天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も訃報をお知らせしなければいけません。LAビート・シーンの先駆者たる存在、ラス・Gが7月29日に亡くなりました……」

田中亮太「盟友フライング・ロータスが、追悼の意を込めてラス・Gとのコラボ曲“Black Heaven”を公開しましたね。フライローのSoundCloudで聴けるので、ぜひ聴いてみてください」

天野「あと、先週末に米シカゴでフェス〈ロラパルーザ〉が開催されました。YouTubeでも配信されていましたね。亮太さんは観ました?」

田中「はい。デス・キャブ・フォー・キューティーのライヴにチャンス・ザ・ラッパーが参加して、先週紹介したチャノの楽曲“Do You Remember”をバンドで演奏していました! シカゴならではの共演にオーディエンスも大盛り上がりでしたね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. HAIM “Summer Girl”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉は3姉妹バンド、ハイムの“Summer Girl”! 2017年の2作目『Something To Tell You』以来、約2年ぶりの新曲ですね」

天野「ポップ・アイコンとしての存在感がずっとあるので、ひさしぶり感は薄いな~。先週取り上げたクライロのアルバム『Immunity』でもメンバーのダニエルがドラムを叩いていましたし。あと、彼女は昨年の〈フジロック〉で、ヴァンパイア・ウィークエンドのライヴにサプライズで参加して会場を沸かせていたそうですね」

田中「ポップ寄りの話題だと、今年の1月に公開された、女優のエマ・ストーンとスパイス・ガールズの“Stop”に合わせてダンスをしながらチャリティー・オークション企画〈Omaze〉の宣伝をする動画も最高でした。と、前置きが長くなってしまいましたが、“Summer Girl”、めちゃくちゃ良い曲じゃないですか?」

天野「ですね。みんなが指摘していますけど、2本のベースやサビのスキャット、ジャジーなサックスなどなどは、明らかにルー・リードの名曲“Walk On The Wild Side(ワイルド・サイドを歩け)”(72年)を下敷きにしています。あと、この曲が作られたエピソードがすごくいいんです。前作の制作後にダニエルのパートナーであり、バンドにも貢献してきたアリエル・リヒトシェイドが精巣がんで闘病していたそうなんです。彼女はツアーがあったため彼のそばにはいられなかったんですけど、〈それでもテレパシーで力を送りたい〉という思いを曲にしたんだとか。それをふまえて〈私はあなたのサマー・ガール〉っていう歌を聴くと、グッときちゃいますよね。ポール・トーマス・アンダーソン監督のビデオもいいし、2コードのシンプルさも最っ高!」

 

2. Rapsody feat. D'Angelo & GZA “Ibtihaj”

天野「2位はラプソディの“Ibtihaj”。亮太さんは、この曲を聴くまでラプソディのことを知らなかったとか。もっとラップやR&Bを勉強してください!」

田中「すみません(笑)。でも、この連載を始めてからいろいろ聴くようになりましたよ! 米ノースカロライナ出身のラプソディは、同郷のプロデューサー・9thワンダーとの出会いをきっかけに頭角を現したとか。名前に〈Rap〉って入っているのがいいですね」

天野ケンドリック・ラマーの傑作『To Pimp A Butterfly』(2015年)にも参加しています。そんな彼女は2017年のセカンド・アルバム『Laila's Wisdom』で高い評価を受けました。流行の音からは離れたソウルフルなサウンドが持ち味で、それはこの曲からも感じられますよね。なんといってもこの曲は、GZA(ウータン・クラン)の超有名曲“Liquid Swords”(95年)のオマージュになっていて……」

田中「“Liquid Swords”の印象的なコーラスをサンプリングして、ヴァースのネタも同じ。それでGZAが参加しているんですね。なによりディアンジェロが歌っているのもすごい。ちなみに、曲名はイブティハージ・ムハンマドというムスリマのフェンシング選手に捧げられていて、そのあたりは渡辺志保さんが詳しく解説しています。ビデオの最後で掲げられる〈スーダン革命〉の文字は、市民革命の象徴となった女子大生のアラ・サッラーへのシャウトアウトでしょうか」

