死にゆく光に怒れ
こうしてアンタイへの移籍が決まったDCFCは、前作に続いてジョン・コングルトンをプロデューサーに迎えた最新作『I Built You A Tower』の制作を始めることになるが、その一方でベンは長年連れ添った妻との離婚という、プライヴェートでの窮地に立たされていた。アルバムの中盤とラストにふたつの異なるヴァージョンが収録されたタイトル曲は、そんなベンの心境を反映したものだ。
「ちょっとユーモアのあるヴァージョンと、よりアグレッシヴで〈君なしで生きる方法を学んでいる〉という歌詞がある種の諦念を感じさせるヴァージョンを作りたかったんだ。だから最初のヴァージョンは、遊び心があってポップな感じだし、音楽的にも歌詞的にもそれほど重く感じられない。でも、よりラウドなアレンジを施すことで、歌詞の重みを強く感じさせられるんだ」。
その言葉の通りに、“Punching The Flowers”や“How Heavenly A State”といった曲では、これまでにないヘヴィーなサウンドを聴くことができる。
「2023年にツアーをスタートさせたとき、ワシントンDCにあるディスコードのオフィスに、ニック(・ハーマー、ベース)と僕が行くことになったんだ。そこで(レーベルのオーナーでもある)フガジのイアン・マッケイが僕たちを案内してくれて、演奏を聴かせてくれたり、あちこち見せてくれたりしてさ。彼と時間を過ごしたあと、フガジへの愛が再熱したんだ。不思議と、年を取るほど作りたい音楽はどんどん大音量になっていくんだよね。静かで柔らかい音楽なんて、本当は作りたくない(笑)。むしろ、音楽的に言えば、〈死にゆく光に怒れ〉(ディラン・トマスの詩の一節)みたいな感覚でいたいんだ」。
一方で、アルバムのリード・シングルとして発表された“Riptides”には〈国境警備隊〉や〈戦争〉〈銃〉といったフレーズも登場し、一面的な〈別れのアルバム〉ではない印象を与える。
「離婚のような個人的な困難や、あるいはもっと深刻なトラウマに直面しているときは、世界が軸から外れて回っているかのように感じられるし、それにのめり込んでしまうんだよね。世界の状況や、それがどれほど腐敗しているかについて鋭く意識しているはずなのに、自分自身の生活があまりにも滅茶苦茶だから、広い世界に対して共感を注ぐ余裕がなくなる。だから僕にとって、あの曲はパズルの重要なピースなんだ。ここ数年の世界で起きていることから何かひとつトピックを選んで、それにちゃんと向き合いたかったんだよ」。
そして、たとえ完全に自伝的な曲だったとしても、テーマや表現方法が普遍的なら、他人の人生にも当てはまるはずだとベンは語る。
「このアルバムのテーマになっている〈喪失〉や〈悲しみの区切り〉というのは、誰もが経験することだよね。それならば、僕が自分の人生における特定の時期について書いたものでも、他の人が共感できるものになりうるんじゃないかな」。
個人としても、バンドとしても、新たなステージを迎えたベン。最後に、来日公演への意気込みを語ってくれた。
「日本は、僕の最初の記憶が形成された場所なんだよね。横須賀の、日本風の家で過ごしたあの頃。だから日本には親しみや安心感を抱いているし、滞在するのが本当に好きなんだ。来日公演を心から楽しみにしているよ」。 *清水祐也
デス・キャブ・フォー・キューティーのメンバーが参加した作品を一部紹介。
上から、ポスタル・サーヴィスの2003年作『Give Up』(Sub Pop)、トロ・イ・モワの2024年作『Hole Erth』(Dead Oceans)、スリーター・キニーの2024年作『Little Rope』(Loma Vista)、ブラック・キーズの2025年作『No Rain, No Flowers』(Easy Eye Sound/Warner)
ジョン・コングルトンがプロデュースした近年の作品を一部紹介。
上から、コートニー・バーネットの2026年作『Creature Of Habit』(Mom+Pop)、グッド・キッドの2026年作『Can We Hang Out Sometime?』(Good People)、モグワイの2025年作『The Bad Fire』(Rock Action)
