©Iisa Hirvonen

苗場と相思相愛のロックンロール・バンド、その眼差しの先には?

GREEN STAGEで見つけたもの

 「ライヴでのバンドの音をそのまま再現できたアルバムになったと思う」――セカンド・アルバム『Everybody’s Giving Up The Cabaret』についての手応えを尋ねると、バンドのフロントマン、テオ・ヒルヴォネンは満足げな表情でそう答えてくれた。

US 『Everybody’s Giving Up The Cabaret』 ソニー(2026)

 フィンランド出身のロックンロール・バンド、アス。ツアーを重ねるなかでライヴ・バンドとしての力を育んできた彼らが、リバティーンズのホーム・スタジオであるアルビオン・ルームズでレコーディングしたファースト・アルバム『Underground Renaissance』を世に放ったのは2024年のこと。その荒削りでパワフルなサウンドと、相反するような美しいメロディー・センスは瞬く間に注目を集め、各地のロック・フェスに引っ張りだことなった。それから2年、オリジナル・メンバーであるベーシスト、ラスムス・ルオナコスキの脱退というバンドとして大きな転機を迎えながらも、ウォーガズムやアルト・ジェイ、リアム・ギャラガーなど名だたるアーティストとの仕事で知られる敏腕プロデューサー、チャーリー・ラッセルを制作に迎えて完成したニュー・アルバムは、真骨頂であるライヴの勢いや熱量を余すところなく伝える力作となった。

 「実は、制作当初はまったく違うアルバムをフィンランドで作っていたんだ。でも新しい曲に取り掛かっているうちに、その曲こそが進みたい方向だと感じて、全部録り直すことにした。それでロンドンに行き、チャーリー・ラッセルと一緒に録ったんだよ」(テオ:以下同)。

 もともとはもっと〈メロドラマティック〉な雰囲気のアルバムをめざしていたという彼ら(その痕跡は、“On The Waterfront”や“It Is Gone”といった楽曲に感じ取ることができる)だったが、昨年の〈フジロック〉で、メイン・ステージの〈GREEN STAGE〉に立ったことで、ターニング・ポイントが訪れる。

 「『Everybody’s Giving Up The Cabaret』の“Sunday After”を〈フジロック〉で初めて演奏したんだけど、そのときに気付いたんだ。〈これが自分たちのやりたいことだ〉ってね」。

 そうして完成した『Everybody’s Giving Up The Cabaret』は、確かにロックンロール・バンドの真髄である衝動性や爆発的なエネルギー、そしてダイナミックなパッションを存分に感じさせるものになった。オープニング・トラックの“Yo-Yo Revolution”を聴きはじめた瞬間から、あなたの脳裏には熱狂渦巻くステージで汗だくになりながら爆音を掻き鳴らすバンドの姿が浮かぶはずだ。だが、このアルバムに宿っているものはそれだけではない。先行シングルとしてリリースされた“Man Ray”や、一編の映画を観ているようなドラマを感じさせる“Dying Flowers”、ギターのアルペジオやブルースハープの音色が繊細な詩情を描き出す“On The Waterfront”のような楽曲には、彼らがロックンロール・バンドとしての矜持をキープしながら、アーティストとして一皮剥けようと挑戦した軌跡が刻まれている。

 「ライヴのエネルギーを持ちながらも、同時に、より芸術的な表現として残るものを作りたかった。その2つを同時に追いかけていたんだ。だからこそバンドでたくさんのアルバムを一緒に聴いたし、毎晩スタジオでの作業の後には映画を観たよ」。

 ルイス・ブニュエルの映画「この庭に死す(英題:Death In The Garden)」から着想を得たという“Murder In The Garden”などはそうした取り組みから生まれた楽曲だといえる。そんなアートからのインスピレーションと、現実の世界で彼らが目にした人々の姿とを掛け合わせて、このアルバムは出来上がった。そんな作品を貫くテーマとして、バンドは〈崩壊〉〈コミュニティ〉〈変化〉という言葉を掲げている。

 「たとえば“Dying Flowers”は、いまヘルシンキで見えるものからすごく影響を受けている。僕の目には、あまりいい状態ではない人が多いように映るんだ。残念ながらね」。