斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)が自身の表現の場として定期開催してきた「SK's Session」を経て、バンドメンバーであるベーシスト須藤優と共に〈XIIX(テントゥエンティ)〉を結成。1月22日にファースト・アルバム『White White』がリリースされる。斎藤と須藤に話を聞いた。
――斎藤さんのソロ・プロジェクトであるXIIXがいよいよ動き出しました。自主イベントである〈SK’s Session〉での活動から発展して生まれたこのバンドですが、改めて過去3回行った〈SK’s Session〉の手応えとしてはいかがですか?
斎藤宏介「〈SK’s Session〉はいろんな思惑があって始めたんですけど、ひとつはこのXIIXに繋がる、UNISON SQUARE GARDENではできない自分のなかから出てくる音楽的表現をする場にしたかったんですね。あと誰かと一緒にセッションしたり曲を作るのに、その人とじっくり一緒にできる時間が欲しいって思ったのもひとつ。それともうひとつは〈自分がひとりステージに立って何ができるか〉という度胸試し的な意味合いもあって。それも1回じゃなくて継続させたい、という想いもあってこのイベントが始まったんですね。結果的には3回やってようやく満足いったものが出来た、という感じですね」
――その過去3回のステージでベースを弾いていたのが須藤さんですが、同じにステージに立って、斎藤さんというアーティストはどう映りましたか?
須藤優「この声とギターと一緒にやってみて、やっぱり斎藤宏介という男のパッケージ感というか、完成されている感があると思いましたね。それを感じつつも〈スマートな男だなあ、しっかりしているなあ〉と(笑)」
斎藤「いやいや、ヒイヒイ言っていましたけどね(笑)」
――また斎藤さんとしては須藤さんというミュージシャンと一緒にやろうと思ったポイントはどこにありましたか?
斎藤「UNISON SQUARE GARDENを除いて、単純に自分が知っているいちばんかっこいいベーシストなので。あと僕、音楽の知識はギターとヴォーカルと、あと軽くドラムスとピアノぐらいでそれ以外はわからないから、いちばんわかっている人にそれを埋めてほしいと思っていて。そういうキャッチボールがいちばんできる人は近くにひとりしかいなかったから、何の迷いもなくすごく自然に。むしろ彼ありきでイベントの日程を選んでいましたね」
――そのステージではすでにオリジナル楽曲を披露してきていましたが、そのなかでXIIXの青写真のようなものは描いていたんですか?
斎藤「正直なことを言っちゃうと、僕はUNISON SQUARE GARDENを結成したときからふつふつとUNISON SQUARE GARDENではない音楽表現の場を欲していたんです。ただ僕はUNISON SQUARE GARDENを何より大切にしたいという気持ちがあるので、それを両立できるタイミングをずっと伺っていて、そういう場を作るためにこのイベントを3年かけて3回やってきたんですね。で、たまたまそのなかでUNISON SQUARE GARDENが結成15周年を迎えて、今このタイミングだったら誰にも迷惑かけずに自分の関わるものに100パーセント向かっても、変な誤解が生まれないだろうなと思って、ようやく2020年から本腰入れて動き出せるようになったんです」
ーーそれが満を辞して2020年にXIIXとして始動したわけですね。もちろんそれ以前から須藤さんとは楽曲制作のやりとりをしていたわけですよね。
須藤「3、4年前ぐらいからかね?」
斎藤「うん。最初は僕が曲を作って須藤くんにアレンジしてもらうところから始まったんですけど、その逆で須藤くんがトラックを作ったのに僕が歌と歌詞を乗せて出来上がるというパターンもだんだん出来上がってきたんです。またそれがすごくしっくりきて、それなら彼はもはやプロデューサーとかではなく、対等な同じひとつのチームにできるなと思って、こういうバンドになったんです」
