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ドラマーが全員、アクが強いんですよ

――では続きまして、“フィラメント”。

「これはわりとパワーがある曲かなっていう」

――そうですね。サウンド的には歌謡ハード・ロックといいますか。

「最初はそういう感じじゃなかったんですけどね。でも、結果的にはなんだか知らないんだけど、(レッド・)ツェッペリンみたいな感じに」

【参考動画】レッド・ツェッペリンの69年作『Zed Zeppelin II』収録曲“Whole Lotta Love”

 

――ツェッペリンと演歌じゃないですけど……。

「たぶん、歌詞と節回しがそうなっちゃってるんですよね。なんか、〈お水の花道〉みたいな歌なので。よく言うじゃないですか。〈酒飲んで稼いで〉って。そんなこと言うんだったら、酒飲んで稼ぐってことがどれだけ大変かやってごらんよ、っていう。すっごい大変なんだよ、お水って。全部が全部ではないかもしれないけど、真面目にやってる人だってすごいいっぱいいるわけですよ。少なくとも、僕の周りでお店やってる人なんて、みんな真面目だし、この曲はどっちかっていうと歌舞伎町のことなんですけど、やっぱ、清濁併せて、どちらも呑み込んだうえで、とてもパワーを感じるんですよね。悪いところもいっぱいあるかもしれないけど、それも含めてリスペクトするなって。そういう曲です。〈フィラメント〉って、電球って、切れたら終わりじゃないですか。そういうテンション感で生きてる人たちだなって」

――私はそういうパワーのなかに、演歌に近いものを感じたんですよね。情念というのかな……。

「情念と言っても差支えはないですよね。わりとその、重い気持ちみたいなものは入ってると思うので。どちらかというと薄暗い感じではあるんでね。薄暗さのなかに凝縮したパワーが入ってるっていう……すごいですね、昔なら全然こんな話しなかったのに。〈凝縮したパワー〉ですって(笑)」

――いいじゃないですか(笑)。ということで次に移りますが、続いては“あの人はもう来ない”。

「これは、ちょうど書いてる時期にうちの祖母が亡くなりまして。大往生だったんですけど、97歳だったんで。でも、やっぱり自分と同じDNAを持ついちばん古い人が亡くなるっていう物悲しさみたいなものが、自分のなかのどこかにはあったんでしょうね。こういう歌詞を書くつもりではなかったんだけど、気が付いたらこうなっちゃってた。気が付いたら生き死にの歌になってたっていう」

――はっきり語られてはいないですけど、死別の歌だなというのはわかりますね。

「それは、はっきり言わなかったんです。でも、読めばちゃんと意味はわかるかなって。そういうときだけ神頼みしても無理なんですよっていう」

――サウンド的にもギターのキラキラした音色ですとか、リヴァーブもリヴァースもすごく効果的で、詞世界にフィットした音像が印象的です。

「音像以前に、やっぱりTetsuD'ERLANGER)さんが叩いてくれたのが大きいなっていう。最初はキュアーの“Love Song”みたいなイメージだったんですよね。もっと淡々としたエイトビートで、〈キュアー好きです〉みたいな感じだったんですけど、Tetsuさんの解釈で、リムショットから始まって、Aメロはまるまるリムみたいな感じになって。もう、リズムで想定外にドラマティックになっちゃったんですよ。物凄く良くなっちゃって。だから、ドラムに合わせて歌詞もメロも変えちゃったんです。最後のほうでハーフになってるでしょ? そこで、唐突な何かがあったみたいな感じの歌詞にしたほうがいいなっていう。だから、これはTetsuさんのおかげで出来た曲です」

【参考動画】D'ERLANGERの2013年作『#Sixx』収録曲“Beast in Me”

 

――この曲のドラムは、そもそもどうしてTetsuさんに?

「Tetsuさんには、ホントはすっごい速い曲をお願いしたかったんですけど、そしたら石井さんが僕より先に速い曲を作っちゃったんですよ、“脳核テロル”を。それをSATOちに叩かせちゃったから、それでまたTetsuさんに速い曲を叩いてもらったら、速い曲が2曲になっちゃうしな~、って。じゃあ、もういっそのこと対極でってことで、他にTetsu さんに叩いてもらいたいD'ERLANGERの曲でイメージが近かったのが、“SAD SONG”(90年作『BASILISK』収録)だったんですよ。すごく良いんですよ、この曲が。それでお願いしたら、〈“SAD SONG”を叩いてください〉っていう注文は一言も言ってないにも関わらず、すげえ“SAD SONG”が上がってしまったっていう。Tetsuさんのレコーディングの日って、“颯爽たる未来圏”“あの人はもう来ない”の順だったんですけど、もう〈未来圏〉のときから〈うわーっ!〉って感じだったんですよ。感動しかない」

――ダイナミックなドラミングで。

「みんな、Tetsuさんのことをダイナミックって言うんですけど、違うんですよ。もう繊細なんですよ。〈未来圏〉のうしろのタムを回したりするところもそうなんですけど、とにかく繊細。優しい、音が。現場で感動しました。Tetsuさんがフルセットを持ってきてくれたんで、大喜びでドラムと記念撮影しちゃいましたよ(笑)」

