前回のブログはおかげさまで多くの方にご覧頂けた様で、Mikikiアクセス・ランキングで1位の日もあった様です、ありがとうございます。
前回はタワレコのアヴァンギャルド・コーナーについて、New ageコーナーはどんな成り立ちで、どんな音楽を置いているのかという内容でした。
今回はさらに立ち入って、新宿店New ageコーナーの特徴の1つ、現代音楽をコーナー内に何故隣接させているか?という点について、ライヒとミニマル・ミュージックを絡めながら触れてみたいと思います。
New ageコーナーにはロック、クラブ、ジャズなどの範疇からはみ出した音楽を置いていると前回書きましたが、それが例えばポスト・ロックだったりエレクトロニカだったりフリー・インプロヴィゼーションだったりするんですが、これがことクラシックの世界となると現代音楽に当てはまると思うんですね。
実は活動ジャンルを1つに留めない偉大なアーティストは現代音楽をルーツに持っている場合も多いんです。
著名どころでいうと、例えばマイルス・ディヴィスはシュトックハウゼンの影響を公言(マイルスの72年発表の歴史的名盤『On the Corner』へ影響を及ぼしたと言われています)。ポール・マッカートニー(ビートルズの『サージェント・ペパーズ』ジャケにもシュトックハウゼンは写っています)やビョークらもシュトックハウゼンからの影響を公言しています。フランク・ザッパはエドガー・ヴァレーズが幼少の頃からのヒーローだったそうです(少年時代のザッパが最初にお金を貯めて買ったアルバムはヴァレーズだった!)。そして、現代音楽の演奏で有名なアンサンブル・モデルンがザッパの楽曲を演奏したアルバムを発表しています。レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドはペンデレツキなど、現代音楽からの影響を公言しており、実際ペンデレツキとの連名アルバムも発表しています(その昔ドン・チェリーもペンデレツキと連名でアルバムを発表していました。これは、現代音楽とジャズやロックが接近した時代のドキュメントとして貴重である事、また、ペンデレツキのトーンクラスターとフリージャズの喧騒の音響の親近性も関係があると個人的には捉えています)。
そして今回メインに取り上げるのは、新作をリリースしたばっかりのミニマル・ミュージックの先駆者にして御大! 最大の人気作曲家スティーヴ・ライヒです。
今回の新作は何とライヒがレディオヘッドを再解釈した楽曲が収録されているんです!
レディオヘッドの2曲“Everything In Its Right Place”“Jigsaw Falling Into Pieces”からインスパイアを受け、部分的にはモチーフも取り入れつつ新曲“Radio Rewrite”(2012)を作り上げています。
ちなみに演奏している団体Alarm Will Soundはエイフェックス・ツインのアコースティックカバーなんて事もやってます。
そして、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドがライヒの代表作の1つ“Electric Counterpoint”(1987)を演奏した音源も収録!
この楽曲は元々パット・メセニーに捧げられ、彼の演奏による録音も存在しています。
ミニマル・ミュージックは、1960年代以降、複雑化しすぎた現代音楽の世界へ疑義を投げかけた様な形で登場しました。
無調の現代音楽の多くが複雑怪奇な構造を持つのに対し、ライヒの音楽はたった1つの短いフレーズだけで構成されていたりします。
分かりやすい例として、初期作品の“Piano Phase”(1967)
この楽曲は1つのフレーズを2台のピアノで少しずつスピードをずらしていく事で、徐々に音響が変化していくという、それまでの現代音楽には無かった視点と音響を提示しています。
そのワンフレーズをカット&ペーストした様な作風は後のテクノの元祖としても高い評価を得る事となります。実際テクノのアーティストはライヒからの影響を公言する人も多く、そんなテクノへの影響が形となったのがこのライヒ・リミックス! ライヒ公認のこのアルバムにはコールドカット、ハウィB、竹村延和、ケン・イシイらが参加し、ライヒの楽曲をリミックスしています。
ライヒと同じくミニマル・ミュージック黎明期より活動する大作曲家フィリップ・グラスの方も同様にリミックス・アルバムがリリースされており、このアルバムはベック(!)がプロデュースを手掛け、コーネリアス、アモン・トビン、タイヨンダイ・ブラクストン、ピーター・ブローデリック、ヨハン・ヨハンソンといったアーティストが参加しています。
