苗場と相思相愛のロックンロール・バンド、その眼差しの先には?
GREEN STAGEで見つけたもの
「ライヴでのバンドの音をそのまま再現できたアルバムになったと思う」――セカンド・アルバム『Everybody’s Giving Up The Cabaret』についての手応えを尋ねると、バンドのフロントマン、テオ・ヒルヴォネンは満足げな表情でそう答えてくれた。
フィンランド出身のロックンロール・バンド、アス。ツアーを重ねるなかでライヴ・バンドとしての力を育んできた彼らが、リバティーンズのホーム・スタジオであるアルビオン・ルームズでレコーディングしたファースト・アルバム『Underground Renaissance』を世に放ったのは2024年のこと。その荒削りでパワフルなサウンドと、相反するような美しいメロディー・センスは瞬く間に注目を集め、各地のロック・フェスに引っ張りだことなった。それから2年、オリジナル・メンバーであるベーシスト、ラスムス・ルオナコスキの脱退というバンドとして大きな転機を迎えながらも、ウォーガズムやアルト・ジェイ、リアム・ギャラガーなど名だたるアーティストとの仕事で知られる敏腕プロデューサー、チャーリー・ラッセルを制作に迎えて完成したニュー・アルバムは、真骨頂であるライヴの勢いや熱量を余すところなく伝える力作となった。
「実は、制作当初はまったく違うアルバムをフィンランドで作っていたんだ。でも新しい曲に取り掛かっているうちに、その曲こそが進みたい方向だと感じて、全部録り直すことにした。それでロンドンに行き、チャーリー・ラッセルと一緒に録ったんだよ」(テオ:以下同)。
もともとはもっと〈メロドラマティック〉な雰囲気のアルバムをめざしていたという彼ら(その痕跡は、“On The Waterfront”や“It Is Gone”といった楽曲に感じ取ることができる)だったが、昨年の〈フジロック〉で、メイン・ステージの〈GREEN STAGE〉に立ったことで、ターニング・ポイントが訪れる。
「『Everybody’s Giving Up The Cabaret』の“Sunday After”を〈フジロック〉で初めて演奏したんだけど、そのときに気付いたんだ。〈これが自分たちのやりたいことだ〉ってね」。
そうして完成した『Everybody’s Giving Up The Cabaret』は、確かにロックンロール・バンドの真髄である衝動性や爆発的なエネルギー、そしてダイナミックなパッションを存分に感じさせるものになった。オープニング・トラックの“Yo-Yo Revolution”を聴きはじめた瞬間から、あなたの脳裏には熱狂渦巻くステージで汗だくになりながら爆音を掻き鳴らすバンドの姿が浮かぶはずだ。だが、このアルバムに宿っているものはそれだけではない。先行シングルとしてリリースされた“Man Ray”や、一編の映画を観ているようなドラマを感じさせる“Dying Flowers”、ギターのアルペジオやブルースハープの音色が繊細な詩情を描き出す“On The Waterfront”のような楽曲には、彼らがロックンロール・バンドとしての矜持をキープしながら、アーティストとして一皮剥けようと挑戦した軌跡が刻まれている。
「ライヴのエネルギーを持ちながらも、同時に、より芸術的な表現として残るものを作りたかった。その2つを同時に追いかけていたんだ。だからこそバンドでたくさんのアルバムを一緒に聴いたし、毎晩スタジオでの作業の後には映画を観たよ」。
ルイス・ブニュエルの映画「この庭に死す(英題:Death In The Garden)」から着想を得たという“Murder In The Garden”などはそうした取り組みから生まれた楽曲だといえる。そんなアートからのインスピレーションと、現実の世界で彼らが目にした人々の姿とを掛け合わせて、このアルバムは出来上がった。そんな作品を貫くテーマとして、バンドは〈崩壊〉〈コミュニティ〉〈変化〉という言葉を掲げている。
「たとえば“Dying Flowers”は、いまヘルシンキで見えるものからすごく影響を受けている。僕の目には、あまりいい状態ではない人が多いように映るんだ。残念ながらね」。
享楽的で猥雑なキャバレー
何かが変わり、壊れていく様子と、そのなかで失われていくものに本作のアスは眼差しを向けている。アルバム・タイトルの『Everybody’s Giving Up The Cabaret』にもまた、そうした視点が反映されていると、テオは話す。
「このタイトルは、多くのことを要約している言葉だと思う。いまは信念を手放していってしまう人、人生の明るい部分を諦めてしまう人がたくさんいて、みんながどんどん深刻になっていくような感覚があり、それをこのタイトルに込めているんだ。同時に、このアルバム・タイトルは70年代のフィンランドで活動していた〈ロックンロール・バンド〉という名前のバンドを意識したものでもあって……。彼らが1枚だけ残したアルバムが『Everybody Needs Dance Music Sometimes』というタイトルなんだよ。そこへのオマージュでもある」
このタイトルにある〈キャバレー〉とは、テオいわくの〈明るい部分〉を象徴するコミュニティーであり、享楽的かつ猥雑で、まさにロックンロールの原風景ともいえる場所。実際、アスはそういう場で育ってきたバンドなのだ。
