戻りたいけど、あの頃のあなたはもういない。後悔がないといえばウソになるが、今さら「行かないで」とは言えない。そんな心象風景が、シンプルかつ詩的な表現で綴られているのだ。冬の花をタイトルに据えることで、リスナーに鮮やかな風景を想起させる仕掛けも粋だ。
切なさのなかに明るさを感じさせるメロディ、冬の澄んだ空気とリンクしたサウンド、歌詞の世界観と重なるギターソロも気持ちいい。誰もが自然に入り込めて、口ずさんだり、それぞれの思い出を蘇らせてみたり。そんな楽曲を生み出せるのも、今のTenTwentyの強みなのだと思う。
強力なバンドと新機軸に挑んだ“マツリカは夜に咲く”
“マツリカは夜に咲く”は結成6周年を記念したライブ〈TenTwenty ONE MAN LIVE ~ハレ~〉でいち早く披露された楽曲だ。ファンク、ソウル、ロックなどが有機的に融合したバンドサウンドがまず刺激的。レコーディングに参加したミュージシャンはBOBO(ドラムス)、渡辺シュンスケ(キーボード)、村瀬和広(サックス)。TenTwentyのプロダクションの軸は斎藤宏介と須藤優だが、楽曲によっては他の音楽家を招き、そのなかでしか生まれないケミストリーを活かすこともある。“マツリカは夜に咲く”のどこか官能的なグルーヴと音像は、まさにその賜物だろう。特にサックスの取り入れ方は明らかに新機軸。音楽的なトライアルを続け、表現の幅を広げ続けている彼らのスタンスが端的に表れた楽曲だと思う。
もう1つのポイントは、斎藤のボーカル。ラップを交えた多彩な歌声からは、シンガーとしての新たな領域がしっかりと伝わってきた。
さらに未来へ進むポップチューン“ハレ”
EP『Abyss Red』の最後に収められたのは、2025年10月にデジタルシングルとしてリリースされた“ハレ”。爽やかさと鋭さを同時に感じさせるアレンジ、軽快なテンポ感のなかでブライトな表情を見せる旋律、ギターとベースの技巧的なユニゾンソロなど、今のTenTwentyの良さがたっぷり込められたポップチューンだ。
〈時は来た/このまま行けるとこまで〉という最後のラインにおける、圧倒的なポジティビティもこの曲の求心力の強さにつながっている。しっかりと自分たちらしさを持ちながら、音楽的なモードを更新し続け、さらなる未来へと進む。“ハレ”は間違いなくTenTwentyの新たなエンジンになるはずだ。