ティーンエイジの衝動をもう一度――憧れのヒーローたちを招き、カオスの中にある昂揚と美しさを鳴らしたニュー・アルバム『Pylon』が完成! 悲しみや不安、多くの最悪な感情を受け入れて彼女が立つ現在地とは?

遠くで鳴るカオス

 「今回の自分は、19歳の頃にオルタナティヴ・ロックを作っていた自分にこれまででいちばん近かったんじゃないかな。その志向性が、いまの自分が感じていたことに合っていたんだと思う。『Pylon』はカオスを受け入れることについてのアルバムだから、プロダクションにもカオスを取り入れるのが自然だったの」。

 4作目となる『Pylon』のモードについてそう語る、ロンドン育ちのビーバドゥービーことベアトリス・ラウス。ペイヴメント、スマッシング・パンプキンズ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインといったオルタナティヴ・ロックのクラシックからの影響を公言し、新世代のギター・ポップを牽引する存在として注目と人気を集めてきた彼女だが、繊細なソングライティングにフォーカスした前作『This Is How Tomorrow Moves』(2024年)を経て、『Pylon』はダイレクトに90年代オルタナ・サウンドを轟かせる一枚となった。

BEABADOOBEE 『Pylon』 Dirty Hit/ユニバーサル(2026)

 リード・シングル“Sun Has Set”のノイジーなギターによく表れているように、ラフでワイルド。もちろん、ビーバドゥービーらしいデリケートなメロディー・センスは健在だが、ラウドで激しいギター・ロックの要素が印象に残る。なんでもツアー中に抱いた孤独感が関係しているそうだが、それは10代のときの感覚を思い出すことでもあったという。

 「10代の頃に感じていた〈カオスのなかにある高揚感〉みたいなものがすごく恋しかった。私は昔からすごくエモーショナルな音楽を作ってきたし、そもそもミッドウェスト・エモが大好きで、切ない歌詞や言葉だけじゃなく、ギターの音そのものに心が張り裂けるような感覚を持たせるにはどうすればいいんだろうって考えてきた。だって、そこには美しさがあると思うから。最初のアルバムでもそれがすごく大きな要素だったことを覚えていて、今回はもう一度そこに触れたかった」。

 〈エモ〉はこの『Pylon』において特に重要なキーワードだ。“It’s Alright”や“Satellite”で顕著なメロディーの切なさとギター・サウンドの激しさのコントラストは、エモの定型と言えるだろう。

 「今回、特に惹かれていたのは、汚れているように聴こえるんだけど、実際にはすごくクリーンな音。それはたぶん、エモからかなり影響を受けてるんだと思う。いい感じのテレキャスターの音というか。あと、『Pylon』にはすごくメロディックなギター・パートがたくさんあるから、それをしっかり聴かせたいっていうのはあったかな。ファズで全部埋もれさせたくないっていう気持ちがあったと思う。曲のなかにカオスがあること自体は大好きなんだけど、そのカオスが少し遠くで鳴っているような、目の前に押しつけてこない感じが特に好きで。あと、聴いている人に実存的な感覚を抱かせるような音にもすごく夢中になっていた。歌詞でそういう気持ちにさせることはできるけど、不協和音だったり、奇妙でロボットみたいな音だったり、音そのもので、どうやってリスナーにある感情を引き起こせるんだろうっていうのに興味を持ったんだよね。今回は、歌詞でも、ギターでも、プロダクションでも、とにかくあらゆる部分に感情を込めることに夢中になっていった。聴いた人に、それがはっきり伝わるものを作りたいと思ったの」。

 

ちょっと歪で美しい

 ちなみに彼女にとっての最高のエモ・バンドを尋ねると、迷いながらも90年代のエモを代表するテキサスのバンド、ミネラルを挙げてくれた。

 「初めて聴いたとき、本当に衝撃を受けたのを覚えているから。そして、ミネラルを聴いたときに自分が感じたものこそ、『Pylon』を聴く人にも感じてほしいものなの。それはけっして気持ちいい感覚ではないんだけど(笑)。最悪な気分になるし、悲しくなるし、不安になる。でも、そのカオスを全部受け入れることのなかに、ある種の安心感がある。それって、ちょっと変な意味で美しいと私は思う」。

 『Pylon』は数々のゲストが参加しているのも話題だが、いずれもアルバムにとって必然性のある合流になっている。最初に注目したいのは、“Nothing To Prove”に登場するパラモアのヘイリー・ウィリアムズ。ポップ・パンク・シーンのフィメール・アイコンとして近年ますます存在感を高めている彼女が、アルバムでも随一のキャッチーなナンバーで華やかなコーラスを聴かせている。