「〈キャバレー的なもの〉という感覚は自分たちの表現にずっとある。フィンランドでは毎年秋に遊園地でカーニバルがあるんだけど、結成当初の僕らはそこで1日7ステージとか、ものすごいペースで演奏していたんだよね(笑)。カーニバルや遊園地のすべてがキャバレー的/サーカス的な雰囲気に満ちていて、そのイメージがずっと残っているんだと思う。それが僕たちの出発点なんじゃないかな」。
そんな彼らだからこそ、日本が生んだ最高のロックンロール・バンドにも強烈なシンパシーを感じたのかもしれない。それは、アスがファンであると公言し、今作では楽曲“Baby, please go home”をカヴァーしている、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTだ。
「〈ミッシェル〉は僕らにとってものすごく大きな存在。しかも彼らを知る前から、僕らはずっと影響を受けていたんだよ」。
2000年代初頭のフィンランドで〈ストリート・ロック〉と括られていたバンドたちから、TMGEは愛されていた。そうしたストリート・ロック勢に憧れてバンドを始めたアスも、無意識に遺伝子を受け継いだのだろう。
「だから初めてTMGEを聴いたとき、すごく聴き覚えがあると感じたんだ」。
アスの“Baby, Please Go Home”を聴けば、その言葉にも納得だ。彼らはオリジナルの熱量や大胆さを完全に自分たちのモノにして、まるで自身の楽曲のように乗りこなしている。
〈TMGEの遺伝子〉を受け継ぐバンドだからこそ、日本のロック・ファンは放っておかなかった。デビュー前の2023年に〈フジロック〉を主催するスマッシュの創業者・日高正博氏に才能を見い出されたアスは、2024年、2025年と2年連続で〈フジロック〉に出演。初年度の2024年には、なんと前夜祭を含む4日間で6つのステージを踏んでいる。それこそ、結成当初の彼らが遊園地で怒涛のショーをこなしていたように。そして2026年の〈フジロック〉にも、彼らは戻ってくる。
「日本でのライヴも〈フジロック〉も経験として本当に信じられないものだったし、オーディエンスの反応もすごく嬉しいものだった。今年は〈RED MARQUEE〉に出るんだけど、あのステージも大好き。フォンテインズDCを観たんだけど、本当によかったな。自分たちがやってきたなかで最高のライヴになることを約束するよ!」。
アスの作品を紹介。
左から、2024年作『Underground Renaissance』(Us/ソニー)、ライヴ盤『We're Us! Live In Japan 2024』(ソニー)
“Baby, please go home”のオリジナルを収録したTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのベスト盤『TMGE106』(TRIAD)
チャーリー・ラッセルが制作に参加した作品を一部紹介。
左から、キャストの2026年作『Yeah Yeah Yeah』(Scruff Of The Neck)、ウォーガズムの2023年作『Venom』(Slowplay/Republic)、ヴューの2023年作『Exorcism Of Youth』(Cooking Vinyl)
アス好きなら必見な今年の〈フジロック〉をロックしそうな6組!
2年ぶりに苗場に戻ってくるシカゴ発の4人組は、アスと同じく日曜日の〈RED MARQUEE〉に登場! ジョン・コングルトン特有のソリッドな音作りでヒリヒリとした感覚が引き出されたこの2作目を聴くかぎり、パンチ力を増したステージを期待できそうです。
金曜日の〈苗場食堂〉を、標榜する〈EASY PUNK〉で沸かしてくれるであろう千葉・松戸から飛び出した4人組。7月にアナログ盤化される本ファースト・アルバムは、抜群のメロディーとジョイなムードに溢れた傑作です。このまま来年の武道館公演まで駆け抜けてくれ!
ニュージーランドの4人組による4作目は、ジャングリーで弾けた魅力はそのままにアレンジや音作りが多彩に。ガレージ・ロック調の“No Joy”などでも効果的に重ねられたハーモニーの美しさは、土曜日の〈RED MARQUEE〉に爽やかな風を吹かせてくれるのでは。

土曜日の〈苗場食堂〉に出演する名古屋出身の4人組は、とりわけアスのファンに発見してほしいバンドかも。狂熱のアンサンブルとフロントウーマン・Linの泥臭いシャウトが放つ圧巻の魅力を、渋谷QUATTROでのライヴを収めたこの映像作品でチェックだ。
金曜の〈THE PALACE OF WONDER〉と翌日の〈WHITE STAGE〉に出演するハンガリー出身の6人組。キャバレー感や遊園地感たっぷりのジプシー・ロックンロールが導く猥雑な楽しさは、2021年作に未発表曲などを加えたこの日本企画盤にて存分に味わえます!
エレクトロ・ロックンロール期のプライマル・スクリームとTMGEの中間にマッピングできそうな3人組が、ようやく〈フジロック〉に初登場とはやや意外。THE SPELLBOUNDの中野雅之も参加したメジャー初作を聴いて、金曜日の〈RED MARQUEE〉に向かうべし!





