世界のさまざまなピアノの響きを堪能する2日間

 2013年にスタートしたザ・ピアノエラは、ピアノ音楽にフォーカスして国内外の選りすぐりのアーティストが出演する、世界でも類を見ないフェスティバルだ。2024年は、11月23日(土)、24日(日)の両日に開催される。今回はこれまで以上に幅広く、興味深いラインナップとなった。まずは、初来日のアーティスト3組から紹介したい。

バルモレイ

 マルチ奏者のマイケル・A・ミュラーとピアニストのロブ・ロウによるバルモレイは、契約を交わしたDeutsche Grammophonが〈アンビエント・アメリカーナとコンテンポラリー・クラシックの見事な融合〉と説明するように、二人が生まれ育ったアメリカ、テキサス州の豊かな自然と複合的な音楽文化を背景に持つ。室内楽とフィールド・レコーディング、カントリーやフォークとアンビエントやドローンが混じり合う自然主義的な音楽を作り出してきたが、ピアノが常に中心にあり、友人であるニルス・フラームの音楽とも通じ合う世界だ。

ハナキフ

 エストニア出身でロンドンを拠点に活動するハナキフは、UKジャズ・シーンを代表するGondwana Recordsからデビューした。エストニアの伝統音楽や同郷のアルヴォ・ペルトのミニマリズムからの影響も伺えるピアニストであり、エレクトロニクスを使ったモダンなアプローチを試みるサウンドアーティストでもある。モダン・クラシカル、エレクトロニカ、アンビエント・ジャズなど幅広いリスナーを魅了するサウンドを創出している。

ビュシュラ・カイクチャ

 ビュシュラ・カイクチャは、トルコ、イスタンブール出身のピアニストで、ジョン・ケージやマイケル・ナイマンからインスパイアされたミニマルなピアノソロ集『Eskizler』(トルコ語で〈スケッチ〉)を自主リリースした。大学で建築と環境デザインを学んだ彼女は、Warner Classicsからのデビュー作『Places』では、音響構築やデザインへの独特のアプローチを深めた空間を作り上げた。

カルロス・アギーレ

 過去に来日ツアーもおこない、日本でもファンの多いアルゼンチンのカルロス・アギーレは、ザ・ピアノエラに初登場となる。アギーレのソロ・ピアノといえば、『Caminos』がいまも評価が高いが、グループでの演奏とはまた違う唯一無二の世界を初めて生で聴ける貴重な機会となりそうだ。

江﨑文武
原摩利彦
坂本美雨

 日本からは、江﨑文武と原摩利彦が登場する。WONKをはじめ、メジャーのフィールドでさまざま活動をしてきた江﨑は、即興演奏のソロ・ピアノ作『touten I』をリリースしている。くぐもったミュート・ピアノはエマフォイ・ツェゲ・マリアム・ゲブルを思わせる響きだった。室内楽やエレクトロニクスを用いた音響作品も手掛けきた原の表現の核にはピアノがある。ソロ作『Passion』を聴くと、ピアノ演奏の延長にさまざまな音が構築されていることがよく分かるが、今回は坂本美雨をフィーチャーした特別な演奏になる。

 表現スタイルもコンテキストも出自も異なる出演者たちが、ピアノという共通の楽器を使って表現する場には、個々の演奏にフォーカスするだけなく、その違いを楽しみ、期せずして共鳴するものを感じる瞬間もある。それは他では体験できない特別な2日間である。

 


LIVE INFORMATION
ザ・ピアノエラ2024

2024年11月23月(土・祝)めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:15:45/16:30
出演:バルモレイ/ハナキフ/原 摩利彦 feat. 坂本美雨

2024年11月24月(日)めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:15:45/16:30
出演:カルロス・アギーレ/ビュシュラ・カイクチャ/江﨑文武

*チケット一般発売 2024年8月31日(土)
http://www.thepianoera.com/