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Photo by Ayano Sudo

アイドル時代から一転して打ち出す〈悪ルアン〉のイメージ

――『あたしをつくらないで』というアルバムタイトルには、どういった意図があるんでしょうか?

菊地「これもルアンさんとやり取りする中で、何個か候補を出すうちに、自然とこれになったんです。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』みたいですけど、関係はありません。

〈つくらないで〉っていうのは、AIにおける〈生成〉というニュアンスもちょっとありますね。もう、ルックスも歌も全部AIっていう未来を期待してる人もいるし、それはディストピアだって人もいる訳じゃないですか。まあ、『あたしをつくらないで』は、それに対するひとつの態度っていうか。別に、アンチAIとかそういうはっきりした意味ではないですけどね。

あとは、自分を見つめる男性全員に対してファックって言ってるのと同じじゃないですか。〈何を勝手にお前の頭の中で私のことを作り上げてるの?〉っていう。程度の差はあれど、男性は皆そうだと思いますけど、そこらへんのマゾヒズムに着火するタイトルでもあります。

それで言うと、パブリックイメージの話もありますね。ファンは〈ルアンちゃんっていうのは、こういう人なんだ〉っていう虚像を作り上げてしまう訳で。多分〈ルアンちゃんはおとなしい子で、そんな強いことは言わなくて〉っていうのが、ルアンさんのイメージじゃないですか。さすがに、今どきそこまで牧歌的ではないかもしれないけど。ただ、プライベートなことまではわからないけど、ルアンさんは実際は、ヤンキーとまでは言わないけど……」

ルアン「(笑)」

菊地「かなり強気だし、さっきも言ったけど、思ったよりデカいし(笑)。だから、今回のリブートでは〈あんた〉とかも言うし、〈悪ルアン〉なんだ、ってことですね。

山口百恵の“ロックンロール・ウィドウ”とか、中森明菜の“少女A”で、それまでのファンは引いちゃったかっていえば、そんなことなくて、喜んだ訳ですよね。そのイメージは今回、ありますね」

――ヴィジュアルも強烈な変身ぶりですよね。チャイナドレスも髪型もすごく印象的ですね。

ルアン「ヘアメイクのChiaki Hinoさん、衣装のYUHEIさんは、電少のころからお世話になってる方々なので、そのお陰ですね。写真の須藤絢乃さんも、ずっと電少のアー写を撮ってくださった方で、須藤さんの作品に私がモデルとして参加したこともあって。やっぱり、ここぞという時にお願いしたい人たちなんです」

菊地「南アのアーティストでタイラっているじゃないですか? 丸顔で、ちょっと強気な感じで、ルアンさんに少しだけイメージが近いかなと思いますね。ヴィジュアル面では、ちょっと意識しました」

 

新音楽制作工房による攻めた歌詞

――今回、楽曲の作詞はすべて菊地さんが手掛けているのでしょうか。

菊地「作詞は新音楽制作工房の中の、ラッパーやシンガーソングライターによる作詞チームが書いてますね。メインライターがいて、皆でそれをちょっとずつ直すんだけど、誰がどういう風に書いてるかはレノン=マッカートニー方式で、秘密にしておこうと(笑)。

あと、ルアンさんは基本的に、汚い言葉を言わないんですよね。僕の世代だと、さっきも言いましたが山口百恵さんが“ロックンロール・ウィドウ”で、(それまでの作風から)急にキツい言葉遣いの歌を出すっていうのが、ある種の定番でした。

そういうのを踏まえて、ルアンさんはこのアルバムでは、結構キツめの言葉を言っていくんだぞっていうのを打ち出しています。“ROXY”なんかはロックっぽいイメージで、1曲目でまずカマそうって感じですね」

――ルアンさんは、そこに抵抗は感じませんでしたか?

ルアン「なかったですね。むしろ嬉しかったです。最初に歌詞が送られてきた時も〈結構攻めてる歌詞なんですけど、ルアンさん的に大丈夫ですか?〉と言っていただいて」

菊地「そういうワンクッションは毎回挟みます(笑)。〈プロデューサー〉っていうと、アイドルになりたい女の子たちを人形遊びみたいに〈こういう服を着て、こういう歌をやれ〉と上から命令するのが、一般的なイメージかもしれませんけど、僕はまったくそういうシュミないので。歌う方に喜んでもらいたいんです。なので、気持ちとしてはスタイリストに近い。ちょっとでも抵抗感があれば、直しますし。ありがたいことに、ルアンさんはすべてOKでしたけど」

ルアン「常に私がテンションの上がるものを出してくれたと思います。この曲(“ROXY”)は、今回のアルバムでもとくに好きですね」

――2曲目の“優雅な生活が最高の復讐である”は、ルアンさんがラップをやってますよね。ラップは聴かれるんですか?

ルアン「好きです。志人とかTOKONA-Xとか、最近だとラップスタアのSonsiとか、あとElle Teresaさんとか。実はかなり好きで、追ってるジャンルですね。これまではラップが入る音楽性じゃなかったけど、今回チャレンジできましたね」

――あと、プレスに〈ヴォーカロイド的〉という言葉がありますが、ルアンさんは世代的にボカロも通ってますか?

ルアン「ボカロも実はめっちゃ好きで。小学校くらいの時に幼馴染に聴かせてもらって一緒にハマって、ニコニコ動画とかをいつも観てましたね。歌い手の文化もそうですけど、ボカロは自分の中で大きいと思います。打ち込み系の曲を聴くようになったきっかけもボカロだし、かなり影響を受けてると思いますね」

――歌詞の内容的には、SNSを通じた他人からの評価という現代の若者らしいテーマですね。

菊地「さっき言った工房の作詞班は、平均年齢が50歳とかなんですよ。昔のアイドル歌謡だと、60近い先生が、17歳の子が歌う歌詞を頑張って書いてた訳じゃないですか。で、若者のスラングを真似して書くけど、やっぱり年寄りが書いてるってのがバレちゃったり。だから、僕らはそういうのは、嘘臭いからやめようと。若者の心情に共感するようなこととか、スラングを使うっていうのは。その点で言うと“優雅な~”は、かなりギリギリだけど今回収録したって感じですね」

――今回のアルバムでは〈生きづらい〉〈辛い〉といった歌は既に世に溢れてるからやらない、ともXで書かれていましたね。

菊地「〈救った〉〈救われたい〉という物語が、今のポップミュージックでは必須になってますよね。そういうのはやめようと。だから(救われたい人には)このアルバムがまったく響かない、何を言ってるのかわからないって言われる可能性は、リスクとしてありますね。それは市場に出してみないとわからないことですけど」