PHILIP GLASS Rework - Philip Glass Remixed Orange Mountain Music(2012)
グラスの最大の特徴は畳み掛ける様な分散和音の連打! それが分かりやすい映像はこちら、代表作『浜辺のアインシュタイン』(1976)からの演奏です。
調性には限界がある!と、音に調性の主従関係を持たすのを辞め、1つ1つの音価を細かく定める様な動きを経た現代音楽の世界で何と! 分散和音ですよ!と、こんなパンクな事ってありますか?笑
この映像でも分かる様に、ミニマルの作曲家は他のクラシック/現代音楽の作曲家があくまでも作曲家であるのに対し、自らがプレイヤーとして舞台に立つという点も共通項と言えるでしょう(ピアノ・レッスンのサントラで有名なマイケル・ナイマンが率いるアンサンブルはその名もマイケル・ナイマン・バンド!)。
ここで初期の一般にはあまり知られてないライヒの実験的な作品と、他ジャンルへの派生の例をご紹介しようと思います。
■振り子のための音楽(1966)
これはスピーカーの上にマイクを吊るし振り子運動でマイクを振り、ハウリングが起こるその音の偶発的ズレが音楽作品として提出されています。
これは後のサウンド・アートの先駆けといえるかもしれません。
こういった作品がいわゆるバッハ、ベートーヴェンと同じ歴史上に連なる作品と思うと面白いですね。
また、ベルギーのコンテンポラリー・ダンス・カンパニー、ローザスがライヒの初期作品に振り付けをした「Fase」という作品があります。
複雑化しすぎた現代音楽にミニマルという形で異議を投げかけ、パット・メセニー、ジョニー・グリーンウッドなどジャズ〜ロックの大スターがその楽曲を演奏し、クラブ・シーンへの影響も多大なキャップがトレードマークの笑顔が素敵な(笑)御大!
いや〜かっこよすぎますよね(笑)
最後に個人的にオススメの、ミニマルの時代のドキュメント盤シリーズ〈フロム・ザ・キッチン・アーカイヴス〉をご紹介!
The Kitchenとは、様々な分野の芸術の最先端が研究、発表される1971年に創設されたスペースで、ここで数々の実験的な試みが為されて来ました。〈フロム・ザ・キッチン・アーカイヴス〉とはそこでの貴重な音源をコンパイルして復刻するシリーズで、第1弾としてこの『New Music New York 1979』がリリースされました。今回触れて来たグラス、ライヒはもちろん、メレディス・モンク、ゴードン・ムンマ、トニー・コンラッド等、その筋の人からはもうこれ以上は考えられないくらいのメンツが揃ってます!
VARIOUS ARTISTS From The Kitchen Archives:New Music, New York, 1979 Orange Mountain Music(2004)
第2弾ではライヒの1977年に行われたThe Kitchenでのライヴ録音集! ライヒ自身も演奏に参加しています!
STEVE REICH & MUSICIANS From The Kitchen Archives V2:Steve Reich & Musicians Live 1977 Orange Mountain Music(2005)
今回はライヒを軸に、ミニマル・ミュージックのお話をしましたが、先にも触れた通り、ミニマル・ミュージックは後のテクノ/エレクトロニカの元祖であり、ロック〜ジャズの先鋭的活動を行うアーティストとのコラボや、サウンド・アートや、コンテンポラリー・ダンスといった様々な現行シーンへの上記の様な影響関係がある為、新宿店では現代音楽をNew ageコーナー内に隣接させています(電子音楽や実験音楽も大きな理由なんですが、それはまた別途)。
ミニマルには他にもテリー・ライリー(何と先月来日!)やラ・モンテ・ヤング、といった即興やドローンを主軸としたスタイルから、マイケル・ナイマンやグラハム・フィトキン、といった独自な音楽性を持つイギリスのミニマルや、後の世代のポスト・ミニマルにジョン・アダムスやデヴィッド・ラング、日本では佐藤聰明、平石博一など。さらに若い世代のニコ・マーリー等まだまだ重要な作曲家/アーティストが居るのですが、それはまた別の機会にでもご紹介出来ればと考えています。
ちなみに新宿店New ageにはポスト・ミニマル・コーナー、コンテンポラリー・ダンス・コーナーもありますのでこちらも合わせてぜひご覧ください。
ぜひ、お店でも色々なミニマル・ミュージックをお手に取ってみて下さい。そして、そこから派生する様々な表現へと是非足を踏み入れてみて下さい。
新宿店New ageコーナーは10Fにございます。ぜひご来店お待ちしております。