ワーナー・クラシックス〈オリジナーレ〉シリーズ第一弾40タイトル、3月11日に発売!!
TeldecとEratoの音源から、80タイトルを2か月連続で!

 ワーナー・クラシックスからオリジナル楽器録音の壮大なコレクションが発売される。シリーズ名はズバリ〈オリジナーレ〉である。ワーナー・クラシックスは2013年に旧EMI系のクラシック音源が加わる大所帯となったが、このシリーズでは旧EMI系の音源は全く用いていない。1988年に傘下に収めたドイツのTeldecレーベルと、1992年に傘下に収めたフランスのEratoレーベルの過去音源だけで全80タイトルのラインナップが出来上がったのである! いかに両レーベルがオリジナル楽器録音に熱心であったかが判るだろう。

 〈オリジナル楽器〉とは、作曲家が生きた時代、その楽曲が生まれた時代の楽器のことを指す。ご存知のように、楽器は現代と名称は同じでも材質や形状、機構などが時代とともに変化しており、音量や音色などにかなりの違いが見られる。また、奏法やピッチにも時代や地域による違いがあり、こうしたこと全てに時代考証の光を当て、作品の本質に迫ろうとするのが〈オリジナル楽器〉を用いる奏者たちの立場である。

 Teldecは、Telefunkenと名乗っていた時代の1958年にDas Alte Werk(ダス・アルテ・ヴェルク)という古楽専門レーベルを立ち上げている。設立当初からレオンハルト、アーノンクール、ブリュッヘンといったオリジナル楽器演奏のパイオニアたちを起用し、他社のアーティストがモダン楽器でバッハやヘンデルを演じる中、早くからオリジナル楽器によるバッハやヘンデルなどを録音し、当時の聴き手に衝撃を与えていた。

 一方のEratoは、独立系レーベルとして1953年にフランスで設立された。芸術責任者のミシェル・ガルサンの下、フランスのアーティストを起用した趣味性の高いLPを数多く制作し、その中心的なレパートリーはバッハ以前の古楽だった。但し、オリジナル楽器録音への取り組みはやや遅く、本格化するのはフランス系以外の奏者を積極的に起用するようになった1980年代以降。中心を担ったのはコープマン、ガーディナー、ロスといった、レオンハルトたちよりも一世代後、かつフランス人以外の演奏家たちである。

 両レーベルには膨大なオリジナル楽器録音が残されたが、CDという商品の性格上、一部有名曲は幾度となく再発売される中、多くの佳作や名演奏が無名の作品ゆえに忘れられ、廃盤となってゆくのは極めて残念なことだった。それを一気に解消するのが〈オリジナーレ〉シリーズ80点なのである。

 第1回発売は3月11日の40点。先ず目を引くのがイタリアの鮮烈なアンサンブル、イル・ジャルディーノ・アルモニコのデビュー当時の衝撃作が5点入っていること。エッジの効いた表情やリズムが圧巻で、ヴィヴァルディやバッハが猛烈にリフレッシュしている。これはオリジナル楽器によるロックだ。

イル・ジャルディーノ・アルモニコが演奏したヴィヴァルディ作曲“Four Seasons(四季)”より“Winter”

 〈鮮烈〉という意味ではドイツのコンチェルト・ケルンも負けていない。モーツァルトのライバル、サリエリとメンデルスゾーンの協奏曲で、輝かしい響きと一糸乱れぬアンサンブルを聴かせてくれる。共演のフォルテピアノ奏者、シュタイアーの多彩な音色とニュアンス豊かな表現力も素晴らしい。

 フォルテピアノではリュビモフによるベートーヴェンとショパンの詩情あふれる演奏も聴き物だ。シュタイアーとリュビモフが共演したスリリングなシューベルト/4手のためのピアノ作品集も久々に復活する。

 Eratoの80年代を支えた3人も揃い踏みしている。イギリスの古楽指揮者ガーディナーは5点で、中でもヘンデルのバレエ音楽集とD.スカルラッティのスターバト・マーテルは四半世紀ぶりに復活する極めて貴重な音源である。オランダの鍵盤楽器奏者、指揮者のコープマンは3点、フォルクレのクラヴサン作品集、バッハの宗教歌曲集、シャルパンティエの二重合唱のための宗教曲集、何れも世界的に廃盤となっている貴重盤である。38歳で亡くなったアメリカの天才鍵盤楽器奏者、スコット・ロスは1点だけだが、ダングルベールの作品集がはやり久々の復刻となる。

 そのロスに師事した曽根麻矢子が2点入っているのも嬉しい。バッハのトッカータ集はロスの教えが活きた美しく魅力的な演奏。それ以上に『ジュ・レーム~チェンバロに恋して』と題したアルバムは、チェンバロ音楽を一般に普及させようとする彼女の真骨頂だ。バッハに始まり、フランス、イタリアの作品を経てカタロニア民謡に至り、またバッハへと戻る選曲と演奏は、楽しさの極みである。

曽根麻矢子の97年作『ジュ・レーム~チェンバロに恋して』収録曲“一つ目の巨人”のパフォーマンス映像

 エラートが90年代にアメリカ出身のクリスティと彼がフランスで立ち上げたレザール・フロリサンを起用してクープラン、シャルパンティエ、モンドンヴィルを録音したのも、当時のフランスの古楽界を映しているようで興味深い。何れもクリスティの精緻なコントロールと澄み切った音楽性により初出時に高い評価を得た録音である。

 4月8日発売の第2回40点は更に秘曲が並ぶ。男性声楽アンサンブルのア・セイ・ヴォーチによるフランス・ルネサンス作品2枚は、他に国内盤を求めえない珍しい、そして貴重な作品集だ。

 先に挙げたコープマン指揮では1982年に録音されLPレコードで親しまれたモーツァルトの歌劇「魔笛」全曲が世界初CD化で入っている。これはオリジナル楽器と時代考証的演奏による初の「魔笛」録音で、演奏の質も高い必聴盤だ。また、初演の地、ザルツブルク大聖堂で録音されたビーバーの超大作“53声部のミサ曲”も見逃せない1枚だ。

 他にもレオンハルト、スグリッツィ、ロス、カーティス、シュタイアーといった新旧鍵盤楽器奏者の名盤CDがズラリと並び、アメリカの男性合唱団シャンティクリアによるメキシコ・バロック、日本の古楽器アンサンブル、タブラトゥーラによる中世の吟遊詩人を思わせる音楽など、実に幅広い選盤がなされているが、その80点の掉尾を飾るのが日本のバロック・ヴァイオリン奏者、ヒロ・クロサキによるモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ全集となっているのが何とも嬉しい。発売から20年が経過したが、いまだにこれに勝るオリジナル楽器によるモーツァルト演奏は見いだせないほどだ。手に入りにくい時期もあっただけに、ご興味のある方はお見逃しのないよう。

 全80点に日本語解説が付き、声楽曲には歌詞対訳が付くので、今回のCDは日本語文献としても極めて貴重なリリースとなっている。コレクター目線でアドバイスすれば、(1)他にCDの少ない珍しい作品であること、(2)対訳が求めにくい声楽曲であること、この2点をポイントに優先順位をつけていくと良いと思う。

 CDのフィジカルとしての意味や有難さを、これほど実感させてくれるシリーズはないだろう。

★ワーナー・クラシックス〈オリジナーレ〉シリーズ タワーレコード特設ページ