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〈悲しい歌〉ではなく〈辛い歌〉が多数派の時代に

――“さよならの秘密”は市井由理さんのカバーで、もともと菊地さんが作詞された曲(作曲はASA-CHANG)ですよね。今、この曲を取り上げた理由はなんでしょうか?

菊地「これは、ルアンさんが楽しい歌を歌うのもいいけど、悲しい歌も歌ってほしいなと思いまして。

今、悲しい歌っていうのがすごい減っちゃって、辛い歌が多いと思うんですよ。辛いのをなんとかしたいっていう。そうじゃなくて〈悲しい〉っていうところに留まってるような歌が、昔はいっぱいあったと思うんですよね。

この曲は恋人がイマジナリーフレンドで、本当は存在しなくて、そのイマジナリーフレンドとすら別れてしまうっていうような歌詞です。

市井さんは元東京パフォーマンスドールの人で、“DA.YO.NE”がヒットする前に作った、ASA-CHANGがプロデュースした『JOYHOLIC』は、彼女の一粒種というか、幻のアルバムみたいになっちゃったので、いつか歌ってくれる人がいたらカバーしてほしいな、と思ってたんです。それで、ルアンさんがソロをやるならちょうどいいかな、と」

――続いて“ムーンストーン”は、ファンタジー風の歌詞ですね。加藤和彦プロデュースの高岡早紀のアルバムみたいな、ヨーロピアンで、デカダンで、お姫様で……というような。そういう世界観を、ルアンさんは違和感なく歌える人だなと感じました。

ルアン「(そういう世界観も)お任せ下さいって感じで(笑)。レコーディング直前にできた、滑り込みで今回の作品に収録されることになった曲ですが、お気に入りの曲です」

――ちなみに、このギターソロは生演奏ですか?

菊地「AIですね。ポン出しじゃなくて、MIDIに変換して、更に加工してますけど。フルAIっていう曲は今回、ひとつもないですね。一回AIにアイディアを出させたりもするけど、それを何回も、自分たちが気に入るまでMIDIに戻して直して打ち込んで、ってものばかりですね。生演奏は基本的にないですけど。今後は多分、こういうやり方が主流になるんじゃないですかね」

 

AIボーカルをもとに歌い、最新ソフトで加工

――“花は必ず剪つて瓶裏に眺むべきもの”は、新音楽制作工房のメンバーでもある、加藤咲希さんことLilla Flickaのカバーですが、詞は同じだけどメロディーも譜割りも違う〈altcv〉(オルタナティブカバー)という形態ですね。

ルアン「この曲は、歌うのが難しかったですね。AIのボーカルをもとに歌ったんですが、クセがあって、(AIのまま)その通りに歌おうとすると、どうしても合わないんですよ。〈ルアンさんの歌いやすい方で大丈夫ですよ〉と言っていただいて、なんとかレコーディングしたんですけど」

――AIが作るボーカルのメロディラインって、ここで切るの?みたいな不思議なポイントがありますよね。AIの歌をなぞることに抵抗はありませんでしたか?

ルアン「それは特になくて、むしろ〈この(AIの)通りにやれば絶対大丈夫だ〉と思ってましたね」

菊地「アルバムを制作中に、Voviousというボーカル修正のためのAIサービスが出たんですよ。〈じゃあちょっと、ルアンさんのリブートで試してみよう〉ということになって。別に、僕はVoviousのモニターとかじゃないですよ(笑)。

音程を修正するものは今までもあったんですけど、Voviousは音価、音の長さ(デュレーション)も直せるんです。ルアンさんのウィスパーボイスだと、ブレスが小さいんで、全体的に音がちょっと短いんですね。それをこれでちょっと伸ばしてみたら、すごい歌唱力のある人みたいになって(笑)」

――ルアンさんは、Voviousで加工された自分の声を聴いてどうでしたか?

ルアン「〈えっ、うまっ〉みたいな(笑)。上手くなってるし、ありがたいというか、自分は抵抗はなかったですね」