タイヨンダイ・ブラクストン、新作『Splayed Werks』に漂う別格の充実感
11月に待望の来日
タイヨンダイ・ブラクストンのフル・アルバムとしては4年ぶりとなる新作『Splayed Werks』がポスト・クラシカルの代表的レーベルErased Tapesよりリリースされる。
バトルス時代から一貫して感じられたユーモアとポスト・ロック的な実験精神を土台に、現代クラシック音楽の素養を持ち込んだ、実験色の強いロック作品になるのだろう。そう予想していた人もいるかもしれない。しかし実際に耳にするのは、エイフェックス・ツインやオウテカからミカ・レヴィ、ローレル・ヘイローへと連なる、ビートを軸とした実験的エレクトロニック・ミュージックの系譜に位置付けるべき世界だ。黎明期のクラブ・ミュージックの衝動やIDMの実験精神に寄り添いながら、その先にまで踏み込んた感触があり、想像以上に野心的な内容となっている。
思い起こせば、前作『Telekinesis』は、87人編成によるギター、オーケストラ、合唱、エレクトロニクスを組み合わせた交響曲的作品だった。電子音楽と記譜された管弦楽の交わりがSF的な壮大なスケールで交錯し、緻密さと重層性を兼ね備えた大作であった。

今作『Splayed Werks』という名は、直訳すれば〈拡張された作品群(WerkはWorkの古風な綴り)〉と言う名の、エレクトロニック・ミュージックだ。その音像の変化を熱心なファンは必然として受け止めるだろうが、俯瞰して見るならば、交響曲の世界からIDM的電子音響の世界へと舵を切ったわけであり、その振れ幅は並の作家には真似のできない吹っ切れようだ。よりミニマルになり、よりダンス・ミュージックのフォーマットの中で作られており、ビートには強い快楽性が宿っている。もちろんタイヨンダイがそこで満足するはずもなく、その上での、異質性、実験性の探究がなされていく。
“UnFS”や“Piiano”、“Dia”といった先行シングルが発表された段階でその充実ぶりに驚かされたという声が、ネット上でも多く見受けられた。
“UnFS”は、本人曰く、「粗削りのサンプルで構成された歪んだダンス・トラックで、音のルービック・キューブ」のようなものだという。音数が多いベースシンセのフレーズは一体どこで切れ、どこから反復するのか、パッと聞いただけではわからず、迷宮に入り込んだような感触を与える。通常のダンス・ミュージックのループの尺ではないのに、ビートは直線的ではなく、細かく崩され、再構成される。異なるスケールの音が共存することで、独特の浮遊感と緊張を生み出す。最初は少し戸惑いを覚えるかもしれないが。しばし音に身を浸らすならば、中毒性の高い世界へトリップすることができる。
“Piiano”は、加工されたピアノ音を中心に据えた、ミニマルでやや不穏な電子音響トラックだ。ピアノの音自体は断片的にして洗練されたコードで、はっきりした旋律というより〈音の粒〉として扱われ、その周囲をノイズまじりのエレクトロニクスが渦巻く。サウンド設計は、巧みな音色の掛け合わせと相まって、時間感覚が拡張されたようなドローン的質感が心地よい。
“Dia”はかつてのハドソン・モホークあたりを想起させるようなWonkyさがあり、エレクトロニック・ミュージックの文脈やフォーマットを昔から追いかけてきた感触を与えてくれる。アブストラクトになりすぎず、ユーモアを失わないバランス感覚も見事で、トリップ感覚とポップな高揚感が共存している。
全体として5分未満のコンパクトなトラックが多く、それぞれに様々な意匠が聞き取れるのも嬉しい。前作で培ったサウンド・デザインの技術や経験値が本作でより自由な形で結実しているのだろう。それを経たからこそ、小品志向の中でも、クリエイティヴィティや遊び心を自在に発揮できるようになったのかもしれない。彼をよく知るミュージシャンからタイヨンダイは、アーティストとしての自身の欲求にどこまでも忠実でありながら成功し続けた〈プリンス〉のような存在なのだ、と聞かされたことがあるが、本作にはまさにそう思わせるだけの別格の充実感が漂う。このアルバムを携えた11月の来日公演でも、フロアを強く揺さぶることになるだろう。
タイヨンダイ・ブラクストン(Tyondai Braxton)
エクスペリメンタル・ロック・バンド、バトルスの元メンバーで作曲家、プロデューサー、そして教授としての顔も持つ現代音楽家。ワシントン・ポストから〈過去10年、最も評価の高い実験音楽家の中の一人〉と称賛され、オーケストラ音楽とも共演するなどジャンルの垣根を超えた活躍をしている。 2012年には〈ATP I’ll Be Your Mirror〉フェスティバルでフィリップ・グラスとコラボレーション。
LIVE INFORMATION
TYONDAI BRAXTON JAPAN TOUR 2026
2026年11月24日(火)東京・赤坂 草月ホール
開場/開演:18:00/19:00
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15888