 

3. Angel Olsen “All Mirrors”

田中「今週の3位はエンジェル・オルセンの“All Mirrors”。彼女はUSインディーの人気シンガー・ソングライターですね。以前、上野功平さんに書いていただいたコラムでも言及されていたように、アルバムごとに音楽性を大きく変えてきた才媛でもあります」

天野「この曲での変化は、いままででもっともドラスティックなものなんじゃないですか? ドラマティックなストリングスとエレクトロニックなビートは荘厳で、どこかニューエイジっぽい雰囲気もあります。個人的にはまだこの曲にピンときてないんですが」

田中「ピーター・ガブリエルの『So』(86年)とかを思わせる、80年代っぽい仰々しさを持ったポップになっていますよね(笑)。確かにもはやインディー・フォークやオルタナ・カントリーといった出自の面影はまったくないかも」

天野「この曲を収録する彼女の新作『All Mirrors』は10月4日(金)にリリース。もともと弾き語りのソロ・ヴァージョンとバンドの演奏を加えたものを同時リリースする予定だったみたいなんですが、聴き比べてみて後者のみを発表することにしたとか。弾き語り版も出してほしい……。なおプロデューサーは、売れっ子のジョン・コングルトン。さらに14人編成のオーケストラが参加しているとのことで、どんな作品になっているのか想像できませんね」

 

4. Idles “I Dream Guillotine”

天野「4位は、日本でも人気に火が点き始めた英ブリストルの怒れるパンク・バンド、アイドルズの“I Dream Guillotine”。すごい曲名だなって思いました」

田中「直訳すると〈私はギロチンを夢見る〉! とんでもなく勢いのある演奏で4分間を駆け抜ける一曲ですが、やっぱり歌詞に注目ですね。〈おまえたちの子どもたちを抑圧のなかに放り込め/貧しき者どもを支配下に置いてしまえ〉……。工場の生産ライン(factory line)と生活保護の支給を求める列(welfare line)をかけているところなんかも秀逸で、まさにワーキング・クラスの歌です」

天野「ファット・ホワイト・ファミリーは彼らのことを〈みずから去勢した中産階級のおっぱい野郎ども〉なんて呼んで、超ひどいことを言ってましたけど(笑)。ともあれ、英国はもう10年近く労働者に優しくない保守党政権ですからね。しかも、問題だらけのボリス・ジョンソンが首相に就いたばかりで……。そんな英国のムードがアイドルズのパンクからは伝わってきます」

田中ビデオが公開された“Mercedes Marxist”も強烈な曲ですね。曲名を意訳するなら〈ベンツに乗ったエセマルクス主義者〉ってところでしょうか。昨年の『Joy As An Act Of Resistance』に続く新作が超楽しみ!」

 

5. Ariana Grande & Social House “boyfriend”

天野「さて、今週最後の一曲になりました。5位はアリアナ・グランデとソーシャル・ハウスの“boyfriend”。曲調からして大ヒット・ソング“thank you, next”(2018年)の二番煎じ感がすごい(笑)!」

田中「ノスタルジックなR&B~ヒップホップ・サウンドも共通しているし、〈boyfriend〉って節回しも“thank you, next”の〈thank you〉にそっくり。これ、間違いなくわざとでしょ(笑)。それで、共演のソーシャル・ハウスっていうのは誰なんですか?」

天野「“thank you, next”や“7 rings”といったアリの最近のヒット曲を手掛けているプロデューサーで、マイケル・フォスターとチャールズ・アンダーソンの2人組です。去年、アリはコメディ俳優のピート・デヴィッドソンと破局していて、マイキーことマイケルは新しい恋人だと噂されているようですよ。ユニバーサル・ミュージックからのプレス・リリースにもそう書いてありました(笑)。歌詞もなんだか思わせぶりな内容です」

田中「なるほど(笑)。この曲は8月9日(金)にリリースされるソーシャル・ハウスのデビューEP『Everything Changed』に収録されるので、アリアナの新曲っていうよりもソーシャル・ハウスの新曲って感じなんでしょうね」