 「彼女は私のお手本そのもの。本当に最高にカッコいいロッカーだし、自分を曲げない人だと思う。彼女も音楽業界でロックをやっている存在で、私たちにはすごく似た経験があって、そのことで意気投合したの。そして、それがこの曲のテーマにもなってる。ヘイリーと一緒に作業するのはすごく自然で……、もちろん緊張もしたけど(笑)、本当に刺激的な経験だった」。

 一方、よりダウナーなトーンを帯びた“Powerlines”で歌うのはターンスタイルのブレンダン・イェーツ。彼の表現にはずっと感銘を受けてきたそうだ。

 「ターンスタイルはずっと大好きなバンド。私は昔から、カオティックなサウンドの上を男性ヴォーカルが舞い上がっていくような音楽にすごく惹かれていて。ブレンダンはまさにそれをやっていると思う」。

 それ以外にもパイングローヴのエヴァン・スティーヴンス・ホール、デフトーンズのチノ・モレノ、タイトル・ファイトのシェイン・モランといったエモやその周辺のオルタナな顔ぶれが集まっているが、あくまで彼らの音楽に対する敬意に基づく共同作業だったとのこと。

 「エモからかなり影響を受けたアルバムを作っていたから、彼らに参加してもらうのは自然だったんだと思う。同じ時間を過ごせるだけで最高だった。彼らがどんな音楽から影響を受けて、何に刺激されていまの活動をしているのか、たくさん学ぶことができた。それがすごく興味深かったし、自分自身が心から好きだと思えるアルバムを作るうえで、本当に大きなモチヴェーションになったの」。

 総じて『Pylon』は、彼女が音楽を志したときの想いを再訪し、文字通りのエモーショナルなギター・サウンドでそれを鳴らした作品だ。そして、本作でもっとも解放できた感情を訊くと、〈怒りとフラストレーション〉だという。

 「前作では、そういう感情をほとんど出していなかったから。今回は、そこに触れることができてよかったと思う」。 *木津 毅

ビ―バドゥービーの作品を紹介。
左から、2024年作『This Is How Tomorrow Moves』、2022年作『Beatopia』、2020年作『Fake It Flowers』(すべてDirty Hit)

ビーバドゥービーの参加作。
左から、2026年のコンピ『HELP(2)』(War Child)、ブラックスターキッズの2022年作『CYBERKISS*』(Dirty Hit)、ケイヴタウンの2022年作『Worm Food』(Warner)

 

『Pylon』の〈エモ〉さをブーストさせた面々の作品でエモくなろう!!

TITLE FIGHT 『Floral Green』 Side One Dummy(2012)

プロデュース/作曲/ギター演奏など『Pylon』を広く支えたシェイン・モランを擁するこのバンドは〈第4波エモ〉周辺で存在感を放った4人組。現在、バンドは活動休止状態にあるが、この2作目はヒリヒリとした感覚と沈鬱さを生々しく鳴らした傑作だ。

 

BASEMENT 『Wired』 Run For Cover(2026)

タイトル・ファイトの関連アーティストとしてサブスクに表示されたことで、ベアトリスは存在を知ったというUK産エモ・バンドは、今春に8年ぶりの新作を発表。フロントマンのアンドリュー・フィシャーは『Pylon』にて4曲にコーラスで参加している。

 

HAYLEY WILLIAMS 『Ego Death At A Bachelorette Party』 Post Atlantic(2025)

パラモアを率いる〈エモ〉の女王は“Nothing To Prove”に作曲とバック・ヴォーカルで貢献。酩酊感を湛えたサイケ~シューゲイザーな同曲は、それまでのソロ作よりもロック・バンド回帰していたこの最新作のモードとも遠くないはず。

 

TURNSTILE 『Never Enough』 Roadrunner(2025)

“Powerlines”に歌声を重ねたブレンダン・イェーツが在籍するボルチモア発ハードコア・パンクの5人組。多様な音楽性を混ぜつつ、濁りなく澄み切ったサウンドに濾過した本作は、この先〈エモ〉の景色を変えていく一枚になりそう。

 

DEFTONES 『Private Music』 Reprise(2025)

『Pylon』のなかでもひときわ重たいメランコリアを漂わせる“Satellite”でバック・ヴォーカルに招かれたのはデフトーンズのチノ・モレノ! 静と動の対比が激しい楽曲に芯を通すかのような彼の叫びは、本隊の最新作でも繊細にして、痛いほどに鋭い。

 

PINEGROVE 『11:11』 Rough Trade/BEAT(2020)

パイングローヴのエヴァン・スティーヴンス・ホールは、作曲にも関わった“Spark”を含む3曲にギターなどでクレジット。この5作目では、持ち前のフォーキーさを下敷きにエモ由来の切実さを織り交ぜ、フラジャイルな感傷をくっきりと描いた。 *田中亮太