須藤「第1回の〈SK's Session〉をやったときに、宏介の作ってきた曲を聴いて、そこから自分も〈こういう曲だったらもっと違う宏介が見られるんじゃないか〉と思ってトラックだけ作ってみたんですよ。それで返ってきたものが自分の想像を超えてかっこよかったので、〈すごくいいな〉と思って。一緒にやっていてワクワクできるし、このふたりだったら新しいものができるなと思いましたね」
――そうしたふたりのセッションの末に出来上がったアルバムがこの度リリースされるXIIXの1stアルバム『White White』になります。アルバムを通して聴くと、さまざまなジャンルのサウンドが展開された作品だなと思いました。例えば2曲めの“Stay Mellow”からしてジャジーなアプローチですね。
須藤「最初はもうちょっとカチッっとしたファンク・ナンバーだったんですよ。イントロもファンクっぽいギターが鳴っている感じで」
斎藤「そのトラックを聴いて僕が1コーラス作って、それを須藤くんに返したらまた全然違うアレンジで返ってきたんです」
須藤「ファンクなつもりで送ったらラップが入ってきちゃった(笑)。じゃあヒップホップだなと。Bメロをヒップホップにしたらもっと新しい見え方ができそうだなって思って、そこからピアノのイントロをつけた感じですね」
斎藤「須藤くんのすごいところは、一個〈これだ〉と決めたところを簡単に崩せるところだと思っていて。返ってきたものがまったく別物になっていても、ちゃんとよくなっているところはアレンジャーとしての素晴らしさだなって思いましたね」
須藤「そういう意味ではこの曲がいちばん変わったよね」
――そうした有機的なセッションという作り方は斎藤さんにとっても新鮮でしたか?
斎藤「うん、やっぱり〈楽しい〉っていうのがいちばんの原動力になります。〈うわ、めっちゃかっこいい〉って心から思えるトラックに対して、自分がちょっとでもいい歌、いい歌詞、いいメロディで返そうと思って、返すとまたもっとよくなって返ってくる。そのやりとりが1枚のアルバムになりましたっていう感じですね」
――サウンドのアプローチもさまざまで、オーセンティックなロックからシティポップ、またミニマルな打ち込みもあるなど、本当に自由なセッションから生まれているんだなと思います。
須藤「バンドとしてドラムスとかのメンバーがいないぶん、逆にふたりがかっこよければ成立すると思っています。そういう意味ではバンドとしていろいろできるなって思いますね」
――一方で、斎藤さんが書かれるリリックも、サウンド・アプローチに応じて性格が変わるというか、そこも自由な発想で作られているのかなと。
斎藤「曲を受けてそこから感じる雰囲気や浮かんだ映像をテーマにしながら、ある意味では書かされている感じというか、自分じゃない人が書いている感じがちょっとありますね。基本的に歌詞はなんでもいいって思っている人なんですけど、なんでもいいくせに全然なんでもよくないって、自分で書きながら思うんですよ(笑)。そこが無茶苦茶自分で消化するのが面倒くさかったんですけど、その〈なんでもよさ〉とこだわりたいポイントのバランスは自分でも折り合いをつけられるようになってきたし、これからが楽しみだし」
――そんなバンドの〈これから〉を描く意味では、アルバム・リリース直後のワンマン・ライブにも注目が集まります。
斎藤「僕らもいま現在、どんなライブになるかわからないし、何より1枚出して終わりのバンドではないから。このアルバムもそうですけど、長い時間かけて出会った人が振り返ってこの1枚目に辿り着いたときに、〈あ、こんなことやっていたんだ、かっこいいな〉って思ってもらえるようなものをちゃんと作りたかったし、作れたと思うので、ライブはその意志表示になったらいいですよね」
――このアルバム1枚だけに留まらず、バンドとして動き続けていくと。
斎藤「何よりXIIXとしてスタートを切れたというのが、僕のなかでものすごく大事なことだと思っていて。ハイペースでいいテンポで曲も作れたし、たぶんファースト・アルバムが世に出る頃にはセカンド・アルバムのレコーディングもしていると思うし、ずっと走っていけているということにすごく意味があると思います。その走っている様子をようやく形にできたのが今回のアルバムなので、僕らもものすごく愛着もあるし、楽しんで聴いてもらえたらすごくうれしいなって思いますね」