キャロル・キングを輩出したシティの名作が初の日本盤LP化!!!

 〈夢語り〉という名の幸福な音のタペストリーが、ふたたび僕らの手のなかに――。TOWER VINYLとソニーが手を組み、洋楽名盤をアナログ盤で蘇らせるシリーズ〈TOWER VINYL presents レコードで聴きたい名盤〉がスタートする。その第1弾として選ばれたのがキャロル・キング関連の2作品。問答無用の名盤『Tapestry(邦題:つづれおり)』(71年)の選出は当然として、もう1枚がレコーディング・アーティストとしての彼女が第一歩を記したシティによる68年作『Now That Everything’s Been Said』となったことには胸が躍る。

THE CITY 『Now That Everything’s Been Said』 Ode/ソニー(1968)

 長らく〈壁レコ〉の常連でもあった本作。レア化していたのは、リリース直後にオードの配給元変更という混乱に見舞われ、短期間しか市場に出回らなかったためだ。キャロルが〈つづれおり〉でブレイクした後も、プロデューサーを務めたルー・アドラーの意向で陽の目を浴びず、バンドも短命に終わったため、成功への橋渡し役となった〈知られざる一枚〉という控えめな評価にとどまっていた。だが93年、日本で実現した世界初CD化が流れを一変させる。モノクロに改変されたジャケットのカウンターフィット盤で折り合いを付けていたアメリカン・ロック好きだけでなく、ソフト・ロックや渋谷系のリスナーも巻き込み、再発盤としては異例のセールスを記録。習作どころか、とんでもない充実作じゃないか! そんな再評価が一気に広がった。エヴァーグリーン感の溢れる邦題〈夢語り〉が付けられたのもこのとき。カウンターフィット盤を密かに愛でていた筆者にとって、そのタイトルはまるでおまじないのように響いたものだった。

 レコーディング当時、キャロルは26歳。ソングライティング・パートナーだったジェリー・ゴフィンと離婚し、故郷NYから新たなポップ・ミュージックの発信地、LAへ移り住んで間もない頃だった。ソングライターとしては実績十分だったが、シンガーとしては長いブランクのあった彼女が必要としたのは、呼吸のリズムを穏やかに整えてくれる仲間だったのかもしれない。アルバム冒頭の“Snow Queen”を聴くとそんなイメージが自然と浮かんでくる。シティ解散後も彼女の手厚いサポートを行うギターのダニー・コーチマー、そして2番目の夫となったベースのチャールズ・ラーキーが息の合った演奏でインティメイトな空気を醸し出し、キャロルの自然体なヴォーカルを優しく包み込む。ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのカヴァーでも知られるこの曲だが、ジャジーなワルツ・アレンジによる本ヴァージョンの魅力は格別だ。ブライアン・ウィルソンがプロデュースしたアメリカン・スプリングも取り上げた表題曲、ブラッド・スウェット&ティアーズがヒットさせた“That Old Sweet Roll (Hi-De-Ho)”など芳醇なメロディーも豊富で、シンプルながら閃きに満ちたアレンジが後味のよいサウンドを形作っている。アソシエイションを思わせるパラッパ・コーラスがくすぐったい“Victim Of Circumstance”、キャロルのリズム&ブルース愛がきらめく“I Don’t Believe It”。ローレル・キャニオンの開放感とグリニッジ・ヴィレッジの香りがゆるやかに溶け合ったようなサウンドも実に魅力的だ。さらに、のちにデレク&ザ・ドミノスのメンバーになるサポート・ドラマー、ジム・ゴードンの骨太なプレイもアルバムにアーシーな味わいを与えている。

 キャロルが生み出す音楽を誰もが求めるようになる、シンガー・ソングライター時代の扉が開くまであと少し。自分は本当にどんな曲を書きたいのか? そんな自問自答が随所に覗くブレイク前夜の名盤を、カラー・ジャケットのアナログで味わえるとは贅沢だ。ところで長門芳郎氏の回想録「パイドパイパー・デイズ:私的音楽回想録1972-1989」によると、彼がマネージャーを務めていたデビュー前のシュガー・ベイブによる東京での初ライヴで、大貫妙子がキャロル・キングの“Up On The Roof”を歌ったとき、彼は〈シティもこんなふうだったのだろうな〉と思いながら聴いていたという。新しい何かが始まろうとする予感、彼はその気配を嗅ぎ取っていたのではないか。本作にも同じような空気が流れている。まだ誰も知らない未来へと扉が開きかけている瞬間のきらめきが、〈夢語り〉には色鮮やかに刻み込まれているのだ。

左から、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの68年作『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』(A&M)、ブラッド・スウェット&ティアーズの70年作『Blood, Sweat & Tears 3』(Columbia)