観れば解る称賛ライヴ盤、聴けば判る航跡ベスト盤!
~ところでアノ、ぽちゃカワ猫の名は御存じだろうか~

 コニー・アイランドの一角に置かれた狭いブースでは黒いアセテート盤に想い出が刻めたという。ある日、3歳になる女児が父親と母親を伴い、ぎゅうぎゅう詰め状態で名前と住所の自己紹介を終えると《キラキラ星》を披露した。のちのキャロル・キングの、可愛い初吹き込み体験だった。最初の夫(にして生涯の同志)と共作し、黒人三人娘のクッキーズが歌った《チェインズ》はビートルズがカヴァーして英国盤『プリーズ・プリーズ・ミー』の4曲目を飾った。「英国の(ジェリー・)ゴフィン&キングになりたい」がレノン=マッカートニーの憧憬だったという。最高の讃辞じゃないか!

 1971年春に発表されて全米1位を獲得以来15週間連続で首位に座り続け、のち303週(約6年)の長きに亘ってランクインしていたLP『つづれおり』。20世紀史上最も成功したアルバムの1枚に数えられ、ロック期の“神髄”と称賛される傑作盤のジャケット上で主役の歌姫を差し置いて鎮座している太っちょ猫の名前は「テレマコス」。ギリシア神話の登場者オデッセイ&ペネロペの息子名で、猫の名付け親は前夫のゴフィン。いずれにせよ、彼(たぶん)ほど世界中の音楽好きたちの自室(窓辺や書棚や壁に)飾られた肖像例もないだろう。ニャンとも良い表情じゃないか!

VARIOUS ARTISTS キャロル・キング・トリビュート~ミュージケアーズ Sony Music Japan International(SMJI)(2016)

 待望のDVD&Blu-ray『キャロル・キング・トリビュート~ミュージケアーズ』は2014年度のMusiCares Person Of The Year選出記念で同年1月24日にLAで開催された豪華ライヴの記録だ。ラストの全員合唱まで22曲分を収録。鑑賞後の個人的BEST3の歌手名と曲名を掲げる紙幅もないが、誰もが甲乙つけがたいので全組首位タイとしたいほど充実の約100分間。面白いのは賞の贈呈者がキャロルの功績を讃えつつ持参の所蔵LP『つづれおり』にサインをもらう場面、もちろんテレマコスの晴れ姿も映し出される。この不朽作がいかに地球の隅々まで流れ渡り、路地で生きる各国の若者たちに愛聴されたかを明かす逸話が『キャロル・キング自伝 ナチュラル・ウーマン』に出てくる。ある時、プノンペン育ちの女性がキャロル本人に「ポル・ポトが大虐殺を犯していたアノ時代、私たちが正気でいられたのは貴方の音楽のおかげです…」と謝意を告げたという。あのデブ猫はもしや守護神なのかも!

 そんな歌姫の半生を描いたヒット・ミュージカル『Beautiful』の相乗企画盤『ビューティフル・コレクション~ベスト・オブ・キャロル・キング』は日本盤のみ5曲の厳選追加で初心者にも彼女の視野の広さが具に伝わる一枚だ(で、にゃんキュッパよりも安い!)。

CAROLE KING ビューティフル・コレクション~ベスト・オブ・キャロル・キング Epic(2016)

ジェイムズ・テイラーとキャロル・キングによる“You've Got A Friend