恍惚を呼び覚ます歌声
刺激を受けてきたという意味では、いくつかのカヴァーも注目どころ。ウィスパーズのムーディーなスロウ“In The Mood”や、サンプリングの定番ネタでもあるアイズレー・ブラザーズの楽曲を、オリジナルとは別のシルキー&スウィートな雰囲気に仕上げた“Between The Sheets”(2013年)、〈雨の如く私に愛を浴びせて〉と歌われ、SWVのライヴではクライマックスのひとつとなっている“RAIN”(2010年)などを、久保田流のヴォーカルで味わえる。また、J-Popシーンにおける〈久保田利伸〉をメインに接してきたリスナーには、TOSHI名義でUSリリースされた“Breaking Through”(2004年)にも耳を傾けてほしいところ。この曲は、ミュージック・ソウルチャイルドやジル・スコットらを手掛けてきたカーヴィン&アイヴァンと制作。カーティス・メイフィールド“Tripping Out”を借用した流麗なグルーヴは、久保田の真骨頂となるファンキー&ソウルなヴァイブスを湛えている。
R&Bの旨味が絶妙に発露されるミディアム~ミディアム・スロウが主軸となっているが、アーバンかつクールなグルーヴを紡ぐ“To the Limit”、スティーヴィー・ワンダー・マナーのシャッフル・リズムでゴキゲンに進む“トランペット吹きながら” (共に92年)といった久保田流ファンキー・ポップスを明快に投影した楽曲群も組み込まれていて飽きさせない。
また、“Summer Sweet”(2005年)や“BABYLON LOVERS”(2008年)などシングルのカップリングでしか聴けなかった楽曲に加えて、両A面としてリリースされた最新シングルの2曲も収録しているのが嬉しい。その“1, 2, Play”と“Left & Right”は共にTVアニメ「Let’s Play クエストだらけのマイライフ」への書き下ろし。タイアップも多い久保田だが、アニメ主題歌となると95年の「H2」のオープニング・テーマ“虹のグランドスラム”、北海道日本ハムファイターズをテーマとした2004年の「超ぽじてぃぶ! ファイターズ」主題歌“Funky Fighters”くらいか。ラヴ・アフェアーを予感しているかのような高鳴る胸騒ぎを褐色のビートで描いた“1, 2, Play”、女性コーラス(HIKKA)と会話するかの如く寄り添いながら、軽やかな曲調で愛の〈宇宙〉へ誘う“Left & Right”という対照的な作風の2曲だが、いずれも濃度の差はあれ、絶妙に心をくすぐるグルーヴの横溢を体感できる。
そのほか、穏やかながらもコクのある訴求力の高いラップをモス・デフが加えた“無常”(2002年)や『LA・LA・LA LOVE THANG』ではやや陰に隠れてしまった感もありつつスウィートなファンクネスに満ちた佳曲“裏窓”(96年)など、全編にわたって浸透力の高い、恍惚を呼び覚ます楽曲が揃っている。もともと表現力に富む久保田が、とりわけ鮮やかな表情を見せているのが、本作の楽曲群といえるだろう。久保田に宿るR&Bイズムを感じさせると同時に、〈R&B〉を意識することなく彼の歌世界に触れてきたリスナーにとっても〈R&B入門編〉として絶好の作品だ。 *june typhoon tokyo
久保田利伸のベスト盤。
左から、2005年の『THE BADDEST IV & Timeless Hits』、2002年の『THE BADDEST III』、93年の『the BADDEST II』、89年の『the BADDEST』(すべてソニー)
久保田利伸の企画盤とシングル。
左から、2010年の『LOVE & RAIN 〜LOVE SONGS〜』、2002年の『THE BADDEST ~Only for lovers in the mood』、2026年の『1, 2, Play / Left & Right』(すべてソニー)