インドネシアからビッグ・クラウンを経由して吹いてきた、スウィートでサイケでエキゾな懐かしくも新しい風! よりボーダレスになった待望の2作目はどんな情緒を伝える?
NYブルックリンを拠点に世界各国のヴィンテージなソウルやファンクを送り出しているリオン・マイケルズ主宰のビッグ・クラウンから2024年に『Perak』でアルバム・デビューを果たしたマーローズ。インドネシア第2の都市として知られるスラバヤ出身の3人組で、メンバーは聖歌隊出身でヴォーカル/キーボードを担当するナタッシャ・シアントゥリ、ドラムスのトミー・サトウィック、ギターなど複数の楽器を操り、プロデュースやエンジニアリングも行うシナティリヤ・ダッラカから成る。母国の村にちなんだグループ名には、ハート・トーンズやセイクリッド・ソウルズらと同じくミッドナイターズ(Thee Midniters)への憧れから〈Thee〉を冠し、チカーノ・ソウルのようなメロウでスウィートな曲を披露。が、マーローズはチカーノではなく、英語とインドネシア語を使い分けたリリックでエキゾティックなムードも漂わせながらラウンジ感のある洒脱な曲を奏でている。そんな彼らの2年ぶりとなるアルバム『Di Hotel Malibu』が到着した。
その新作に“6 Years”という曲がある通り、グループの結成は6年前の2020年。同年に自主レーベルから“Nanti”、2021年に“Love Potion”といったシングルを出し、その後、憧れのビッグ・クラウンと契約を結んだ。2023年に7インチで発表した“Midnight Hotline”のほか、“I Know”“Not Today”といった人気曲を収録した初作『Perak』は、タイトルに地元スラバヤにある貿易港の名前を用いているように、インドネシアから世界へ飛び立つ彼らのボーダレスな感覚が滲む作品だった。
実際に影響を受けた音楽も、母国のレジェンドを含む新旧のソウルをはじめ、ラテン、ジャズ、ヨット・ロック、さらには山下達郎のようなジャパニーズ・ポップスまでと幅広い。マッドリブやエイドリアン・ヤングにも憧れる彼らの音楽はヒップホップを経由したヴィンテージでサイケデリックな現行ソウルのビート感もあり、リオン・マイケルズが手掛けたノラ・ジョーンズに近い雰囲気も漂わせるが、メロディーやブリッジ、コーラスにはアジア的とも言える繊細さや切なさを感じさせる。
新作『Di Hotel Malibu』ではそんな前作の美点を踏襲しながら、ノスタルジックでシネマティックな曲を展開。プレスリリースによれば〈社会的な現実、揺れ動く恋愛関係、成功によってもたらされた変化〉を描いたという。遠距離恋愛における苦さと甘さを歌ったという冒頭の“Under The Silver Moon”からナタッシャの甘く優しいヴォーカルが映えるクラッシーなソウルが登場し、アルバムはこのムードを基調として進んでいく。トロピカルなムードの“Through The Changes”など、前作以上にメロディアスでスムースな曲が増えた印象も受ける。エレキ・シタールが悩ましく響くスロウ“What’s On Your Mind”、ギロやグロッケンシュピールを鳴らしながらラテンのリズムで進行する“The More”では、グループ名に〈Thee〉を冠した彼ららしいチカーノ・ソウル的な趣味も顕になる。
ソングライティングはメンバー3人を中心に行われているが、共作者としてビッグ・クラウンの共同設立者であるダニー・アカレプスが名を連ねた曲もある。先に挙げたチカーノ・ソウル風情の曲に加えて、爽やかで軽快な“I’d Be Lost”、ドラムやパーカッションと共に疾走するグルーヴィーな“I’m Just A Girl”、タイトなドラム・ビートにヴィブラフォンの音色を絡めた“Crazy Eyes”などには、以前ダニーがマネージャーとして関わっていたトゥルース&ソウル一派のファンクネスも感じられる。
表題曲など、今作でもインドネシア語で歌われた曲が複数あり、希望と不安をテーマにしたという“Harap Dan Ragu”での70年代ジャパニーズ・ポップスに通じるノスタルジックなメロディーと仄かに漂うエキゾ感には、彼らが東南アジアのグループであることを改めて実感させられる。幻想的なムードを漂わせたラストの“Rahasia”まで、流れる空気はひたすら穏やか。そんなアルバムを提げて9月に行われる2年ぶりのジャパン・ツアーも大盛況になりそうだ。 *林 剛
左から、マーローズの2024年作『Perak』、ハート・トーンズの2024年作『Forever & Ever』(共にBig Crown)、セイクリッド・ソウルズの2024年作『Got A Story To Tell』(Penrose/Daptone)