――もはやキッズですね(笑)。そしていよいよラストですが、“さよならだけが人生さ”。

「あの……僕、昔“グッド・バイ”という曲を作ってるじゃないですか。あれは二十代の頃の曲なんですけど、そこで書いた〈お別れ〉をもうちょっと発展させたものを作ろうかなって思ってたら、さっきのおばあちゃんの話に戻るんですけど、生き死にのことを考えはじめてしまって、結局もっと大きいテーマになっちゃったなっていう。なんか、出会いってもう別れなんだなってところになってきちゃって。ほんの20年くらい前までは、お別れしたら〈手紙書くから〉みたいな時代だったわけじゃないですか。でも実際はなかなか会うこともないし、会ったら〈懐かしいよね~〉って喜び合うみたいな。いまって、そのへんがだいぶ希薄なんですよ。なぜなら、遠くに行った友達と、毎日のようにTwitterで絡めてしまう。LINEもある。携帯もある。そんな時代ですよ。でも、遠くが近くになったぶん、なんか逆に希薄なんですよ。連絡先を交換したはずなのに、その連絡先がいつのまにか変わってて行方不明とか、ありませんか? 気が付いたら、そういえばあの人っていま何やってるんだっけ?みたいな。いつの間にか消えちゃってる人っているんですよ。どっかにはいるんでしょうけれど、なんだか、昔みたいにお別れってものに対しての感情が薄いっていうか。別れるってそういうことじゃないと思うんだけどなって。いついなくなるかわかんないし、いつ死ぬかもわかんない。一昨年とかだったんですけど、うつ病だった友達が亡くなって、発見されたのが半年後だったんですよ。みんな、うつって知ってたから、あえてこっちからは連絡はしてなくて。そういうこともあるし、ホントに出会ったら、別れが始まってるんだなって。そこを、どう別れるかっていう。井伏鱒二が訳した于武陵の漢詩にもあるじゃないですか。〈花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ〉って。これは、まさしくそうだなって。昔は、〈別れ〉っていうものは物凄く美化されたイヴェントだったと思うんですよね。それは時代が変わっても変わらないはずなのに、最近そうじゃないよなっていうのを憂いて書いてみたっていうのが大きいですね。そこにさらに、タイミング的に祖母の件とか半年後に発見された友達の話と思い出しちゃって、出会いってホント大事にしないといけないなってことを考えつつ、そんな重いテーマでアルバムを締めたくなかったなって思いつつ」

――ただ、私が聴いた印象では、別れがテーマでありながらも、過去の曲に例えるなら“グッド・バイ”であり、“青春狂騒曲”でもあると思ったんですよね。それでも人生は続く、みたいな。前を向いている曲だなと思って。

「うん、それでも人生は歩いて行かなきゃならないっていうね。サビで〈だけど僕は歩く〉ってあるでしょ? ここ、実は〈だけど僕はひとり〉にしてたんですよね。意味合いがだいぶ違いますよね、〈ひとり〉と〈歩く〉だと。そしたら歌録りの際、石井さんが前の歌詞の〈歩く〉のほうで歌ってしまい(笑)。それで何だか前向き感が出たんですよね。譜割が気になってそこの歌詞は決め切れずにいたんだけど、石井さんが歌ったのを聴いたら全然〈歩く〉で違和感がなかったから、もう〈歩く〉にしちゃおうって。でも、こっちで良かったです。まぁ、石井さんにしてみれば〈どっちでもどーでもいい〉みたいな問題ですね(笑)」

――ある種、ポジティヴな印象で終わるアルバムになったと思います。“さよならだけが人生さ”は、メロディーにフィナーレ感もありますし。

「ちょっと、瞬間壮大みたいな感じですね。石井さん、歌い上げてて〈キターッ!〉みたいな(笑)」

――聴後感が軽やかなんですよね。

「石井さんの歌もそうだし、研次郎君のベースもね、毎回ヤバイけど、今回ももうヤバイとしか言いようがないぐらいヤバイんですよ。特に〈ギムレット〉とか、あんなにスラップ飛ばしてるの久しぶりだと思うんですよね。〈カッケー!〉って」

 

 

――今回は、そういうアクの強いプレイをしても浮かないぐらい、全パートのアクが強いですし。

「そうですね。ドラマーが全員、アクが強いんですよ。テクニカルなドラムを叩く上領さんでしょ? 繊細なドラムを叩くTetsuさんに、若さ溢れるエネルギッシュなドラムを叩くSATOちに、オールラウンドで叩けないリズムはないっていう中西君(中西祐二)じゃないですか。すげえな、って。彼にはデモの段階から結構付き合ってもらってたんで、〈こういう感じ〉って言っていろいろ叩いてもらってて。そういや、“さよならだけが人生さ”のリズムは、中西君のアイデアでトレイン・シャッフルになったんですよね。研次郎君にも〈cali≠gariでこのリズムは初めてだよね〉って言われて」

――新しい要素がどんどん入ってきてるっていう。

「“さよならだけが人生さ”は結構難しいんですよね。だからこそ気に入ってますね。特にヴォーカル。このメロディーね、超絶難しいですよ。石井さん、歌えるかなって少々不安だったんですけど、案の定、言われちゃった。〈ないでしょ、あのメロディーは〉って(笑)。Bメロは地声とファルセット行ったり来たりだから、物凄くテクがないと全然歌えないっていう」

 

 

1年後ぐらいには『13』を出したいんですよね

――こうして振り返った『12』ですが、曲ごとに方向性がそれぞれで。

「そうなんです。『11』はある程度、曲を出した段階で隙間を埋める作り方をしていったからトータリティーがあったけど、今回は時間的な問題もあったし、ドラマー的な関係もあって、そういうのができなかったんですよ。だから、このおもちゃ箱感って昔に近いかもしれないですよね。ガチャガチャしてる感じがね。海のものとも山のものともわかってない状態で作ってみたら、〈空〉のものが出来ました、って感じですね。ドラマー4人に同期の“バンバンバン”も入ってるわけだし……ギリギリ感満載な。〈大丈夫なのか? これ〉って思いながら僕……こっちのほうがドキドキでしたよ(笑)。今回はもう、ドキドキもんばっかりなんですよ(笑)。どれもギリギリじゃないですか。これインディーズから出すんだったらいいですよ? メジャーでもビクターだったら過去も出してるから、〈ああきたよ〉って言われて終わりになるけど、今回は初めてコロムビアから出しますからね。ギリギリで申し訳ないって、ちょっとは思ってるんですよ(コロムビアのスタッフ爆笑)」

――まあ、そういうギリギリ感はcali≠gariらしさですから。

「そうですね。ギリギリ感ってやつは僕だけでも毎回詰め合わせたいと思います。皆様のニーズにお応えして(笑)。今回、可愛らしいジャケだから、もうちょっと可愛い感じの曲順にしたかったんだけど、踏み絵から始まっていただけたらって感じですね、ホントに(笑)」

――(笑)。

「でもね、ひとつだけ言わせてもらいたいのは、僕も含めてメンバーは3人ともすごい常識人なんですよってことで」

――そこは、言ってしまっていいんですか? なんというか、バンドのイメージがあるじゃないですか。ちょっと変わった人の集団といったような。

「それはね、すいませんけれど、我々以外の周りの方々が勝手に思ってくれてるイメージなので、なんだって構いませんよってところはあるんですけど。少なくても僕は他の2人と違ってアーティスト感を全面に出す気はないし、復活したときから変わらず、普通に、仕事として、お金のために音楽をやっているんですよ」

――そんなことをおっしゃいますけれども……バンドのいまの状況は、〈音楽に向かったゆえ〉ですよね?

「それに対して〈うん〉って言ってしまうと……でも、きっとそうなんですね。まあ、誠君(武井誠)がいたら、誠君がいるcali≠gariの音楽が作れたんですよ。でも、どうしても『12』のようなアルバムも作りたかったんですよね、音的に。だから、いまの状況は自分たちのせいです。〈こういう音楽を作りたいんだけれど、誠君はどうする?〉みたいな。そういうことですよ」

――では、この先のことって何か考えてらっしゃいます?

「とりあえず、当分ドラマーは要らないかな、と。石井さんと研次郎君は欲しがってますよね。まあ、どうなるかわからないですけれど、今回いろんなドラマーさんとやってみて、ホントにおもしろかったんですよ。どれもまったく想定してなかった曲になったっていう。そのドキドキ感は癖になりますよね。だから、しばらくはいろんなドラマーの人と……やっぱり曲を優先に考えるんだったら、そういう考え方はなきにしもあらずなのかな?って最近ちょっと思ってますね。うちは昔から、このメンバーで一枚岩なんです、っていうバンドではないので。それよりはやっぱり、いまいる3人で、こんな曲もあんな曲もやってみたいっていうのがまだまだあるし、その曲に合わせてこのドラマーがいたりだとか、うん。なんか、YUKARIEさんとか秦野さん(秦野猛行)とかと仕事するようになってから、それはより明確に感じたんですよね。正直」

――外の方とやることによって生まれるもの。

「そうですね。今回だって、ドラマーが4人いるってことは、CD一枚のなかで、4つのバンドが聴けるってことで。それってすごいと思うんですよ。それを、あまりバラつきのない感じでまとめてる白石さん(白石元久、エンジニア)もすごいんだなって感じました。秦野さんのシンセもすごいし、YUKARIEさんのサックスもとんでもないし、どれもカッコイイんですもん」

――どんなスタイルになるにせよ、今後の活動も楽しみにしてます。次作までにまた3年空かないと嬉しいんですが(笑)。

「次はね、早々にポンポンって出していきたいと思ってますよ。1年後ぐらいには『13』を出したいんですよね」

――ホントですか!? 

「だって、次も3年後っていうのはヤバイじゃないですか。だからホントです。ホントに僕はそう思ってますよ」

 

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